国家緊急権とは?緊急事態条項や議論される背景を解説!海外の法制度も紹介

国家緊急権とは?緊急事態条項や議論される背景を解説!海外の法制度も紹介

ニュースなどで「国家緊急権」や「緊急事態条項」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。

国家緊急権とは、戦争などの非常事態に、国家存続を維持するために憲法で保障されている国民の権利等を制約する権限のことです。

そして国家緊急権について明文化したものを「緊急事態条項」と呼びます。

本記事では国家緊急権や緊急事態条項について解説。議論される背景や海外での法制度についても紹介しています。

国家緊急権とは

国家緊急権とは、平時では対処できない非常事態(戦争・内乱・大規模災害など)に、国家の存続を維持するために、憲法が保障する国民の権利や自由を厳しく制約する権限のことです。

この国家緊急権を憲法で明文化する条項を「緊急事態条項」といいます。

大日本帝国憲法には緊急時に天皇が法律に代わる「勅令」を出せるなどの規定がありましたが、現在の日本の憲法にこのような規定はありません。

ただし、衆議院が解散されているときに緊急事態が起きれば、内閣は参議院の緊急集会を求めることができるとしています。

第五十四条 ② 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。

引用元:日本国憲法 | e-Gov法令検索

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有事法制

上記の緊急事態条項のような、有事の際の法律のことを有事法制と呼びます。

日本の有事法制として、2003年に成立した武力攻撃事態対処関連法が挙げられます。

有事法制全体の基本的な枠組みを示した法律で、正式名称は「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」です。

武力攻撃が発生したときの対処に関して、以下のような内容を定めています。

  • 基本理念
  • 国・地方公共団体の責務等
  • 武力攻撃事態等への対処のための態勢整備
  • 個別の法制の整備に関する事項

国家緊急権について議論される背景

国家緊急権の明文化については、これまで国内でしばしば議論に上ってきました。

例えば東日本大震災の後に自民党が発表した憲法改正草案には緊急事態条項が盛り込まれていました。しかし「政府への権力集中」や「独裁権」などを懸念する指摘があった他、災害時に対応できる法制度は整っているため改正は不要との声もあったようです。

また、最近では新型コロナウイルス禍や、ロシアのウクライナ侵攻などの影響で、緊急事態に現実味が増したことも国家緊急権が議論に上る契機になりました。

海外の緊急事態法制

ここでは、諸外国の緊急事態法制を紹介します。

緊急事態法制の規定内容や要領は、その国の政治体制や歴史によって異なることが分かるでしょう。

ドイツ

ドイツでは、第2次世界大戦での反省を踏まえ、原則的に政府の措置を立法・司法の統制下に置くことで政府による権限濫用を防止しています。

憲法には脅威の度合いや内容に応じて事態が細分化され、それぞれの事態ごとに政府が取り得る非常そりの発動内容などが明示されており、議会が政府の非常措置を統制するようになっています。

非常措置の発動と連動した政府の具体的措置は、個別の法制で規定されています。

アメリカ

アメリカの憲法では一般的に、緊急事態には大統領に対して包括的な権限が付与されていると理解されています。また、大統領は軍の最高司令官であると規定されています。

また、議会による大統領の緊急権限に対する抑制的な試みとして以下のような法律も定められています。

  • 戦争権限法:大統領が海外への軍隊投入に際しての条件・手続を規定
  • 国家緊急事態法:大統領が緊急事態を宣言する際の手続を規定

韓国

北朝鮮との緊張状態が続いている韓国では、米韓相互防衛条約に基づく連合防衛体制を基軸とした防衛体制が整備されています。

大統領は緊急事態において以下のような権限を有します。

  • 戒厳の宣布
  • 緊急命令権
  • 緊急財政処置

大統領が上記のような権限を発動した場合は遅滞なく国会に報告し、その承認を得ることになっています。

また、米韓連合司令官は脅威の程度に従い緊急警戒体制を発令することができます。

スウェーデン

スウェーデンの国防は軍事防衛を中心として、以下を一体化した全体防衛という思想が流れています。

  • 市民防衛:人命の保護・救護
  • 経済防衛:必要な物資の供給の確保
  • 心理防衛:国民の国防意識の高揚

全体防衛体制には、以下のような特徴があります。

  1. 国民の責任が明確にされている
  2. 国防に関する広汎な法制が整備されている
  3. 民間防衛の体制・態勢が整っている

国民の責任については、16歳から70歳までの全国民が全体防衛に参加するという国防責任が法律などに規定されています。また在留外国人も、軍事防衛を除いて国防責任を有する旨が規定されています。

スイス

スイスの民間防衛は以下のような事態から住民を保護することを目的としています。

  • 災害
  • 緊急事態
  • 武力紛争

また、上記のような事態からの復旧に寄与するとともに、人道的目的にも貢献するとしています。

担当する組織として、連邦防衛・民間防衛・スポーツ省に連邦民間防衛局がある他、民間防衛事務局や民間レベルの民間防衛組織があり、以下のようなことを任務としています。

  1. 住民への情報提供
  2. 警報発令、住民への行動時の伝達
  3. 住民保護
  4. 救援・支援
  5. 患者の看護

民間防衛に関する組織に戦闘任務はなく、武器も携行しません。

スイス市民権を持つ男子で兵役義務などを負わない者全てに民間防衛の服務義務があるため、居住自治体の民間防衛組織に参加することになります。

国家緊急権について まとめ

本記事では国家緊急権について解説しました。以下に内容をまとめます。

  • 国家緊急権とは非常事態(戦争・内乱・大災害など)に、国家存続を維持するため憲法で保障されている国民の権利等を制約する権限
  • 国家緊急権について明文化したものが「緊急事態条項」
  • 日本の憲法に緊急事態条項は規定されていない
  • 東日本大震災や新型コロナウイルス禍、ロシアのウクライナ侵攻などの影響で国家緊急権が議論に上るようになった

 

<参考>
解説 諸外国の緊急事態法制 
緊急事態条項巡る改憲論議、活発化し始めたが…かみ合わない賛否両派 
平成15年の通常国会で成立した「事態対処法」 
有事法制 
憲法施行から75年 ウクライナ危機をめぐり何が議論に? NHK解説委員室 
緊急事態条項 | ねほりはほり聞いて!政治のことば | NHK政治マガジン 
【国会ハイライト】「災害をダシに憲法を変えてはいけない」〜永井幸寿弁護士が憲法審査会で意見陳述!緊急時の国会議員の任期問題は「参議院緊急集会」と公選法「繰延選挙」で対処可能!(前編) | IWJ Independent Web Journal 

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