日本では、選挙で代表者となる議員を選び、選ばれた議員に政治を託しています。
これを「間接民主制」と呼びます。
しかし、なぜ「国民投票」などにより直接的に政治参加する「直接民主制」ではなく、「間接民主制」を採用しているのでしょうか。
多くの国で「間接民主制」が採用されている理由や、実は日本においても一部導入されている「直接民主制」についてなど、わかりやすく解説します。
間接民主制と直接民主制
国民が選挙によって選んだ代表者に政治を委託する制度を「間接民主制」と呼びます。「代表民主制」「議会制」または「代議制」とも呼ばれます。
相対する用語は「直接民主制」です。主に「国民投票」という手段を通じて、国民が直接的に意思を表明し、政策決定や立法を行う制度です。
現代国家においては基本的に「間接民主制」が採用されています。
多くの国で間接民主制が採用される理由
なぜ、多くの国で「間接民主制」が採用されているのでしょうか。
「現代国家では、決定すべき事項が複雑多岐にわたり、また有権者の数も非常に多いため、直接民主制を採用することは技術的にも著しく困難である」(衆議院憲法審査会ウェブサイトより)というのが一つの大きな理由のようです。
確かに、多岐に渡る政治的議題の一つひとつについて国民全員の意見を募るには、多大な時間と労力を要するであろうことは想像に難くありません。
また、以下のような見解もあります。
「議案が一般国民には理解できないほど専門的すぎる場合には、投票は真に国民の意見を代表するものではなくなる」
「議題があまりにも一般的すぎる場合には、国民は気分で投票することになり、ポピュリズムに陥る危険性がある」
総合すると、「間接民主制」は「直接民主制が機能し難いほどに有権者が多く、また意思決定すべき事項が多岐に渡る中でも、現実的な範囲で民意を反映させつつ物事を前に進めていくのに適した政治制度である」と判断できます。「メリット」と読み替えても良いかもしれません。
また、「政治家」という、政治に精通した「専門家」を通じて、一つひとつの事項について可能な限り議論を深めることで、思い付きや気分、または表層的な判断で意思決定がなされることを防ぎやすくなる、という面もあると判断できます。
一方で、「間接民主制」の短所、あるいは「デメリット」としては、どのようなことが挙げられるでしょうか。
多数決で選ばれた代表者が、多数決で物事を決めるのが「間接民主制」です。
国民の直接的な意思表明に基づく「直接民主制」以上に、少数派の意見が政治決定に取り入れられないケースが出てきてしまうであろう点が、短所、あるいは「デメリット」と言えそうです。
直接民主制を採用している国
「間接民主制」が多くの国で採用されている背景は大まかに理解できましたが、「直接民主制」を採用している国は、現代においては皆無なのでしょうか。
「直接民主制」と言われている国に、スイス連邦があります。
実際には、「間接民主制」の側面も持ち合わせていますが、他国と比較して国民が直接的に政治に参加する機会が多い(*)ため、「直接民主制」と整理されているようです。
(*)スイスでは「国民が連邦議会議員を選出し、その議員たちが連邦内閣閣僚を選出して法律を制定」(スイス公共放送協会国際部ウェブサイトより)します。同時に、年間約4回、約15件の案件について国民投票が行われるようです。
また、「直接民主制」と整理されるスイスほどではなくとも、欧州諸国においては、「代表民主制・議会制民主主義を補完する制度として、個別の問題に関する一般的な国民投票制が採用されて」(衆議院憲法審査会ウェブサイトより)います。
日本国憲法が採用する直接民主制
欧州諸国のように一般的な国民投票制度は整備されてはいませんが、日本においても、実は一部「直接民主制」が採用されています。
日本国憲法が採用する直接民主制は、以下の3つです。
- 憲法改正に際しての国民投票(96 条)
- 最高裁判所裁判官の国民審査制度(79 条)
- 地方自治特別法の制定に際しての住民投票(95 条)
国政レベルの国民投票は1と2に限定されており、それぞれ詳細は以下の通りです。
- 憲法改正に際しての国民投票:
