新聞社やテレビ局など、大手メディアが報じるニュースには「首相動静」という記事があります。
首相動静とは、メディアによって名称が異なりますが、内閣総理大臣の1日を報じたものです。国会の出席や会合の他、散髪や映画鑑賞まで、さまざまなことが記されています。
首相動静はなぜ必要なのか、また、誰がどのように取材しているのかを解説します。
首相動静とは
「首相動静」とは、内閣総理大臣(首相)が行った場所や会った人、公務やプライベートでの動向をまとめた記事です。
大手の新聞社・通信社・テレビ局などが取材をし、一般的に翌日の新聞紙面やウェブサイト上で閲覧できます。
何が書かれている?
首相動静には、首相が過ごした1日の記録が書かれています。
首相が公の場に姿を見せる場合は、国会や行事への出席、テレビ番組の出演、記者会見などです。他に、テレビには映らないような非公開の会合や会食、来客対応、公共交通機関や車での移動も記されています。
また、休日に公邸や私邸で過ごしたことや、散髪や映画鑑賞、散歩などのプライベートの行動も首相動静には載っています。
具体例を挙げると、「長崎原爆の日」である2022年8月9日、岸田文雄首相は長崎市で平和記念式典に出席しました。その様子はテレビや新聞で報道されています。
翌日掲載された各社の首相動静では「(午前)7時14分羽田空港」「9時10分日本航空605便で長崎空港」「(午後)4時42分日本航空612便で羽田空港」など、式典の前後の移動における時間や場所も記されています。
首相動静はなぜ必要?
マスメディアが首相の動きを常に追いかけるようになったのは、戦前に首相が巻き込まれる事件が相次いだことが一因です。原敬元首相の暗殺事件や、浜口雄幸元首相の襲撃事件などがありました。
1970年代から新聞社や通信社が、首相の1日を記事にまとめて報じるようになりました。
行政の最高権力者である首相の動向を日々追って記録することには、政権の考えや方針をチェックする目的があると考えられています。
名称はさまざま
首相の1日を記録した記事の名称は、各社によってさまざまです。例えば、以下のようなものがあります。(2022年8月時点)
- 「首相動静」:朝日新聞、日本経済新聞、共同通信、時事通信
- 「首相日々」:毎日新聞
- 「首相の一日」:東京新聞
- 「総理、きのう何してた?」:NHK(ウェブ版)
- 「岸田首相の一日」:読売新聞
- 「岸田日誌」:産経新聞
首相動静の取材方法
首相動静の内容は、国会や行事など公の場に姿を現す場合もありますが、それ以外は記者による取材がベースです。一般的に、各社の「総理番」と呼ばれる記者が担当しています。
「総理番」とは
総理番とは、首相の「番記者」(特定の組織や人物を専任で担当する記者)を指します。大手メディアでは、国会や政治家を取材する部署「政治部」に配属されて間もない記者が総理番を担当することがほとんどです。
総理番は複数人でシフトを組み、祝日や早朝・深夜も含めた365日、交代で首相の近くに待機して取材します。首相が地方や海外に赴く際も出張します。
首相が公の場に出ているとき以外も官邸や公邸・私邸、店の前などに張り込み、首相本人のほか来客の出入りをチェックすることが重要です。来客の場合は誰が訪れたのか、どのような用件なのかを可能な限り確認し、記事に反映します。
出入りの際には、首相や来客が記者の短い質疑に立ったまま答える「ぶら下がり取材」に応じることもあります。
首相が公務で使う車である通称「総理車」で移動するときには、代表取材として時事通信社と共同通信社の総理番が別の車(通称「番車」)で列に連なる方式です。
首相の予定は公開されている?
首相の予定は、公式行事や外遊日程など一部は報道機関に伝えられているものもあります。しかしそれ以外に、「いつ・どこで・誰と会うか」などは基本的に非公開です。各メディアは、地道に取材した結果を首相動静として載せています。
官邸や首相が入った部屋や店へ出入りした来客でも、首相と会っていたか否かや話した内容の明言を避ける場合や、取材に応じないことも少なくありません。そのため、行動の全貌を把握できないこともあります。
過去の首相動静
これまでに話題になった首相動静の一部を紹介します。
タモリ氏と「会食」?安倍元首相
安倍晋三元首相は2014年3月、当時放映していたフジテレビの人気番組「笑っていいとも!」のコーナー「テレフォンショッキング」に現役首相として初めて生出演しました。
司会のタモリ氏は番組内で、首相動静に「タモリと会食」と載せてほしいとの旨を話し、安倍元首相がその場でイチゴを食べたことが話題になります。翌日の首相動静には「タモリさんとイチゴを試食」などと載りました。
早朝散歩が日課、菅前首相
菅義偉前首相は、官房長官時代から習慣にしていることで有名だった、早朝の散歩を首相になった後も続けていました。
首相就任後は警備への配慮から散歩場所は公邸内にとどめ、一時中断したこともありますが、首相動静では「官邸の敷地内を散歩」などと記されるのが定番となっていました。
まとめ
- 「首相動静」とは、内閣総理大臣の1日の公務・プライベートの動向を取材しまとめた記事
- 首相動静の目的は、行政の最高権力者の動向を日々追って記録することで政権の考えや方針をチェックすることだと考えられている
- 首相動静の内容は「総理番」と呼ばれる記者の取材がベース
<参考>
「首相動静」何のために | 特集記事 | NHK政治マガジン
総理、きのう何してた? | NHK政治マガジン
安倍首相の動静:隠れた面会者も 「秘密主義」の横行、心配 | 毎日新聞
連載「首相動静」一覧
首相日々|毎日新聞
首相の一日:東京新聞 TOKYO Web
岸田首相の一日(22日)
岸田日誌22日(月) – 産経ニュース
首相日々:9日 | 毎日新聞
新聞記者の花形「番記者」とは? | 記者ほど素敵な商売はない by HIROSHI IKEZAWA / 生沢 浩
早朝から深夜まで緊張の連続、アナログ取材を積み重ねる「総理番」 ルポ・あの日の首相(上)
辞任表明前夜…いつも会釈の首相が、向き直って深々とお辞儀 ルポ・あの日の首相(下)
「総理番」って知ってますか | 特集記事 | NHK政治マガジン
「首相動静」を10倍楽しく読む方法 誰と会う?料亭前での駆け引き
タモリ残念!安倍首相と“会食”ならず 「首相動静」には“試食”|シネマトゥデイ
安倍首相いいともで「タモリは無形文化財」 – 芸能ニュース : nikkansports.com
9月30日(水):時事ドットコム
菅首相、日課の早朝散歩は公邸敷地内で 警備を考慮、街中は「封印」 | 毎日新聞
「首相の一日」分析してみると… 発信は後ろ向き 民間人と面会頻繁 菅首相就任1カ月:東京新聞 TOKYO Web