衆議院にはどのような解散がある?解散の仕組み・理由もご紹介

衆議院にはどのような解散がある?解散の仕組み・理由もご紹介

2021年10月に岸田文雄内閣が解散し、衆議院総選挙が行われました。岸田内閣は就任からわずか10日後の解散で、戦後最短の内閣となったことも話題になりました。

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衆議院は任期満了前に解散し総選挙となることがほとんどですが、解散にはどのような意味があるのでしょうか。この記事では、過去の事例を交えて説明します。

衆議院解散・総選挙の仕組み

まずは、衆議院解散はどのようなときに行えるのか、解散後の流れはどうなるのかを概説します。

衆議院解散とは?

憲法69条は、「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。」と定めています。

また、国民の意思を問うため、憲法7条により内閣が衆議院解散を決定できます。これは「7条解散」と呼ばれ、これまでに共通するほとんどのパターンとして知られています。

実質的には内閣総理大臣の意思で解散できるため、首相の「専権事項」であり「伝家の秘宝」とも言われます。

解散があるのは衆議院だけ

解散は衆議院のみにあり、参議院にはありません。

衆議院は任期が4年で、参議院の6年と比較して短いこと、そして解散があることから、参議院より民意を反映しやすいと考えられています。

そのため、重要な事項について衆議院と参議院の議決が一定しなかった際には衆議院の議決をもって国会の議決にできるなど、衆議院の優越が認められています。

解散から総選挙へ

衆議院の解散、または任期満了時に、衆議院議員総選挙が行われます。

実際、戦後に衆議院が解散せず任期満了により総選挙となった事例は1976年の三木武夫内閣のみで、他の内閣はいずれも任期満了前に解散しています。

憲法によると、衆議院は解散すると40日以内に総選挙を行い、総選挙から30日以内に国会を召集しなければなりません。召集後の国会で内閣は総辞職し、次の内閣総理大臣を指名します。

過去の解散事例にはどのようなものがある?

衆議院の解散はマスメディアや評論家、政治家自身などが政治的背景や世論を反映して「◯◯解散」と通称で呼ぶことがあります。

吉田茂内閣の「バカヤロー解散」や、森喜朗内閣の「神の国解散」などがその例です。

過去の衆議院解散のうち、特徴的な事例やその後の政治に与えたインパクトをいくつかご紹介します。

寝たふり解散(死んだふり解散)

1986年の中曽根康弘内閣で、首相は「解散は難しい」としていたにもかかわらず急遽解散に踏み切ったことから、この名称で呼ばれることとなりました。

野党の不意をついて解散に持ち込むことで、総選挙で与党の情勢を有利にしようと目論んだと言われています。

解散は首相の専権事項であることが顕著に示された事例です。

衆議院総選挙と参議院選挙が同日に行われることとなり、自民党は300議席を獲得して大勝に至りました。

郵政解散

2005年、当時の小泉純一郎首相は、可決を目指した郵政民営化関連法案が参議院で否決されたことを受け、衆議院を解散しました。

その後の総選挙では、自民党が法案に反対する一部の議員を「造反議員」として公認しないとしたことが特徴です。

各地の選挙区で、元自民党議員と「刺客」と呼ばれた新たな自民党候補が議席を奪い合うことになりました。

結果的に自民党は「小泉チルドレン」の新人議員らも多く当選し、296議席で圧勝。自民党と公明党の与党で衆院議席の3分の2を占め、郵政法案の可決に繋がりました。

がけっぷち解散(政権選択解散)

2009年の麻生太郎内閣は、首相の失言問題などを受け、与党にとって逆風の中での解散となったことから「がけっぷち解散」や「追い込まれ解散」などと呼ばれています。

総選挙は「政権選択」が最大の争点になり、支持率が低下していた自民党は119議席と大敗。結党以来、初めて第1党でなくなりました。

民主党は308議席を得て歴史的な政権交代を果たし、鳩山由紀夫内閣が誕生しました。

内閣不信任決議可決による解散

内閣不信任決議案は、提出されても可決されるケースが少ないため、憲法69条に基づく内閣不信任決議可決による解散は過去に4事例しかありません。

いずれも吉田茂内閣の「なれあい解散」(1948年)と「バカヤロー解散」(1953年)、大平正芳内閣の「ハプニング解散」(1980年)、宮澤喜一内閣の「政治改革解散」(1993年)です。

衆議院解散の意味は?なぜ解散する?

戦後、衆議院の総選挙は任期満了による1例を除いていずれも解散によるものですが、解散はなぜ行われるのでしょうか。

与党にとっての解散のメリットや、政治や社会に与える影響を見ていきます。

与党にとって有利?批判されることも

与党にとって世論が好意的なタイミングを見計らって、首相が解散権を行使することで、次の総選挙で有利になることが可能です。

「寝たふり解散」のように、野党が選挙に向けて十分な構えができていない段階で不意をつく目的もあると考えられます。

また「郵政解散」のように法案の可決などを目指して意図的に争点を設定し改めて世論を問い、与党や賛成派の議席を増やす目的で解散・総選挙をすることも想定できます。

一方で、解散が与党や首相による恣意的なものだと見られると、解散に「大義や争点がない」として野党や国民、マスメディアから批判されることもあります。

2021年の解散は未来選択?コロナ?

今回の岸田内閣の解散については、岸田首相が「未来選択解散」、安倍晋三元首相が「コロナ脱却・V字回復解散」と称しました。それに対し、野党の枝野幸男立憲民主党代表は「逃げ恥解散」、玉木雄一郎国民民主党代表は「自己都合解散」と命名しています。

与野党やマスメディアからさまざまな「◯◯解散」が称されましたが、一致しないまま総選挙に至りました。

総選挙で明確な争点がなく、衆議院の任期満了直前の解散だったとして、「大義のない解散」との指摘もされています。

まとめ

・衆議院解散は内閣や首相の意思で行われることが多い。

・解散や総選挙の政治情勢を反映した「◯◯解散」という名称がつく。

・与党にとって有利な時期を図って解散することも。

 

 

<参考>
『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
『政治・経済用語集 第2版』山川出版社、2019
「解散なし」なら三木内閣以来 任期迫る衆院選シナリオ【政界Web】:時事ドットコム
衆議院選挙 過去の解散や制度の変更 -衆院選-|NHK
内閣不信任決議案とは 可決は過去4回(日本経済新聞、2021年6月15日)
[決戦の記憶]熱狂の「劇場型」民主埋没…2005年・小泉内閣「郵政解散」 : 衆院選 : 選挙・世論調査(読売新聞オンライン、2021年10月12日)
[決戦の記憶]保守取り込み 民主308議席…2009年・麻生内閣「政権選択選挙」 : 衆院選 : 選挙・世論調査(読売新聞オンライン、2021年10月10日)
任期直前の衆院解散、その意味は? 識者「弱気の首相像、打破狙う」:朝日新聞デジタル(2021年10月14日)
【衆院解散】大義は? 争点は? ネーミングは? 首相は25日の記者会見で何を語るのか(産経新聞ニュース、2017年9月24日)
首相「未来選択選挙」、枝野氏「逃げ恥解散」 – 日本経済新聞(2021年10月14日)
解散名称で与野党さや当て…「コロナ脱却V字回復」「一強政治終焉」「自己都合」 : 政治 : ニュース(読売新聞オンライン、2021年10月13日)
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