二院制をとる日本では、「ねじれ国会」が問題になることがあります。
ねじれ国会とは、衆議院と参議院で多数派が異なる状態です。法案が可決しにくくなるなどのデメリットがあり、「決められない政治」と批判されることもあります。
一方で、メリットがないわけではありません。選挙の結果による「ねじれ」は民意の反映だとも言えます。
そもそも、なぜねじれ国会が起きるのでしょうか。本記事では、ねじれ国会の仕組みや原因についてわかりやすく説明します。過去にねじれ国会となった事例も紹介しているので、参考にしてください。
ねじれ国会とは?問題点と利点
「ねじれ国会」とは、衆議院と参議院でそれぞれの多数派が異なっている状態を言います。衆議院の与党が参議院選挙で敗れ、参議院の最大会派が野党になる場合などです。
衆議院・参議院の仕組み
日本の国会には、衆議院と参議院があります。このように2つの議院で構成されている議会制度を「二院制」と言い、その目的は民意を問う機会を多くすること、予算や法律案をより慎重に審議することです。
衆議院は、任期が4年で解散があり、内閣不信任決議権と予算先議権を持ちます。
条約の承認・内閣総理大臣の指名・法律案・予算などの議決において衆議院と参議院の議決が異なるときは両院協議会を開き、それでも意見が一致しないときは衆議院の議決が国会の議決となります。
これを「衆議院の優越」といい、参議院と比べて、解散のある衆議院の方が民意を反映しているという考えから設けられている制度です。
内閣不信任案や衆議院の解散については以下の記事で詳しく説明しているので、参考にしてください。
内閣不信任案とは?衆議院解散についてから過去の事例までわかりやすく | スマート選挙ブログ
参議院は任期が6年(3年ごとの半数改選)で解散がありません。政党間の対立の場ではなく、各議員が良識に基づいた判断をする場になるべきだとして、参議院を「良識の府」と呼ぶこともあります。
ねじれ国会のメリットとデメリットには、これらの二院制の仕組みが大きく関係しています。
メリット:民意を反映、政権運営の見直しに
ねじれ国会のメリットは、与党の政治方針を見直す機会になり得ることです。
もしも参院選で野党が最大多数となるほど与党が敗北したとすれば、与党に対して世論が不満を持っていることの表れでもあります。
ねじれ国会は選挙によって民意が反映された結果であり、与党の方針や判断を再度検討する重要な機会にもなり得るでしょう。
デメリット:「決められない政治」に陥る
一方でデメリットは、法の成立や政策の実行が滞ることです。
法などは原則として、両院の可決によって成立します。しかし、ねじれ国会では両院の多数派が異なるため、「衆議院で可決した法案が参議院で否決される」ということが起こりやすい状態です。
法の成立について、日本国憲法は以下のように定めています。
第五十九条 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
② 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
③ 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
④ 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
引用元:日本国憲法
衆議院を通過した法案が参議院で否決されると、再可決には衆議院で3分の2以上の賛成を得るか、両院協議会での意見の一致が必要です。与党が衆議院で3分の2以上の議席を持っていることはまれで、再可決は容易なことではありません。事実上、参議院が法成立の権限を握っていると言えます。
野党が参議院の多数を占めるねじれ国会の下では、政権が公約した政策の実行が難しくなったり、予定されていた法案が可決されなくなったりすることで「決められない政治」と批判されかねません。内閣支持率が低下する要因となることもあります。
ねじれ国会になる理由
ねじれ国会は、日本特有の現象だと言われます。なぜ日本ではねじれ国会が生じるのでしょうか。他の二院制の国と比較して説明します。
両院の選挙制度が同じ
二院制をとっている国は日本の他に、例えばイギリスがあります。
イギリスの国会は貴族院(上院)と庶民院(下院)に分かれていますが、貴族院の議員は選挙で選ばれるのではありません。国王(現在はエリザベス女王)が任命する世襲貴族・聖職貴族・一代貴族から構成されており、議員数や任期も不定です。
庶民院の議員は小選挙区制により直接選挙で選ばれます。下院(庶民院)優越の原則があり、重要な法は下院で可決されれば成立する仕組みです。貴族院にはほとんど実権がないと言われます。
イギリスでは両院の議員選出方法が異なり、上院が実質的に権限を持たないことから、日本のねじれ国会のような現象は生じません。
他にドイツでは、州政府が上院議員を任免します。
