国際ニュースを見ていると、国家間で「条約」が結ばれた話題を目にすることがあります。
国同士の約束ということは分かりますが、具体的にはどういったものなのでしょうか?
本記事では、条約の意味や種類、締結の流れ、日本が結んだ条約の事例について分かりやすく解説します。
条約とは?
条約とは、国際的な取り決めに関する合意のことで、文書で記されるのが一般的です。
国同士の他にも、EUのような国際機構と結ぶことが可能です。大きく分けると二国間と多国間の条約があります。
締結された条約は国際法の1つとして扱われ、国内の法律と同じように法的拘束力を持ちます。
憲法・法律との関係は?
世界では「国際法は国内法より優先する」とされています。
つまり国際法である条約の方が、国が制定する法より優先されるということです。
日本国憲法第98条では、以下のように規定されています。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
引用元:日本国憲法
このため、条約を結んだ時は、その内容に合わせて国内法を改正することがあります。
ただし、条約と憲法のどちらが優先されるかについては、議論が分かれています。通説では憲法が優位とされていますが、一部の条約については条約が優位と主張されているのです。
実際に結ぶ時は、内閣法制局によって国内法との関係が厳しく審査されます。ここで条約が国内法とどうしても合わない場合、締結を控えることもあります。
日本がまだ締結していない条約は、以下の調査資料にまとめられています。
協約・協定・議定書とは何が違う?
条約にはさまざまな種類の呼び方がありますが、どれも同じ効力を持ちます。
結ぶ内容に応じて使い分ける場合があり、代表的なものは以下の通りです。
- 条約→政治的に重要度の高い厳格な取り決め
- 協約→文化的、立法的内容の場合が多い
- 協定→実施細則など、条約ほど厳格ではない場合
- 議定書→成立した条約を修正、または補完する
その他に規約、憲章、宣言、交換公文、議事録などの呼び方もありますが、同じように効力に差はありません。
条約はどうやって締結する?
ここでは、日本が条約を締結する流れと、内閣や国会との関係について説明します。
締結の流れ
基本的な締結の流れは、以下の通りです。
- 交渉→全権委任された代表者が相手の代表者と交渉
- 署名→代表者が条約の書面にサインして内容を確定させる(多国間の場合は採択とも呼ぶ)
- 締結→国が正式に合意の手続きをする(締結された条約の内容は公布によって一般に知らされる)
- 発効→決められた年月日付けで効力を発揮
締結の仕方にもいくつか種類があり、批准は最も厳格、承認や受諾は簡略化された手続きを指します。
また、すでに発効している多国間条約が新しい国の参加を許している場合、後から加盟することも可能です。
内閣・国会との関係は?
日本が条約を締結する時、内閣と国会はそれぞれの役割が決まっています。
日本国憲法によって定められた規定は以下の通りです。
第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
引用元:日本国憲法
つまり条約の締結は内閣が行いますが、国会の承認を得なければなりません。
このように役割を分けることで、内閣による迅速な外交処理と、国会で国民の意思を反映させる慎重さのバランスを取っているのです。
条約の具体例
ここでは、日本が過去に結んだ条約の実例を紹介します。
二国間条約と多国間条約をそれぞれ見ていきましょう。
日米デジタル貿易協定(二国間の事例)
日米デジタル貿易協定は、日米間の自由貿易協定である「日米貿易協定」と同時に、2020年に発効しました。
デジタル貿易とは、デジタル製品を始め、データ移転が発生する物品やサービスの国際取引を総称したものです。
この条約では、以下のような内容が取り決められました。
- 締約国間のデジタル製品の送信に関税を課さない
- 締約国のデジタル製品について、似た種類の製品と比べて不利な待遇を与えない
- ソースコード、アルゴリズム、暗号の開示要求の禁止
- SNSなどのサービス提供者に関する民事上の責任を規定
日米間のデジタル貿易を促進するとともに、世界的なルールづくりを主導する意図があるとされています。
気候変動枠組条約(多国間の事例)
気候変動枠組条約は、地球温暖化防止のために、国際的に協力していく枠組みを規定した条約です。
日本を含む155カ国の署名によって、1992年に国連で採択、1994年に発効しました。
この条約に基づいて定期的に国際会議(COP)が開かれ、そこで具体的な措置が検討されています。
その結果、1997年に京都議定書、2015年にはパリ協定が採択されます。どちらも気候変動枠組条約に基づき、より具体的な数値目標について合意されました。
この条約に加盟する国や国際機関は増え、2022年現在ではEUを含めた197の国と機関が参加しています。
まとめ
本記事では条約について解説しました。
- 条約とは国際的な取り決めに関する法的な合意のこと
- 名前が違っても効力は同じ
- 内閣が締結し、国会の承認を必要とする
- 二国間条約や多国間条約とさまざまな形がある
<参考>
条約とは – コトバンク
第117回:国際法(その2) | SFC授業紹介
国立国会図書館調査及び立法考査局
国際法と国内法の効力関係 : 国民主権・国家主権との関係を基軸として|亜細亜大学
「憲法と国際法(特に、人権の国際的保障)」 に関する基礎的資料|衆憲資第 50 号
39 憲法と条約 両立は永遠のジレンマ | 毎日新聞
「わが国が未批准の国際条約一覧」|国立国会図書館
協約とは – コトバンク
協定とは – コトバンク
議定書とは – コトバンク
条約の国会承認に関する制度・運用と国会における議論|参議院
日本国憲法
日米貿易協定|外務省
日米デジタル貿易協定|外務省
日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定の概要|参議院
【論文】日米貿易協定と日米デジタル貿易協定の何が問題なのか|自治体問題研究所
日米貿易協定と日米デジタル貿易協定の主な内容について|日本貿易振興機構(ジェトロ)
環境省_気候変動に関する国際連合枠組条約|環境省
気候変動に関する国際枠組み|外務省
気候変動枠組条約 | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター
COP3|外務省
京都議定書の骨子|外務省
2020年以降の枠組み:パリ協定|外務省