地方行政が条例を定めるように、国の行政も政令という法令を定められます。
しかし、法律・政令・省令・条例と似たような名称が多く、何が違うのか疑問ではないでしょうか。
本記事では、それぞれの違いについて簡単に解説し、政令の具体例も紹介します。
政令の意味は?
政令は、内閣が制定する法令です。
ここでは、法令の意味を確認し、政令の具体的な内容について解説します。
法令には種類がある
法令とは、一般的に法律と命令を合わせた呼び方です。
制定した主体や形式によって、法令にはさまざまな種類があります。
最高法規として日本国憲法、その下に法律、そして政令・省令といった命令があります。地方自治体によって制定される条例も法令の一種です。
政令・省令は行政立法にあたり、本来立法権を持たない行政組織によって、憲法や法律の範囲内で定められます。
内閣府が定めるのが政令
政令は内閣が制定する命令にあたり、施行令とも呼ばれます。
日本国憲法においては、第73条6項に規定されています。
第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。引用元:日本国憲法
憲法や法律を実施するために、内閣が補助的に出す命令が政令です。
したがって憲法や法律に反した政令を定められず、基本的に義務や罰則を設けることも不可能です。
似た名称に内閣府令というものもありますが、こちらは内閣総理大臣が定める命令で、省令と同等です。
執行命令と委任命令
政令は、さらに執行命令と委任命令に分けられます。
執行命令は、憲法や法律の規定に則り、内閣がより詳細な内容や手続きの方法を定めるものです。
対して委任命令は、法律によって内閣が委任された範囲内で、細かい事項を定めるものを言います。委任の範囲内なら罰則を設けることも可能です。
ただし、国民の権利を守るため、委任の内容は具体的でなければならないとされます。内閣に全てを任せるような白紙委任は認められていません。
法律・省令・条例との違いは?
内閣によって制定されるのが政令であるように、他の法令はそれぞれ別の機関が定めるものです。
政令との違いや関係に注目しながら、各法令について解説します。
法律は国会
法律とは、国の唯一の立法機関(憲法41条)である国会が制定する法のことです。
国会は国権の最高機関と位置づけられており、基本的に国会以外の機関は独自に法を制定できません。
しかし、法案の審議や決定に時間がかかるなど、社会の状況によっては対応が間に合わない場合があります。
そこで柔軟かつ迅速な対応のため、国会から行政に対し限定的な立法権が委任されます。
これを委任立法と言い、該当するのは政令を始めとする委任命令や、地方自治体が制定する委任条例などです。
また、法律では規定できない専門的・技術的な内容を委任する場合もあります。
省令は各省庁の大臣
省令とは、各省庁の大臣が担当する行政事務について出す命令のことで、施行規則とも呼ばれます。
政令との大きな違いは、政令が全大臣の合意に基づくのに対し、省令は各大臣が個別に出す点です。
省令は憲法や法律に反してはならない他、内閣が定めた政令にも従う必要があります。
また、政令と同様、法律の委任がなければ義務や罰則などの規定を設けることはできません。
条例は地方自治体
条例は、憲法第94条や地方自治法第14条に基づき、地方自治体が独自に定めます。
ただし、憲法や法律の範囲内でなければならず、政令や省令にも反してはなりません。
条例には、自治体が主体的に制定する自主条例と、法令の委任に基づく委任条例があります。
法律の範囲内であれば、義務や罰則を課すことも可能です。
条例について、詳しくは以下の関連記事を参考にしてください。
【関連】条例とは?日本の法体系はピラミッド構造?全国の具体例も解説
政令の具体例
ここでは、実際に出された政令の具体例を紹介します。
元号を改める政令
平成や令和といった元号が変わる時、内閣は元号を改める政令を定めます。
実際に出される政令は以下のような内容です。
内閣は、元号法(昭和五十四年法律第四十三号)第一項の規定に基づき、この政令を制定する。
元号を令和に改める。引用元:政令第百四十三号 元号を改める政令
基づいている元号法の規定は以下の通りです。
1.元号は、政令で定める。
2.元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める。引用元:元号法
このように、元号法という法律の委任に基づき、内閣が政令で新しい元号を定めます。
政府機関の組織令
政府に新しく機関を設置する際は、国家行政組織法や関連する設置法に基づき、組織令と呼ばれる政令で詳細な内容が決められます。
例えば、2021年にデジタル庁が設置された時は、庁に置かれる職に関する職務内容や定数について政令で規定されました。
実際の設置法と組織令の内容を、それぞれの条文から見ていきましょう。
第十三条 デジタル庁には、その所掌事務の能率的な遂行のためその一部を所掌する職を置く。
2.デジタル庁には、前項の職のつかさどる職務の全部又は一部を助ける職を置くことができる。
3.前二項の職の設置、職務及び定数は、政令で定める。引用元:デジタル庁設置法
第一条 デジタル庁に、統括官四人を置く。
2.統括官は、命を受けて、デジタル庁設置法第四条第一項及び第二項に規定する事務のほか、次に掲げる事務を分掌する。
(1~17項を省略)引用元:デジタル庁組織令
法律によって大枠の内容が決められ、細部を政令によって補う形が取られています。
政令指定都市
政令指定都市は、人口50万人を超える市のうち、政令の指定を受けた市のことを言います。
地方自治法と指定に関する政令の規定は、それぞれ以下の通りです。
第二百五十二条の十九 政令で指定する人口五十万以上の市(以下「指定都市」という。)は、次に掲げる事務のうち都道府県が法律又はこれに基づく政令の定めるところにより処理することとされているものの全部又は一部で政令で定めるものを、政令で定めるところにより、処理することができる。
引用元:地方自治法
内閣は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の規定に基き、この政令を制定する。
地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市を次のとおり指定する。
大阪市 名古屋市 京都市 横浜市 神戸市 北九州市 札幌市 川崎市 福岡市 広島市 仙台市 千葉市 さいたま市 静岡市 堺市 新潟市 浜松市 岡山市 相模原市 熊本市引用元:地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市の指定に関する政令
政令指定都市には、通常の地方自治制度の枠を超えた特例が認められます。
特例とは、事務権限の移譲の他、知事による許認可の不要、条例による区の設置、財源の優遇などです。
大都市は他の市とは事情が異なることから、特別な自治権を必要としました。
しかし大きな反対が上がったため、地方自治法を基礎に、政令の指定によって特例を与える形が取られています。
まとめ
本記事では、政令について解説しました。
- 政令とは内閣が出す命令のこと
- 憲法や法律を実施するために補助的に出される
- 法律で決められない細かな内容を扱う
- 憲法や法律に反するものは出せない
- 法律・省令・条例との主な違いは誰が制定するか
- 法律は国会、省令は省庁の大臣、条例は地方自治体
<参考>
政令・省令・府令 – コトバンク
○ 憲法、条約、法律、命令及び条例の関係等について|三重県
日本国憲法 | e-Gov法令検索
政令(せいれい) – コトバンク
執行命令 – コトバンク
委任命令 – コトバンク
委任立法 – コトバンク
委任条例 – コトバンク
行政機構図(2022.7現在)|内閣官房
省令 – コトバンク
条例及び規則|総務省
地方自治法 | e-Gov法令検索
元号を改める政令 | e-Gov法令検索
元号法 | e-Gov法令検索
国家行政組織法 | e-Gov法令検索
デジタル庁設置法 | e-Gov法令検索
デジタル庁組織令 | e-Gov法令検索
地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市の指定に関する政令 | e-Gov法令検索
指定都市とは|指定都市市長会
指定都市制度の概要|総務省
最終閲覧日は記事更新日と同日