「一票の格差」是正のため、参議院における選挙区選挙において、2016年以降実施されてきた「合区」。しかしながら、「合区解消」を求める声もあるようです。
「合区」が導入された背景や現状の課題について、わかりやすく説明します。
合区とは
「合区」とは、複数の選挙区を一つの選挙区に統合することを指します。2016年以降、参議院の選挙区選挙において、島根と鳥取、徳島と高知がそれぞれ「合区」となっています。
合区概要
参議院の選挙区選挙では、原則都道府県単位で選挙区が設置され、各選挙区に2〜12の議席が配分されています。
しかし、主に都市部での人口増加と、同じく地方での人口減少が進む中、各選挙区における「議員:有権者」比率の不均衡が際立つようになり、長らく「一票の格差」として認識されてきました。(「一票の格差」について詳しくはこちら)
この「一票の格差」を是正すべく、一つの手段として導入されたのが、「合区」です。
各選挙区における「議員:有権者」の比率を平等に近づけるためには、各選挙区において①議員の数(定数)を変更するか、②有権者の数を変更するか、ということになります。
「合区」では、人口が相対的に少ない2つの選挙区を合体させることで、表面的に②を実現しつつ、実質的に①を実現しました。
従来、島根・鳥取・徳島・高知の各県における定数は2で、4県で合計8の議席を有していました。島根と鳥取、そして徳島と高知のそれぞれが「合区」となって以降は、各合区の定数が2となったため、4県合計の議席数は4となります。
定数の調整
合区設置の理由は分かりましたが、では、合区設置により減少してしまった定数(今回のケースでは4)はどのように調整するのでしょうか。
他県(他選挙区)の定数を増やすことで、トータルの議席数を合わせます。
「合区」設置を決定した2015年の公職選挙法改正時点では、参議院の選挙区選挙における総議席数は146でした(令和4年7月26日以降は148)。
この総議席数に合うように、各選挙区の定数を調整します。
当該公職選挙法改正においては、「合区」の設置や、設置に伴う定数の調整以外にも、複数の選挙区において定数が是正されました。
合区導入で改善したこと
「合区」の導入によって、目的としていた「一票の格差」是正においては一定の成果がみられました。
合区を導入した2016年の参院選(選挙区選挙)における最大格差は3.08倍。未だ3倍もの格差が存在している、ということではありますが、2010年には同5.00倍、2013年は同4.77倍であったことを踏まえると、確実に縮小しています。
2010年及び2013年の格差については、いずれも最高裁が「違憲状態」だと指摘していましたが、2016年の結果については「合憲」との判断を示してもいます。
合区の弊害と課題
「一票の格差」是正に貢献し、一見良い取り組みであったように思える「合区」ですが、実は「合区解消」を求める声も上がっています。
背景の一つにあるのが、「合区」における投票率の低下です。
「合区」導入後2回目となった令和元年7月の参院選では、徳島の投票率が全国最低の38.59%、鳥取・島根・徳島の3県では過去最低の投票率を更新しました。
「合区」の導入がこの投票率の低下などを招いたとして、中国地方知事会(鳥取・島根・岡山・広島・山口)等が意見書を出すなどしています。
また、以下のような声もあります。
「行政区域ごとに集約された地域の声は、各県独自の課題であり、隣県といえども相入れないものも存在している」(多久市議会2017年意見書)
徳島と高知の合区においては「山を隔てた徳島と高知は文化も県民性も異なり、1人の代表を決めようとしても無理がある」(2019年7月17日 産経新聞)
そもそも今回の「合区」導入が、有権者の意向確認やルール制定の面において不十分であった、といった声もあります。
「今回の合区による選挙は、あくまで緊急避難措置であり、公職選挙法の附則において、抜本的な見直しが規定されている」(多久市議会2017年意見書)ようです。今後の「合区」の動きにも注目です。
まとめ
- 「合区」とは、複数の選挙区を一つの選挙区に統合すること。2016年以降、参議院の選挙区選挙において、島根と鳥取、徳島と高知がそれぞれ「合区」となっている
- 「一票の格差」を是正すべく、一つの対応策として、「合区」が導入された
- 結果、2016年の参議院の選挙区選挙における「一票の格差」は3.08まで縮小
- しかし、投票率の低下が見られるほか、そもそも今回の「合区」導入が、有権者の意向確認やルール制定の面において不十分であったとの声も
- 「今回の合区による選挙は、あくまで緊急避難措置であり、公職選挙法の附則において、抜本的な見直しが規定されている」ため、今後の「合区」の動きにも注目
<参考>
合区とは – コトバンク
総務省|参議院選挙区選出議員の選挙区及び定数の改正等について