日本は、両院がいずれも選挙区と比例区からそれぞれ議員を選出する直接選挙です。
両院の選挙日程が同じ
日本のように両院がいずれも直接選挙である国は他に、イタリア・スペイン・ベルギー・スイスなどです。しかし日本以外は、両院が同じ日に選挙を行います。そのため、選挙結果が大幅にずれる可能性はほとんどありません。
ねじれ国会は日本特有の現象と言え、その原因は「両院の議員選出方法が同じだが選挙日程が異なる」という世界的にも珍しい選挙制度にあります。
議院内閣制については以下の記事も参照してください。
議院内閣制とは?大統領制との違いやメリットを解説(前編) | スマート選挙ブログ
議院内閣制とは?大統領制との違いやメリットを解説(後編) | スマート選挙ブログ
過去にねじれ国会となった事例
終戦直後を除くと、これまでにねじれ国会となった例は4回あります。それぞれどのような状況だったのかを調べました。
1989年参院選
1989年の参院選では、自民党は改選前から30議席以上減らし、結党以来初の過半数割れとなりました。当時の宇野宗佑内閣(自民党)に対して消費税導入やリクルート問題などで世論の批判が高まっている中、参院選では社会党などの野党が多数派となりねじれ国会となります。宇野内閣は総辞職しました。
参議院は社会党の土井たか子委員長(当時)を首相に指名しましたが、首相の指名には衆議院の優越があるため、衆議院が指名した自民党の海部俊樹内閣となります。
1998年参院選
1997年の消費税増税により景気が減速し、金融機関の経営破綻が起きるなど、経済や金融への国民の不安感が高まる中での選挙でした。自民党は44議席しか獲得できず大敗し、橋本龍太郎内閣は退陣に追い込まれます。
その後の小渕恵三内閣では参議院での少数与党状態を解決するため、1999年1月に自由党と、同年10月には公明党と連立政権を樹立しました。いわゆる「自自公政権」の誕生です。自民党・公明党による連立政権は現在まで続いています。
2007年参院選
自民党が大敗し、民主党(当時)が第1党となりました。自民党は結党以来初めて参議院第1党の座を降りることになります。
第1次安倍晋三内閣は退陣し、その後も福田康夫内閣・麻生太郎内閣で支持率低迷が続きました。2009年の衆院選で民主党が与党となり、戦後初の本格的な政権交代が起こります。
2010年参院選
2009年の政権交代以来、衆議院の第1党は民主党でした。しかし菅直人首相の消費税増税発言などが影響し、参院選では民主党が過半数を大きく割り込む結果に終わります。自民党が参議院第1党となるねじれ国会になりました。
その後2012年の衆院選で民主党は下野し、野田佳彦内閣は総辞職します。自民党は再び政権を握り、第2次安倍内閣となりました。その後は衆議院・参議院ともに「自民1強」と呼ばれる状態が続いています。
2022年現在はどうなっている?
2022年7月の参院選では与党第1党の自民党が大勝しました。衆議院・参議院ともに自民党が最大多数となっているため、ねじれ国会にはなっていません。
2022年参院選の結果については、こちらの記事でまとめています。
参議院選挙2022の結果は?自民党圧勝、政党別議席数や争点も
まとめ
- 「ねじれ国会」とは、衆議院と参議院でそれぞれの多数派が異なっている状態を言う。
- ねじれ国会のメリットは民意を反映し、政権与党の方針を見直す機会になる。一方で、法の成立などが滞りやすいというデメリットがあり、「決められない政治」と批判されることも。
- ねじれ国会の原因には、両院の議員選出方法がいずれも選挙区と比例代表による直接選挙だが、選挙は同日に実施されるわけではないという日本特有の選挙制度がある。
- 終戦直後を除くと、これまでにねじれ国会となった例は1989年・1998年・2007年・2010年の計4回の参院選がある。
<参考>
『政治・経済用語集 第2版』山川出版社、2019
『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
ねじれこっかい【ねじれ国会】 | ね | 辞典 | 学研キッズネット
参議院選挙:[早わかり 参院選Q]ねじれ国会とは?…衆参で与野党が逆転
参院選が生む「ねじれ国会」の致命傷 | 基礎からわかる参院選 | 毎日新聞「政治プレミア」
【知ってる?参議院】ねじれ国会 「良識の府」が「政局の府」に
神戸新聞NEXT | 兵庫のニュース | イチから分かる! 「ねじれ国会」って?
解説・ねじれ国会 「決められない政治」の要因: 日本経済新聞
ねじれ国会は問題か?
日本国憲法 | e-Gov法令検索
政治経済:オピニオン:教育×WASEDA ONLINE
ねじれ国会の政治経済学
衆議院・参議院 選挙の歴史 | NHK選挙WEB
山が動いた、法律ができた 熱狂の1989年参院選が残したもの
1998年 自民大敗、橋本首相が退陣: 日本経済新聞