この記事では、指揮権発動について過去の事例を紹介しながらわかりやすく解説していきます。
指揮権発動とは
指揮権発動とは、法務大臣が検察官に対して指揮権を行使することです。
指揮権発動が行われたのは、戦後に1度のみです。
指揮権とは
指揮権発動の「指揮権」は、法務大臣が検察官に対して指揮・監督する権限のことです。
検察庁は、行政機関として法務省に属します。しかし、一般行政官庁とは異なり準司法的機能を持つため、法務大臣の検察官に対する権限には制約があります。
法務大臣は、事務に関しては一般的に検察官に対して指揮・監督することができますが、個々の事件については検事総長に対してのみ、と検察庁法で定められています。
指揮権発動の事例
戦後、指揮権発動が行われたのは1953年から1954年にかけての造船疑獄事件の際のみです。
造船疑獄事件
造船疑獄事件とは、海運業界と政府・与党の間の贈収賄をめぐる汚職事件です。
当時、吉田茂政権における与党自由党の政治家が多数、検察の捜査の対象となりました。しかし、検察からの佐藤栄作幹事長への逮捕要求が、政権の指示により犬養健法務大臣に見合わせられた結果、事件の捜査は頓挫しました。
この犬養法務大臣による、逮捕の延期指示が指揮権発動にあたります。
指揮権発動に関する事例
ここでは、結果的に指揮権発動はされなかったものの、指揮権発動が話題になった事例について紹介します。
陸山会事件
陸山会事件は、小沢一郎元民主党代表の政治資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反をめぐる事件です。
政治資金規正法違反については裁判で無罪が確定しましたが、その後、捜査を行った検察による捜査報告書の捏造が発覚しました。
当時の小川敏夫法務大臣は、捏造を行った検事に対する捜査を徹底させる目的で、指揮権発動について検討していたことを法務大臣退任会見で明らかにしました。
当時の野田佳彦首相が了承しなかったため、実際には指揮権発動は行われませんでした。
指揮権発動に関する議論
指揮権発動は、行政機関でありながら準司法的機能を持つ、検察庁の独立性の問題として議論の対象となっています。
検察庁は唯一公訴権を持つ機関であるため、内閣の一員である法務大臣による指揮権発動は、司法への政治的介入であるとみなされる場合もあります。
検察庁は、汚職事件など、政府関係者に対して捜査を行うケースがあります。その際に法務大臣により指揮権発動が行われると公正な捜査や起訴が行えないのではないかと懸念されています。
そのため、法務大臣の指揮権発動については慎重な扱いがされる傾向にあります。
まとめ
- 指揮権発動とは法務大臣が検察官に対する指揮・監督権を行使すること
- 戦後に指揮権発動がされたのは造船疑獄事件のときのみ
- 指揮権発動は検察庁の独立性の問題として議論の対象になっている
<参考>
検察庁法 | e-Gov法令検索
造船疑獄で指揮権発動 | NHK放送史(動画・記事)
法務大臣の検事総長に対する指揮権発動に関し内閣に警告するの決議
政権の指示で法相がついに指揮権発動:戦後初期、内閣が倒れた二つの疑獄事件(5)
指揮権発動に係る法務大臣の発言等に関する質問主意書
陸山会事件とは: 日本経済新聞 (nikkei.com)
虚偽報告書の処分は甘すぎないか|WEBRONZA – 朝日新聞社の言論サイト (asahi.com)
小川前法相、指揮権発動を首相に相談 首相は了承せず: J-CAST ニュース【全文表示】
かつて光り輝いた検察、国民の信頼を取り戻せるか
「検察庁法改正案」今さら聞けない大論争の要点 | 国内政治 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)
東京法令出版『政治・経済資料』