議院内閣制とは?大統領制との違いやメリットを解説(後編)

議院内閣制とは?大統領制との違いやメリットを解説(後編)

本記事の前編では、イギリスを起源とする議院内閣制の仕組みや、アメリカなどが採用している大統領制との違いについて解説しました。

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後編では、日本における議院内閣制の歴史やその特徴、メリットやデメリットを掘り下げて説明していきます。

日本の議院内閣制の仕組みと特徴

現在の日本における議院内閣制はどのように成立し、どのような仕組みや特徴を持っているのでしょうか。

日本の議院内閣制の歴史

日本の内閣制度は、1885年(明治18年)に創設されました。このときの初代内閣総理大臣が伊藤博文です。首相には「内閣職権」が与えられ、各国務大臣に対する強い権限を持っていました。

1889年(明治22年)に、大日本帝国憲法が制定されました。ドイツ帝国(プロイセン)での調査を経た伊藤博文らが、君主の権力が強いプロイセン憲法を参考に草案を書き上げたため、大日本帝国憲法には内閣の規定がありませんでした。

日本の元首は天皇であり、国務大臣は天皇の補佐役、首相はあくまで「各国務大臣の首席」という位置付けでした。

第二次世界大戦後の1947年(昭和22年)に現行の日本国憲法が施行されると、主権は国民に移り、天皇は日本の象徴と規定されました。同時に内閣は行政権の主体として位置付けられました。

首相は「内閣の首長」として国務大臣の任命権や罷免権、自衛隊の最高指揮権など強い権限を持つようになり、日本の議院内閣制が成立しました。

日本の議院内閣制 国会と内閣の関係

現在の日本の議院内閣制における「国会」と「内閣」、それぞれの役割とはどのようなものでしょうか。

国家権力は「立法権」「行政権」「司法権」の3つに分けられています。これは、1つの機関に権力が集中して濫用され、国民の権利や自由が侵されないようにするための「三権分立」という制度です。

このうち、法律の制定や改廃をする権利である「立法権」を持つのが国会で、「国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関」(憲法41条)と位置付けられています。日本は衆議院と参議院の二院制を採っています。

そして、法律の定めた内容を実行し実現する権利である「行政権」を持つのが内閣です。内閣総理大臣、いわゆる首相はこの内閣の首長で、行政の最高責任者として位置付けられます。

社会生活の紛争を法律によって解決する「司法権」を担うのは裁判所です。

「内閣総理大臣は、国会議員の中から、国会の議決でこれを指名する」(憲法67条)、「内閣は、衆議院で不信任の決議を可決し、又は信任の決議案を否決した時は、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」(憲法69条)とも定められています。

このように、国会と内閣は互いに影響を及ぼす権限を持つことで一体性を保っています。

国会による「首相の指名」と「内閣不信任決議権」

国会と内閣、それぞれの権限について具体的に見てみましょう。

内閣総理大臣(首相)は、国民による選挙で選ばれた国会議員の中から国会の議決によって、指名されます。

衆議院と参議院で異なる指名がされ、意見が一致しなかった場合などには衆議院の指名が優先されます。なぜ衆議院が優先されるのかは後述します。

2021年現在の日本では、「首相は自民党の総裁」というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。

