裁判員裁判や法テラス、法科大学院など、裁判や司法をめぐる制度について耳にしたことがあるのではないでしょうか。
これらは、2000年代に実施された司法制度改革で新設されました。
司法制度改革ではさまざまな改善や新しい制度の導入が行われ、司法試験や検察審査会の制度も変更されています。
司法制度改革はなぜ行われ、具体的にどのような内容だったのでしょうか。
本記事では司法制度改革の目的や具体例に加え、その後の司法制度の問題点や現状についても解説しています。ぜひ参考にしてください。
司法制度改革とは
司法制度改革は、2001年に成立した司法制度改革法に基づいて実施されました。2009年までに、複数の新たな制度の導入や既存の制度の改善などが行われています。
改革の目的
政府の司法制度改革推進における「基本的な考え方」は、以下のように記されています。
社会の複雑・多様化、国際化等がより一層進展する中で、行政改革を始めとする社会経済の構造改革を進め、明確なルールと自己責任原則に貫かれた事後監視・救済型社会への転換を図り、自由かつ公正な社会を実現していくためには、その基礎となる司法の基本的制度が新しい時代にふさわしく、国民にとって身近なものとなるよう、国民の視点から、これを抜本的に見直し、司法の機能を充実強化することが不可欠である。
司法制度改革の目的は、自由かつ公正な社会のために不可欠な司法制度を、多様化や国際化が進む時代に応じたものに改め、国民にとってより身近なものとすることといえます。
改革の概要
司法制度改革は、以下の「3本の柱」を掲げました。
- 国民の期待に応える司法制度の構築:裁判の迅速化、法テラスや知財高裁の新設など
- 司法制度を支える法曹のあり方:法科大学院の新設や法曹人口の増加など
- 国民的基盤の確立:国民の司法参加、裁判員制度など
改革の目的は、法的な制度を必要とする人にとってよりアクセスしやすくすることなどが挙げられます。体制を充実させるには、法曹の数を増やすなど人的制度を整えることも必要です。また、国民が司法に参加する機会を増やして理解を深める狙いもあります。
法曹とは、裁判官・検察官・弁護士の3者を総称した呼び方です。
司法制度改革で導入・改正された制度の事例
司法制度改革では法改正や新しい法律の制定により、さまざまな改善や新制度が実施されました。中でも話題になったものの一部を紹介します。
法テラス
法テラスの正式名称は「日本司法支援センター」です。
例えば離婚や借金など法的なトラブルに直面した際、弁護士などの法律家が身近におらず、どこにどのように相談すれば良いかわからないことがあります。そういったときに相談できる「総合案内所」として、2006年に設立されました。
具体的には、以下の業務を担っています。
- 情報提供業務:法的トラブルに際し、法制度や相談機関(弁護士会など)の情報を提供
- 民事法律扶助業務:経済的に余裕がない人の無料相談や、弁護士費用などの立て替え
- 犯罪被害者支援業務:犯罪被害にあった人やその家族の法的なサポート
- 司法過疎対策業務:地方などで弁護士が不足している「司法過疎地域」に、法テラスの弁護士が常駐する地域事務所を設置
- 国選弁護等関連業務:刑事事件の被疑者や被告人になったが経済的な理由で弁護人を選任できない人に対し、国選弁護人の指名や契約
法科大学院(ロースクール)と新司法試験
法科大学院は、司法における人的制度を整えるため、法曹教育をより充実させる目的で設置された専門職大学院です。アメリカの制度を語源に「(日本版)ロースクール」とも呼ばれます。
法律の勉強をした経験の有無に応じて「未習者コース(3年)」と「既習者コース(2年)」を設けています。
2004年から、全国の国公私立大学に合計68校開校しました。2005年〜2010年はピークの74校が新入生の募集をしましたが、その後廃校や募集停止が相次ぎ、2021年度の募集は半数以下の35校となっています。
日本で法曹になるためには、国家試験である司法試験に合格し、さらに司法修習と試験を受ける必要があります。2006年からは、司法試験も新しい制度に移行しました。
それまでの旧司法試験では、1次試験は受験資格に制限がなく、誰でも受験が可能でした。しかし新司法試験では、法科大学院を修了した人または予備試験(2011年から実施)を受けた人のみが受けられる仕組みです。
裁判員裁判
裁判員裁判は、法曹以外の国民が刑事裁判に参加する制度です。2009年から始まりました。
一定以上の重大な刑事事件(殺人事件や強盗致傷事件など)の第一審で、選挙権を持つ国民の中から抽選で選ばれた「裁判員」が、裁判官と一緒に裁判に参加します。
1つの裁判につき、裁判長を含む裁判官3人、国民の裁判員6人で評議をします。評議で判断するのは「有罪か無罪か」「有罪の場合はどのような刑にするか」についてです。
裁判員制度は、法律のプロではない一般市民の感覚を刑事裁判に取り入れる狙いで始まりました。
しかし裁判員にとっては、残忍な事件の裁判に関わることで心理的な負担を感じることも考えられます。また、迅速化を図っているとはいえ、連日続く裁判に参加することで仕事や育児などに支障が出ることもあります。裁判員の辞退率は上昇しており、現在は候補者の約3分の2が辞退している現状です。
裁判員制度の詳細や陪審員制との違いについては、以下の記事を参考にしてください。
