2021年6月11日に国民投票法が改正されましたが、改正案についてはTwitterなどで、反対意見も非常に多く見られました。
では、なぜ改正案に反対意見があったのでしょうか。そもそも、
「国民投票法改正案とはどんな内容で、何が問題だったのかよくわからない」
「今後の市民生活への影響も心配」
などと感じている方も多いでしょう。
この記事では、今回成立した国民投票法改正案について、具体的な内容や問題点、さらに一般市民生活への影響の有無などを、わかりやすく解説します。この記事をご覧になれば、憲法改正の重要な手続きを定める「国民投票法」のことがよくわかります。
国民投票法とは
国民投票法が制定されたのは、第1次安倍内閣時代の2007年5月14日です。同年5月18日に公布され、3年後の2010年5月に施行されています。
正式名称は「日本国憲法の改正手続に関する法律(憲法改正国民投票法)」です。
まず、国民投票法の概要と、国民投票法と憲法改正までの流れについて、ご紹介します。
国民投票法の概要
国民投票法は名称のとおり、日本国憲法の改正手続に関する国民投票の方法を定めた法律です。
日本国憲法では、憲法改正のためには、衆参各議院全体で3分の2以上から賛成を得ることで改憲案を発議し、国民投票で過半数の賛成を必要とするとされています(憲法96条)。
しかし、その具体的な手続きを定めた法律はありませんでした。そのため、改憲を掲げた安倍首相のもと、与党自民党が法制定を進めています。
国民投票法の制定により、憲法改正の国民の承認にかかる投票が直接行えるようになったもので、極めて大きな意味を持つ法律と言えます。
国民投票法の概要
- 趣旨:国民投票手続を定め、憲法改正の発議手続の整備を行う(第1条)
- 国民投票の期日:国民投票は、国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以後180日以内において、国会の議決した期日に行う(第2条)
- 投票権:日本国民で年齢満18年以上の者は、国民投票の投票権を有する(第3条)
- 国民投票広報協議会及び国民投票に関する周知:(第11条~第19条)
- 一人一票:投票は、憲法改正案ごとに、一人一票に限る(第47条)
- 国民投票運動:(第100条~第108条)
- 国民投票の効果:国民投票において、憲法改正案に対する賛成投票数が投票総数の2分の1を超えた場合は、憲法改正について国民の承認があったものとする(第126条)
国民投票法では、上記のとおり国民投票の期日・投票権・国民投票運動・国民投票の効果などの重要な手続きと投票運動における規制の仕方などを決めています。
通常の選挙とは異なり自由な意見表明のため、規制は最小限にして、通常の選挙で禁じられている戸別訪問や署名運動もできることになっています。
国民投票法と憲法改正までの流れ
国会発議から国民投票にいたる憲法改正までの主な流れは、以下になります。
- 憲法改正原案の発議:衆議院100人以上・参議院議員50人以上の賛成により原案を発議する。改正箇所が複数ある場合は、関連する事項ごとに区分して発議する。
- 憲法改正の発議:改正原案を両院の憲法審査会で審議し、各本会議で3分の2以上の賛成で可決した場合に国会が憲法改正の発議を行い、国民に提案したものとされる。
- 国民投票期日の議決:発議日から60日以後180日以内の日に議決する。
- 広報・周知:国民投票広報協議会(各議院議員から各10人の委員を選任)を設置し、憲法改正案の内容を掲載した国民投票公報原稿などを作成、テレビ・新聞などで広報。選挙管理会などが、投票手続きの必要事項を国民に周知する。
- 国民投票運動:政党・マスコミなどが、国民投票運動を行うことができる。
- 投票:期日前投票・不在者投票・在外投票などが認められる。
- 開票:賛成投票が投票総数の2分の1を超えたときは、内閣総理大臣は直ちに憲法改正の公布手続きを執り、投票結果を官報で告示する。
- 公布・施行:天皇が国民の名で直ちに公布する(国会法66条を準用すると30日以内)。施行日の決まりはないが、憲法そのものは、公布後6カ月後に施行(憲法100条)
国民投票法の改正経緯
制定時の国民投票法は、付則で以下の3点を引き続き検討すべき論点として残し、解決を求めていました。
- 公職選挙法の選挙権年齢や民法の成人年齢(20歳)の引き下げ
- 公務員の政治的行為の制限
- 改憲以外のテーマでの国民投票
これを受け、2014年に法改正が行われています。以下で、2014年の法改正と、今回2021年の法改正の内容を紹介します。
2014年の改正
2014年の法改正の内容は、次のとおりです。
