選挙では、投票用紙に支持する候補者の氏名を記入します。しかし、同じ選挙区に同姓同名の候補者がいた場合、氏名の記入方法によってはどちらの候補者に投票したのか、分からなくなってしまいます。
2021年の衆議院議員総選挙など、複数の選挙で同姓同名の候補者が出馬した事例も実際にありましたが、どのように対応したのでしょうか。
公職選挙法が定める投票用紙の書き方を守り、無効票や按分票にならない方法など、同姓同名候補者がいた場合に有権者が注意すべき点を解説します。
2021年衆院選で同姓同名の候補者が登場
2021年10月に投開票が行われた衆議院議員総選挙の島根1区で、同姓同名の「かめいあきこ」さんが立候補し、話題になりました。
立憲民主党から出馬した亀井亜紀子さんと、無所属の亀井彰子さん。漢字の表記は異なりますが、読みは全く同じです。
選挙では、どのような影響があったのでしょうか。
ひらがなで投票用紙を書くと区別できない
通常、選挙で候補者の名前を投票用紙に記入する際、漢字表記に限らずひらがなやカタカナで書いても問題ありません。
しかし今回のように、同一選挙区で同じ読み方の候補者がいた場合、例えば名前をひらがなで「亀井あきこ」と書くと、どちらの候補に投票したのか区別ができなくなります。
このように、2人以上の候補者のうち誰に投票したものか明確に分からない票を「按分票」と言います。
詳しくは「按分票」とは?をご覧ください。按分票に該当すると、投票者としては一方の候補者に1票を入れたつもりにもかかわらず、実際には1票以下の得票になってしまいます。
候補者の選挙運動にも影響
候補者にとっても、按分票になることで自身の得票数が減ってしまうというリスクがあります。
政治家の中には読みやすさや書きやすさを重視して、名前をひらがな表記にしてアピールする場合も多くあります。
しかし今回の事例では、候補者自身も選挙運動の中で「投票用紙には漢字で名前を書いて」と訴えていました。看板やポスター、タスキなどを改めて漢字表記のものに作り直す必要もありました。
<参考>
・産経ニュース 島根1区「かめいあきこ」が2人立候補
・NHK衆議院選挙2021島根開票速報・選挙結果
・毎日新聞「読み方が同じ2候補、点字投票区別できず」
・かめい亜紀子Twitter(2021年11月28日閲覧)
同姓同名候補者がいた場合、投票はどうなる?
このように、同一選挙区で名前の読み方や、漢字表記が同じ同姓同名の候補者が出ることがあります。
その場合、投票用紙の書き方によっては「按分票」や「無効票」になる可能性があるため、注意が必要です。
「按分票」とは?
按分票とは、例えば同じ姓の「山田A子」と「山田B太」の候補者がいるのに「山田」とだけ書かれている投票用紙など、無効票ではないがどちらの候補者か不明な票を言います。
按分票は、各候補者の得票数の割合に応じて按分されます。
上記の例で、「山田A子」と書かれたものが4000票、「山田B太」と書かれたものが1000票、「山田」と書かれたものが50票それぞれあったとしましょう。
この場合「山田」票は「山田A子」に40票、「山田B太」に10票となります。
政党名の按分票にも注意
衆議院・参議院議員選挙の比例代表で「政党等の名称」を記載する際、略称や書き方によっては区別がつかないことがあります。
2021年の衆院選では「民主党」と書かれたものが、国民民主党なのか立憲民主党なのかが分からず、問題になりました。
総務省は事前に「国民」や「立民」との略称であれば区別できると通知していましたが、一部の選挙区では大量の按分票が発生しました。
按分票が大量発生すると、「有権者の意思が正確に反映されていないのではないか」と指摘されます。
投票用紙には名前以外、何を書けば良い?
選挙のルールや手順を定めた公職選挙法では、(衆議院・参議院議員選挙の比例代表以外で)「公職の候補者の氏名のほか、他事を記載したもの」は無効投票になりますが、「ただし、職業、身分、住所又は敬称の類を記入したものは、この限りでない」としています。(第68条の6)
そのため、過去の同姓同名候補者の選挙では、候補者の年齢や住所の地名などを投票用紙に記入するよう、選挙管理委員会が呼びかけるケースがありました。
<参考>
・横須賀市HP 明るい選挙の豆知識
・産経ニュース「比例「民主党」票は按分」
・福井新聞オンライン「「民主党」被り按分票が異例の25%」
・『判例六法 令和3年版』有斐閣、2020(公職選挙法)
過去の「同姓同名選挙」の事例
これまでに全国各地であった、同姓同名候補者による選挙での選挙管理委員会や候補者の対応の具体的な事例を見てみましょう。
2019年千葉県勝浦市議選で同姓同名候補
勝浦市議会選で現職と新人の「鈴木克己」さんが立候補したケースでは、それぞれの住所の地名を加えて記載することで区別を図っています。
投票所に貼り出される候補者一覧では、2人だけに住所を記載すると目立って不公平になるとの配慮から、全ての候補者の住所が記されました。
候補者自身も、名刺やポスター、選挙カーの名前にそれぞれの地名を書き加えてアピールしました。
同姓同名候補が2度立候補した事例も
佐賀県唐津市議選では2017年と2021年に2度、同じ同姓同名候補「青木茂」さんが出馬しました。
2017年の選挙では「現職」と「新人」の違いがありました。
しかし2021年の選挙ではいずれも現職だったため、それぞれの年齢を加えることで区別するよう、候補者の選挙運動や候補者一覧の表記に配慮がされたことで知られています。
2020年衆院補欠選挙では「あえて擁立」?
静岡4区の衆議院議員補欠選挙では、NHKから国民を守る党(当時)が野党統一候補として立候補した「田中健」さんと同姓同名の候補者を擁立しました。
立花孝志党首は選挙前の記者会見で「同姓同名が立候補したら票の動きがどうなるかを見てみたい」と発言しています。
年齢の記載で区別を図ろうとしていましたが、按分票は3700票以上となりました。
<参考>
・NHK政治マガジン「投票用紙には◯◯も書いて」
・千葉県勝浦市HP 過去の選挙結果
・朝日新聞デジタル「2人の青木しげるが立候補」
・唐津市HP市選挙開票の結果
・Sankei Biz「N国が奇抜な選挙戦略、同姓同名をあえて擁立」
・産経ニュース「区別不能は3708票 静岡補選、同姓同名候補で」
・NHK選挙WEB 衆院補選静岡4区
まとめ
同一選挙区で同姓同名の候補者がいた場合の投票や選挙運動への影響について、過去にあった実際の事例を紹介しました。
候補者にとっては、名前や政策のアピールに加え、一方の候補者と区別する要素についても周知しなければなりません。
有権者にとっては、投票用紙の記入方法への注意が必要です。
按分票や無効票を減らし、より正確に民意を反映できることが理想的です。