海外赴任や留学などで海外に居住することになったけれど、日本での選挙権はどうなってしまうのだろうか、と気になっている皆様に朗報です。
日本に住んでいなくても、一定の要件を満たし、一定の手続きを経れば、日本で行われる選挙に投票することができます。
在外投票とは
海外に居住しながら国政選挙に投票することを「在外投票」といいます。
2000年5月以降の国政選挙(衆議院議員選挙および参議院議員選挙)から、「在外投票」が可能になりました。
必要な手続き
「在外投票」を実施するには「在外選挙人名簿」に登録されていることが必要です。
「在外選挙人名簿」に登録するための方法は2種類あります。
出国前に申請をする「出国時申請」と、出国後に申請をする「在外公館申請」です。
海外渡航前[出国時申請]
海外渡航前、転出届の提出と同時に(あるいはそれ以降転出予定日までに)、居住していた市区町村の窓口に届け出るのが「出国時申請」です。
本人が窓口に出向くことが難しい場合は、「申出書」を提出することで、代理人による申請も可能です。
- 対象者:満18歳以上の日本国民で、国内の最終住所地の市区町村の選挙人名簿に登録されている者
- 申請期間:転出届を提出した日から転出届に記載された転出予定日までの間
- 申請先:国外への転出届を提出する場合に市区町村の窓口を通じて市区町村の選挙管理委員会宛に申請する
- 必要書類:【本人申請】在外選挙人名簿登録移転申請書[在外選挙人名簿登録移転申請書(出国時申請)]、本人確認書類(旅券、マイナンバーカード、運転免許証など)/【代理人申請(申請者から委任を受けた人)】在外選挙人名簿登録移転申請書[在外選挙人名簿登録移転申請書(出国時申請)](署名欄に登録申請者本人の署名要)、申請者の本人確認書類、申請者の申出書[申出書(出国時申請)]、代理人の本人確認書類
海外での居住を開始したら、居住地を管轄する日本の大使館又は総領事館(在外公館)に「在留届」を提出します。
「在留届」は、旅券法第16条により、海外に3カ月以上滞在する人に対して提出が義務付けられています。
「在外選挙人名簿」への登録においても、この「在留届」によって海外の住所を確認することになりますので、忘れずに提出しましょう。
海外の住所が確認されると、晴れて「在外選挙人名簿」への登録が完了し、「在外選挙人証」が発行されます。
在外公館からの連絡を受け、最寄りの在外公館または郵送で、「在外選挙人証」を受け取ります。
郵送で受領する場合は、海外における自宅住所または緊急連絡先(在留届に記載されている緊急連絡先の住所)への送付となります。
既に海外に渡航してしまっている場合[在外公館申請]
海外渡航後に申請を実施する「在外公館申請」においても、手続きの内容自体は「出国時申請」と基本的に変わりません。
ただし、本人確認書類として認められるのは原則旅券のみです。
- 対象者:満18歳以上の日本国民で、引き続き3ヵ月以上その者の住所を管轄する領事官の管轄区域内に住所を有する者(登録の申請は、住所を定めていれば3か月経っていなくても行うことができる)
- 申請先:居住している地域を管轄する日本大使館・総領事館(出張駐在官事務所を含む)を通じて市区町村の選挙管理委員会宛に申請する
- 必要書類:【本人申請】在外選挙人名簿登申請書[在外選挙人名簿登録申請書(在外公館申請)]、旅券(本人確認資料として)、【代理人申請(申請者から委任を受けた人)】在外選挙人名簿登申請書[在外選挙人名簿登録申請書(在外公館申請)](署名欄に登録申請者本人の署名要)、申請者の旅券、申請者の申出書[申出書(在外公館申請)]、代理人の旅券
「出国時申請」同様、出国時に「転出届」を提出していること、また海外居住開始後に「在留届」を提出することが必要となります。
在外選挙人名簿の登録申請先となる市区町村選管は以下の通りです(外務省HPより転記)
平成6年(1994年)5月1日以降に日本を出国した方 | 最終住所地 |
平成6年(1994年)4月30日以前に日本を出国し、その後日本国内に居住していない方(その後日本国内で転入届出をしたことがない方) | 本籍地 |
外国で生まれ日本国内に一度も居住したことがない方(一度も日本国内で転入届出をしたことがない方) | 本籍地 |
「在外選挙人名簿登録申請書」は、3カ月以上の海外滞在が確認できてから国内選挙管理委員会宛に送付され、申請書の送付から更に2か月程度を経て「在外選挙人証」が交付されるようです。
海外生活開始直後に手続きをしても、「在外選挙人証」を受け取るまでには5カ月程度要することになります。可能な限り早めの手続きを心がけましょう。
インターネットで投票できる?