これは、国会で最も議席数を持つ第1党が自民党であり、多くの国会議員が自民党の代表者(総裁)を首相に指名するためです。

また、首相は国務大臣(法務大臣や外務大臣など、各省庁の最高責任者)を任命する権限を持ちます。国務大臣の過半数は国会議員から選ばなければなりません。

さらに衆議院は、内閣を信任できないとき、内閣不信任決議案を提出することができます。

内閣不信任決議案が衆議院で可決された場合、内閣は10日以内に衆議院を解散するか、または総辞職するかを決めなければなりません。

ちなみに、前述のように内閣不信任決議権などが衆議院に与えられ、参議院より強い権限が認められていることを「衆議院の優越」と言います。

これは、衆議院には解散があること、議員の任期(4年)が参議院議員の任期(6年)に比べて短いことから、衆議院の方が国民の意思により近いと考えられているためです。

内閣による「衆議院の解散権」

内閣不信任決議権で述べたように、内閣は、衆議院が内閣不信任決議案を可決または信任決議案を否決した場合に、衆議院を解散する権限があります。

厳密には衆議院の解散は天皇の国事行為(憲法7条)ですが、助言と承認を行うのは内閣であるため、通常内閣に解散権があると捉えられています。

そして、衆議院が解散した場合は総選挙が行われ、選挙後の特別国会で内閣は総辞職し、新しい内閣が組織されることになります。

このように内閣も国会に対して権限を持ち、連帯責任を負っています。

議院内閣制のメリットとデメリット

次に、議院内閣制のメリットとデメリットについて解説していきます。

議院内閣制のメリット

1つ目のメリットとして挙げられるのは、首相の政治責任を問いやすいことです。

議院内閣制には、国会による内閣不信任決議権があります。内閣不信任決議案が可決されれば、衆議院の解散または内閣総辞職によって首相は解任されることになります。

犯罪行為を前提とした弾劾裁判でしか大統領を解任させる方法のない大統領制に比べ、首相の政権運営が民意に反したものである場合に政治責任を問うことができます。

2つ目に、政権運営が安定することです。

内閣総理大臣は国会の議決によって選ばれるため、実質は第1党の党首が選ばれることになります。国会の多数派と首相の政治方針が一致するため、国会と内閣は原則的に同様の政治方針となります。これによって政権運営が安定し、法案審議や政策がスムーズに進みやすくなります。

 議院内閣制のデメリット

しかし、議院内閣制にはデメリットも存在します。

1つ目に、前述のように一元代表制を採る現在の首相選出制度では、国民は直接首相を選ぶことができません。国民が「首相になってほしい」と希望する人物と、国会が内閣総理大臣に指名する人物が同じとは限らないのです。

同じ間接選挙ではあるものの、アメリカの大統領制では4年の任期ごとに必ず国民選挙が行われます。対して議院内閣制の首相には、原則として任期がありません。日本の自民党総裁は1期3年、連続就任は3期(9年)までと任期が定められていますが、いずれにせよ長期政権になることは稀です。平成以降17人の首相が任命されましたが、2年(730日)以上在任したのは4人でした。

首相について「誰がなるのか」「いつまで就任するのか」、どちらにも民意を反映しているとは言い難くなっています。

2つ目に、二院制である日本の国会では、衆議院と参議院の最大会派が異なる「ねじれ国会」が生じることがあります。ねじれ国会で衆議院の多数派が与党、参議院の多数派が野党となった場合には、衆議院と参議院で政治方針が異なり、法案の可決・否決が両院で統一されないことも多くなります。首相率いる内閣と国会の方針が異なるため、「決められない政治」となり、行政運営も滞る可能性があることが問題になります。

議院内閣制の理解は政治情勢の理解につながる

「衆議院解散で首相が変わる?」「自民党総裁選で内閣の方針が決まる?」……日々のニュースからこうした疑問を抱いていた方も、日本の議院内閣制とはどのようなものかを知ると、その仕組みがスッキリと見えてくるのではないでしょうか。

政治体制の仕組みや特徴を理解することで、現在起きている政治情勢についても理解しやすくなる一助として、本記事がお役に立てると幸いです。

 

 

<参考文献>

『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021

『政治・経済用語集 第2版』山川出版社、2019

『判例六法 令和3年版』有斐閣、2020(憲法

首相官邸HP 内閣制度の概要

衆議院HP 国会について

国立国会図書館 調査と情報 -ISSUE BRIEF- No.1056(2019.5.28)イギリスの議会制度

明治大学学術成果リポジトリ「イギリスにおける内閣の連帯責任性の成立過程」石川多加子,1990,明治大学大学院紀要法学篇27:1-19

参議院 立法と調査2014.1 No.348「議院内閣制における内閣の在り方 −我が国の統治機構の在り方を考える視座−」

アメリカ大使館「米国の統治の仕組み – 連邦政府」

 

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