円安とはどういう状況?メリットや原因を円高とあわせて解説

円安とはどういう状況?メリットや原因を円高とあわせて解説

2022年現在、歴史的な円安が続いていると話題です。

そもそも円安円高とはどのような状況なのでしょうか。現在は「悪い円安」と言われますが、その原因はどこにあるのでしょうか。

円安・円高のメリット・デメリットや変動相場制について、そして現在なぜ円安が続いているのかについてまとめました。

円安とは

現在の国際通貨体制は変動相場制で、自国通貨と他国の通貨の交換比率(外国為替相場・為替レート)は、需要と供給のバランスによって変化します。

日本の通貨である円が、例えばドルなど他国の通貨に対して価値が上がったり、または下がったりすることを「円高」「円安」といいます。

円安とは、円の価値が安くなる(低くなる)ことです。例えば1ドル=100円から1ドル=120円になると、以前は100円で購入できた1ドルの商品を買うのに120円が必要になります。これは円の価値が下がっているためです。

ドルの立場から見るとドルの価値が高くなっているため、「円安ドル高」ともいいます。

円安のメリット:輸出に有利

円安では、日本からの輸出品が海外で割安になります。そのため、自動車や機械製品などの輸出関連企業にとって有利になるのが特徴です。しかし現在は生産拠点を海外に移している企業が多く、このメリットが少ないとの指摘もあります。

海外から見ると、少ない外貨で日本円の両替や商品の購入が可能です。そのため訪日外国人客によるインバウンド消費の増加や、海外からの日本の不動産投資が増加するなどの利点もあります。

円安のデメリット:輸入に不利、物価高騰も

円安では輸入品の価格が上がるため、輸入に不利です。特に、加工品の原材料や家畜の飼料、製造機械の運転や商品の輸送に使う原油など、供給の多くを海外に頼っているモノの輸入コストが膨らみます。それによって国内で製造している商品の価格も上がり、物価高騰の影響が出る場合もあります。

円高とは

円高とは、円の価値が高くなることです。例えば1ドル=100円から1ドル=80円になると、1ドルの商品を購入する際にそれまで100円必要でしたが、円の価値が上がり、80円で購入できるようになります。

これをドルの立場から見ると、ドルの価値が下がる(安くなる)ことから「円高ドル安」といいます。

円高のメリット:輸入に有利

円高のメリット・デメリットは一般的に、円安の場合の反対と捉えられます。

円高の利点は、日本円で海外のモノを買うとき、安く購入できることです。そのため、輸入に有利になります。

円高のデメリット:輸出に不利、円高不況も

円高の欠点は、海外から日本のモノを買うときに割高になるため、輸出に不利になることです。輸出関連企業には、デメリットが大きくなりやすいと考えられています。

輸出関連企業の業績が悪化し、日本の景気全体に悪影響を及ぼすことを「円高不況」といいます。

固定相場制と変動相場制

現在の国際通貨体制は変動相場制(変動為替相場制)ですが、かつては固定相場制だったこともあります。

固定相場制(固定為替相場制)とは、為替レートを一定の値に固定する制度です。日本では1949年にGHQが1ドル=360円の固定為替レートを設定し、1971年まで固定相場制でした。第二次世界大戦後のこの国際通貨体制を「ブレトン=ウッズ体制」といいます。

1971年、アメリカのニクソン大統領(当時)が金とドルの交換停止を発表し、世界経済が混乱に陥ります。この「ニクソン・ショック」によってブレトン=ウッズ体制は崩壊しました。

1973年に各国が変動相場制に以降し、国際通貨基金(IMF)がこの制度を正式承認しました。ジャマイカのキングストンで開催されたIMFの暫定委員会で合意したことから、「キングストン体制」と呼ばれます。

変動相場制では、通貨に対する需要と供給によって為替レートが変わる仕組みです。円を欲しい人が多ければ需要が増え、円の価値が上がって円高になります。反対に円を売りたい人が多ければ供給が増加し、円の価値が下がって円安になります。