- 国民投票の投票年齢:国民投票法本則の「18歳以上」を、公職選挙法の選挙権年齢引き下げまでは経過措置として「20歳以上」にしていたが、改正法施行(2014年6月20日)の4年後から本則通り「18歳以上」に引き下げる(速やかに法制上の措置を講ずる)
- 公務員の政治的行為の制限:裁判官や警察官などを除き、公務員による賛否の働き掛けや意見表明を容認
2014年改正の際には十分な議論がなされず、今後の検討課題とされた事項として、次の2点がありました。
- 公務員の政治的行為に関し、労働組合など組織的な活動の制限
- 国民投票の対象を憲法改正以外へ広げるかどうかは憲法審査会で議論
国民投票法改正(2021年)の内容
2021年の国民投票法改正案(7項目)の内容は、2016年に改正された公職選挙法の内容を、憲法改正手続きに関する国民投票にも適用する、というものです。主な目的は、投票環境の整備でした。
国民投票法改正案(7項目)
- 投票人名簿の縦覧:縦覧を廃止し、本人の事前同意などが条件の閲覧制度に移行
- 在外選挙人名簿の出国時申請制度の創設:在外投票人名簿への登録規定の整備
- 共通投票所の設置:どの投票区の人も投票できるように駅や商業施設などに設置
- 期日前投票の理由追加・弾力化:仕事・病気・妊娠などに限定を天災・悪天候も追加、投票時間を弾力化(2時間以内の開始時刻繰上げ・終了時刻繰下げ可能)
- 洋上投票の対象拡大:対象に実習中の学生らも含める
- 繰延投票期日の告示期限の見直し:少なくとも「5日前」を「2日前」までに変更
- 投票所への子供の同行:幼児などから18歳未満に拡大
なぜ国民投票法改正案(7項目)に反対意見があったのか?
国民投票法改正案は2018年6月に国会に提出されましたが、成立したのは3年後の2021年6月のことです。
成立までに長期間を要したのは、国民投票法改正案(7項目)に強い反対意見があったためです。反対論の背景には、改正すれば、一挙に憲法改正が進むとの懸念が強かったこともありますが、内容面の問題も争点でした。
内容面の問題点とは、特にCM規制(投票日前の国民投票運動)です。
現在の国民投票法では、「投票期日14日前からの広告放送は制限されています(国民投票広報協議会の広報を除く)が、14日前より前の期間の規制がありません。
2021年法改正の際も、このCM規制や、立法時には十分考慮されていなかったインターネット広告規制が検討されず、改正案に盛り込まれませんでした。このため、野党は「政党の資金力によってCM量に違いが出る」と規制の必要性を主張したのです。
最終的には、CM規制など以下の3項目について「法施行後3年を目途に検討を加え、必要な法制上の措置を講ずる」という付則を追加することで、与野党が合意しました。
2021年6月改正法付則で検討事項とされた内容
- 広告放送・インターネット等による有料広告の制限(CM規制)
- 国民投票運動等の資金に係る規制(外資規制)
- インターネットの適正利用の確保策
国民投票法改正(2021年)はいつから施行される?
国民投票法改正(2021年)は、既に2021年9月18日に施行済みです。
しかし、2021年改正法付則の規定を巡り、与野党で、CM規制を検討する間に改憲発議が認められるかをめぐって解釈が割れています。
他にも、検討対象にはなっていませんが、最低投票率の問題もあります。投票率が低かった場合に、過半数をとったとしても国民全体から見れば少数意見の時に、憲法の改正を推し進めるのが妥当かという疑問です。
2021年の衆議院議員総選挙の結果を受け、憲法改正議論が高まってきています。その前提となる国民投票法については、まだ検討すべき課題が残っており、さらに議論を深める必要があります。
まとめ
2021年6月に成立した国民投票法改正案について、具体的な内容や問題点などを解説してきました。
ご覧いただいたように、国民投票法は単なる手続法ではありません。私たち市民の生活にも影響が及ぶ憲法改正の方向にも関係する重要な問題です。
この記事を参考に、憲法と国民投票法の関係により関心を持っていただければ幸いです。
<参照>
HUFFPOST「国民投票法改正案とは?問題点は?今国会成立へ。」
政府広報オンライン「「国民投票法」って何だろう?」
Yahoo!ニュース「国民投票法改正案とは 成立したらすぐ改憲につながる?」
衆議院「国民投票法改正案(7項目)について」
日本経済新聞「改正国民投票法が成立 改憲手続き整備、論議環境整う」
総務省「MIC NEWS」
読売新聞オンライン「改正国民投票法成立の経緯と意義」
総務省「MIC NEWS憲法改正国民投票」