【関連記事】裁判員制度とは?目的や問題点、選ばれる確率、陪審員制との違いまで簡単に解説 | スマート選挙ブログ
強制起訴制度(改正検察審査会法)
裁判員同様に、選挙権を持つ人の中から抽選で選ばれた国民が司法に参加する制度が「検察審査会」です。抽選で選ばれた11人の国民で構成されています。
刑事事件で、被疑者を起訴するかどうかを決めるのは検察官です。犯罪の疑いや証拠が不十分なケースや(嫌疑不十分)、十分であっても検察官の判断によって起訴しない(起訴猶予)ことを不起訴処分といいます。
検察官が不起訴処分とした事件に対し、被害者などが不服だと考える理由がある場合、検察審査会に審査を求めることが可能です。検察官の不起訴判断が適切だったかどうかを話し合います。
検察審査会制度は1948年からありましたが、司法制度改革の一環として、2009年に法改正されました。検察審査会が2度にわたって「起訴すべきだ」と議決した場合、強制的に起訴される「強制起訴」が導入されています。
知的財産高等裁判所(知財高裁)
知的財産高等裁判所は、特許や商標などの知的財産権に関する訴訟を扱う専門の裁判所です。
知的財産をめぐる事件で地方裁判所の一審後控訴されたもののほか、特許庁の審決に対する不服申し立て(審決取消訴訟)を扱います。
それまでは東京高等裁判所などの中に専門部署として設けられていましたが、2005年に東京都千代田区の東京高裁内に知財高裁が設置されました。
2022年10月に目黒区の中目黒庁舎に移転し、ビジネス関係の訴訟を専門的とすることから「ビジネス・コート」と呼ばれます。
司法制度改革後の問題点や現状
上記の他にも、裁判当事者の負担を減らすため、裁判ができる限り短い期間に終わるように努めることを定めた裁判迅速化法の施行や、刑事訴訟法の改正による被害者参加制度など、多くの改善や新制度が導入されました。
改革後の司法制度をめぐる状況はどうなっているのでしょうか。
弁護士の過剰から多様化へ
新司法試験の導入後、受験者数・合格者数が増加しました。2012年には合格者数が最多となり、2100人を超えます。しかしその後は減少に転じ、2020年には1500人を下回りました。
司法試験合格者が増加しても、裁判官や検察官になる人数や弁護士事務所など就職先の枠が急増するわけではありません。そのため合格者数が急増した2012年前後は、資格を得ても就職できない人が増え、問題視されました。
2022年現在では、弁護士事務所ではなく企業などの組織内で働く弁護士「インハウス弁護士」が増加していることが特徴的です。
背景には、ビジネス法務やコンプライアンスなどにおいて法律知識が重視され、法律家の需要が高まっていることがあります。弁護士の業務も専門化・多様化が進んでいます。
民事裁判のIT化対応へ
裁判は、証拠となる書類を紙で提出しなければならないなど、アナログな側面があります。
時代の変化に対応し手続きをより効率化するため、2022年に改正民事訴訟法が成立しました。2025年までに、民事裁判の手続きを段階的にIT化すると定められています。
裁判所にオンラインで書類を提出できるようにしたり、口頭弁論をウェブ会議で行うことができたりするようになる見込みです。
全国の裁判所の判決をAIで匿名処理し、データベースに一元化するシステムの導入にも取り組んでいます。
まとめ
- 司法制度改革とは、法的解決や裁判制度を国民にとってより身近でアクセスしやすいものとする目的で、2000年代に実施された
- 代表的なものとして、法テラス・法科大学院・裁判員制度・知財高裁の新設などがある
- 司法制度改革後、裁判員の辞退者増加や、法科大学院の廃止など問題点もある
- 弁護士の働き方や業務の多様化、民事裁判のIT化促進など、2020年現在も変化がある
<参考>
『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
『政治・経済用語集 第2版』山川出版社、2019
法務省:司法制度改革について
政府の司法制度改革推進計画 | 裁判所
司法制度改革とは? | 東京 多摩 立川の弁護士
私たち法テラス(日本司法支援センター)は、国によって設立された法的トラブル解決のための「総合案内所」です。
法科大学院について
法科大学院一覧:文部科学省
減り続ける法科大学院、ピーク時は「74校」→半数以下に 全盛期を振り返る
法務省:新司法試験Q&A
裁判員制度
検察審査会 | 裁判所
強制起訴/指定弁護士 | 時事用語事典 | 情報・知識&オピニオン imidas – イミダス
知的財産権について | 経済産業省 特許庁
組織の概要 | 知的財産高等裁判所
取扱事件 | 知的財産高等裁判所
弁護士の仕事、なぜ多様化? 企業や役所でも活躍
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社内弁護士、10年で5倍 経営層に加わる例も: 日本経済新聞
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民事裁判の手続きIT化へ 改正民事訴訟法が成立 | NHK | IT・ネット
全国の民事裁判の判決、データベース化へ 法務省が検討会を設置
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