2022年現在の日本は「円安」

2022年9月現在、1ドル=140円を超える大幅な円安が続いています。1ドル=144円台となることもあり、「24年ぶりの円安」などと話題です。1月には1ドル=115円台でしたが、その後急激に円安が進みました。

歴史的な円安の原因

円安が加速する背景の1つは、FRB(米国連邦準備制度理事会、米国の中央銀行)の金融政策です。

米国では、国内で物価が継続的に上昇する「インフレーション(インフレ)」が進み問題になっています。FRBは記録的なインフレに対応するために金融引き締めを実施し、7月には約27年半ぶりに0.75%の大幅利上げを決定しました。今後も利上げが続くと見られています。

金融引き締めとは、景気が過熱している時、中央銀行が利上げなどによって市場に出回る通貨量を調整する金融政策です。反対に、金利を下げるなどして通貨供給量を増やし景気を刺激することを金融緩和といいます。

日本銀行(日銀)は現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響で落ち込んだ経済を回復させるため大幅な金融緩和を続けており、今後も継続する見通しです。

日米の金融政策が対照的なために金利の差が拡大し続けていることが、深刻な円安が進んでいる一因だと指摘されています。

「悪い円安」や社会への影響は?

ここまで見てきたように、円安にはメリットもデメリットもあります。しかし現在の円安は、メリットをデメリットが上回る「悪い円安」だといわれています。

円安の利点である輸出企業の利益上昇は、生産拠点を海外に移している企業が多くなっているため、メリットが得られにくい状況です。また長引くコロナ禍の影響で、外国人訪日客によるインバウンド消費も従来のようには期待できません。

一方で、2022年2月から続くロシアによるウクライナ侵攻により、世界的に原油価格が上昇するなど輸入コストが膨らんでいます。さらに円安によって輸入価格が上昇し、企業にとって原料やエネルギーの費用がかさんでいます。

企業は商品価格を上げざるを得なくなるケースも多く、結果的に物価高となっているのが現状です。

総務省が発表している8月の消費者物価指数(家庭で消費するモノやサービスの物価変動を測定した指数値)は前年同月比で2.8%上昇し、政府や日銀が目標としている上昇率の2%を5ヶ月連続で上回りました。消費税率引き上げの影響を除くと、約31年ぶりの高水準です。

政府の対応は?

7月の参議院議員通常選挙で大勝した自民党は公約に物価高対策を掲げていました。岸田文雄首相も、円安や物価高に対策を実施すると表明しています。しかし現時点では、有効な対策は取られていないと指摘されています。

円安対策として考えられるのは、為替介入利上げです。為替介入とは、政府が大量のドルを売って円を買い、円の供給量を減らして円安に歯止めをかけることをいいます。

9月14日、日銀が為替相場の動向を市場関係者に尋ねる「レートチェック」を実施したと報じられました。レートチェックは為替介入の準備段階と捉えられており、政府や日銀の今後の対応が注目されています。

まとめ

  • 円安とは外貨に対して円の価値が低くなることで輸出産業やインバウンド消費にメリットがあるとされている
  • 円高とは外貨に対して円の価値が上がることで輸入に有利になる
  • 2022年9月現在の日本は急激な円安が進んでいる
  • 輸入コストが増加するなど円安のデメリットが目立ち、物価高の一因となっている
  • 政府や日本銀行の今後の円安・物価高対策が注目されている

 

<参考>
『政治・経済用語集 第2版』山川出版社、2019
『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
円高、円安とは何ですか? : 日本銀行 Bank of Japan
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円安、さらに家計圧迫の恐れ 食品・雑貨、輸入コスト増|小売・流通業界で働く人の情報サイト_ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
円安のメリットはどこへ 輸入コスト増 輸出企業も恩恵減る?朝日新聞デジタル
(いちからわかる!)円安が進んで、影響が出ているんだね|朝日新聞デジタル
金融引き締め|証券用語解説集|野村證券
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