国会で衆参各議員の総議員の3分の2以上の賛成を経た後、国民投票において過半数の賛成が必要 - 最高裁判所裁判官の国民審査制度:
国民審査は、最高裁判所の裁判官がその職責に相応しいかどうかを、国民が審査する制度です。衆議院選挙の投票日に実施されます。任命後初めて行われる衆議院選挙の投票日に国民審査を受け、この審査の日から10年経過後に初めて行われる投票日に再審査を受けます(以後も同様)。
「国民審査」については、過去に経験したことがある方も多いかもしれませんが、「憲法改正」は、日本国憲法が制定されて以来、一度もなされていません。
一般的な国民投票導入に関する是非
憲法改正や最高裁判所裁判官の国民審査などに限られている日本の「直接民主制」について、一般的な国民投票制度を含む制度に拡大すべきではとの意見もあります。
背景には、ITの発展により、より少ない手間やコストで、国民の意見集約ができるようになってきた、などの点が挙げられます。以下、「衆議院憲法調査報告書」(平成17年4月)より、過去に行われた議論の一部を紹介します。
- 国民投票制度を導入すべきであるとする意見
- 価値観が多様化するなかで、様々なニーズや意見を反映させていくために、国民投票制度を導入すべきである。
- 議会政治を補完するためにも、国民投票制度を導入すべきである。
- 住民主権の延長線上に国民主権があり、その意味で、住民投票が既に規定され、実効性を上げてきていることから、住民投票を精査した上で、その延長線上に国民投票を国会の責任として位置付けていくべきである。
- 国民投票制度を導入することに慎重な意見
- 民主主義の本質は討論にあり、ほとんど審議することなく大勢の住民に突然イエスかノーかの問いかけをし、結論を求めるやり方は民主主義に反する。
- 政策的な一貫性に欠け、また、政策を決定するために必要な情報を提供するシンクタンクを有しない有権者が、どれほど有意な提案や投票ができるのか、危惧を抱かざるを得ない。
- 国民投票の範囲は、最高裁判所裁判官の国民審査制度や憲法改正の国民投票に限定すべきである。
同報告書からは、実現にあたり、どこまでを国民投票の対象とするのか、結果に対してどのような法的効果を認めるのか、など、議論を深めなければならない点がまだまだ伺えます。
まとめ
- 国民が選挙によって選んだ代表者に政治を委託するのが「間接民主制」
- 主に国民投票という手段を通じて直接的に意思を表明し、立法や政策を決定するのが「直接民主制」
- 「現代国家では、決定すべき事項が複雑多岐にわたり、また有権者の数も非常に多いため、直接民主制を採用することは技術的にも著しく困難である」等の背景から、現代国家においては基本的に「間接民主制」が採用されている
- 例外として、スイスは「直接民主制」と言われている。スイス以外の欧州諸国でも、個別の問題に関する一般的な国民投票制が採用されている。
- 日本においても、欧州諸国ほどではないが、憲法改正などにに際して、一部直接民主制が採用されている
- 一般的な国民投票制度を含む「直接民主制」について、日本においても導入すべきではとの意見があり、過去にも議論が行われている。
<参考>
衆議院憲法調査会事務局|「直接民主制の諸制度」に関する基礎的資料
間接民主制とは – コトバンク
直接民主制とは – コトバンク
参議院憲法審議会|日本国憲法に関する調査報告書|2 国民主権と民主主義制度の在り方
【中学公民】「間接民主制と直接民主制」 | 映像授業のTry IT (トライイット)
スイス公共放送協会(SBC)国際部|特集「直接民主制:その長所と短所」
白石大使の活動報告コメント:「青空集会に直接民主制の原点を見る」
スイス公共放送協会(SBC)国際部|直接民主制
スイス連邦外務省|直接民主制
スイス公共放送協会(SBC)国際部|国民投票が形作る欧州統合プロジェクト
憲法って何? なぜ70年以上変わらないの? 超解説
衆議院憲法調査会|衆議院憲法調査会報告書 (抜粋)
総務省|国民投票制度
総務省|国民審査|制度のポイントを知ろう!
総務省|住民参画システム利用の手引き|導入検討編|12. 議会との関係
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