残念ながら、日本国内での選挙同様、「在外投票」においても電子投票制度はまだ整備されていません。
しかし、投票用紙を日本に送付するのに要する日数等の関係で、国内と比べ投票可能期間が短く、電子投票制度の整備を求める声も多いのが実情です。
実際、解散から投開票までが17日間と、戦後最短になった2021年10月の衆議院選挙(岸田内閣による衆議院解散・総選挙)では、投票日が1日のみとなった在外公館が存在したようです。
また新型コロナウイルスの影響もあり、15の在外公館では、投票自体が見送られました。
このような場合、在外選挙人が選挙管理委員会に直接投票用紙を郵送する「郵便等投票」も選択肢に上がります。
しかし、そもそも選挙期間が短い上に、各国の郵便事情や選管内での混乱等もあり、当該選挙では「郵便等投票」でも投票が間に合わないケースが生じたようです。
2022年1月末には、インターネット上での「在外投票」実施を求める2万6千人超の署名が、林外相に提出されました。
2022年4月現在、実現には至っていませんが、少なくない人が「在外投票」におけるインターネット投票の実現を望んでいます。
国民審査は投票できない?
インターネットでの投票に加えて、「在外投票」に関してホットな話題なのが、国民審査における投票可否です。
国民審査は、最高裁判所の裁判官がその職責に相応しいかどうかを、国民が審査する制度です。
日本国憲法第79条で規定されており、衆議院選挙の投票日に実施されます。
任命後初めて行われる衆議院選挙の投票日に国民審査を受け、この審査の日から10年経過後に初めて行われる投票日に再審査を受けます(以後も同様)。
現状、国民審査は在外投票の対象外で、これが憲法違反であるかどうかが争われています。
「憲法で規定されている制度なのに、海外在住者というだけで権利を行使できないのはおかしい」というのが原告側の主張です。
すでに1審・2審では違憲判決が出ているものの、原告・被告双方が上告し、最高裁大法廷が2022年4月20日を期日として弁論を開くと発表しました。2022年夏頃までには判決が出る見通しです。
2022年5月26日追記:
最高裁大法廷は、2022年5月25日、在外法人の有権者が国民審査に投票できないのは違憲である、とする判断を示しました。裁判官15人全員一致による判決だったようです。最高裁が法令を違憲と判断したのは、戦後11例目。女性の再婚禁止期間を定めた民放の規定を巡る2015年の判決以来です。
まとめ
- 海外に居住しながら国政選挙に投票することを「在外投票」という
- 出国前または出国後に所定の手続きが必要
- 国内と比べ投票可能期間が短いため、投票の電子化を求める声も多い
- 現状国民審査は在外投票の対象外だが、これが憲法違反であるかどうかが最高裁判所で争われている(1審・2審では違憲判決)
- 2022年5月25日、最高裁大法廷は、在外法人の有権者が国民審査に投票できないのは違憲である、とする判断を示した[2022年5月26日追記]
<参考>
外務省: 在外選挙とは
外務省: 在外選挙制度導入とその後の制度改正
旅券法 | e-Gov法令検索
外務省: 在外選挙人名簿登録申請の流れ
「在留届」をご存知ですか?|外務省
総務省|在外選挙制度について
在外選挙について/京都府ホームページ
「在外投票はアナログ」 ネット投票制度求めて林外相に署名提出:朝日新聞デジタル
「投票間に合わない」「早くネット投票を」 衆院選の在外投票、海外邦人ら不満の声
外務省: 在外選挙の投票方法:在外公館投票
解散から投開票まで17日 戦後最短の衆議院選挙
在外選挙 郵便等投票のご案内
国民審査の在外投票訴訟、最高裁判断へ 1、2審は違憲 – 産経ニュース
最高裁裁判官の国民審査、在外有権者は投票できず 違憲なのになぜ?
総務省|国民審査|制度のポイントを知ろう!
国民審査の在外投票制限「違憲」 最高裁、国に賠償命令: 日本経済新聞
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