違憲立法審査権っていったい何?在外邦人訴訟11例目の「違憲判決」が持つ意味とは

違憲立法審査権っていったい何?在外邦人訴訟11例目の「違憲判決」が持つ意味とは

法令が憲法に違反していないかを審査する「違憲立法審査権」。

今年5月、「憲法の番人」とも呼ばれる最高裁判所が、海外に暮らす人の国民審査への投票を認めていない最高裁判所裁判官国民審査法(以下「国民審査法」)について、憲法に反しているという判決を出し、大きな話題となりました。

この違憲立法審査権とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

そして、その権限に基づき違憲判決が出ると、実際に世の中にどのような影響があるのでしょうか。

違憲立法審査権とは?

違憲立法審査権とは、法律や政令、条例などが憲法に違反していないかを審査する権限で、憲法81条には「 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と規定されています。

また、この制度を指して違憲審査制と呼ぶこともあります。

条文では「終審裁判所」として最高裁に権限が与えられていると規定されていますが、違憲審査そのものは下級裁判所でも可能とされています。

このような権限が裁判所に与えられている根拠は?

このように、違憲立法審査権は、議会が制定した法律や、行政による処分が憲法に違反していないかを審査する、重要な権限です。

では、どのような根拠に基づき、こうした権限が裁判所に与えられているのでしょうか。

 

一つ目は憲法の「最高法規性」にあります。

憲法98条には、「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」と規定されています。

しかし、この規定の意味を確保するためには、実際に憲法に反していないかどうかを審査・決定する機関が必要です。

違憲立法審査権があることで憲法の最高法規性が担保されるのです。

 

もう一つは、憲法の原則の一つでもある、「基本的人権の尊重」の存在です。

基本的人権が立法や行政によって侵害された場合、それを救済する役割が必要です。救済にあたり、「憲法の番人」として裁判所にその役割が求められると考えられています。

 

ただし、憲法違反では?と思った人が、憲法判断を希望していつでも提訴できるものではありません。

具体的な訴訟事件の解決を本来の機能とする裁判所が、その過程で憲法に関する争点について判断をする制度であるという理解が一般的です。

つまり、なにかの法令や処分によって不利益や損害などを受けたとする当事者が訴えを起こし、その具体的な訴訟事件を審理する過程で、憲法について争点となっている際に必要に応じて憲法判断するというものです。

違憲立法審査権ができた経緯は?

1803年、アメリカの最高裁判所で「連邦憲法は最高法規であり、これに反する連邦法は無効である」という判決が出され、違憲立法審査権が確立しました。

一方、憲法違反があった場合に議会が作った法律を無効とするという点で、議会中心主義が確立していた当時のヨーロッパ諸国に違憲審査制はなかなか受け入れられず、また日本でも大日本帝国憲法(明治憲法)には違憲立法審査権の規定はありませんでした。

しかし20世紀になり、ファシズムによる人権侵害などを経験し、その教訓から第二次世界大戦後、ヨーロッパでも多くの国で違憲審査制が採用されました。

日本でも、戦後にできた現在の日本国憲法で81条に違憲立法審査権が規定されています。

 

日本で初めて最高裁判所で違憲判決が出されたのは、1973年(昭和48年)の尊属殺人事件です。

この事件は、実の父親に14歳の時から性的暴行を受けていた女性が、その父親を殺害したとして尊属殺人の罪に問われたものです。

当時の刑法200条では、親や祖父母など目上の親族を殺害した場合、尊属殺人の罪として一般の殺人罪よりも重い「死刑または無期懲役に処する」とされていて、この罪に問われると執行猶予を付けることができず実刑しかありませんでした(刑法199条の尊属以外の人に対する殺人罪では「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」)。

 

この規定に対して、最高裁大法廷は「尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度の社会的道義的非難を受けて然るべき」として、尊属殺人を一般の殺人と区別し、刑を重くすること自体は憲法に違反しているとはいえないとしました。

一方で、法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限つている点において、「その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え…著しく不合理な差別的取扱いをするもの」として、憲法14条1項にある法の下の平等に反して無効であるとしました。

被告人の女性には、一般の殺人罪である刑法199条が適用され、懲役2年6月、執行猶予つきの判決が下されています。

過去の最高裁による違憲判決事例は

前述した、1973年に出た尊属殺人事件の違憲判決から、今年5月の在外邦人の国民審査に関する違憲判決まで、日本で出された最高裁による違憲判決は、これまでに全部で11例あります。主なものをご紹介します。

  • 薬局を開業する際、既存の薬局と一定の距離を空ける必要があるとした旧薬事法の規定について、憲法22条1項の職業選択の自由に反するとして最高裁大法廷で1975年(昭和50年)に違憲判決。
  • 結婚していない両親の子ども(非嫡出子)の相続分を、結婚している法律婚の子ども(嫡出子)の半分とする民法の規定について、憲法14条1項の法の下の平等に反するとして最高裁大法廷で2013年に違憲判決。
  • 離婚した女性は6カ月間再婚できないと定めた民法の規定について、憲法14条1項の法の下の平等と憲法24条2項(「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」)に反するとして、100日を超える部分について最高裁大法廷で2015年に違憲判決。

実際に違憲判決が出るとどのような影響があるのか

では、実際に最高裁判所で違憲判決がでると、どのような影響があるのでしょうか。

これまで最高裁で違憲判決が出されたケースでは、その後、いずれも法律が改正されています(直近5月の違憲判決を除く)。

 

今年5月の違憲判決では、海外に暮らす人の国民審査への投票を認めていない最高裁判所裁判官国民審査法(以下「国民審査法」)について、「憲法は、選挙権と同様に国民審査の権利を平等に保障しており、権利を制限することは原則として許されない」とし、さらに「投票を可能にするための立法措置が著しく困難とはいえず、やむをえない事情があるとは到底いえない」と指摘しました。

 

判決を受けて、選挙を管轄する総務省の金子恭之大臣(当時)は、閣議後の記者会見で「判決を厳粛に受け止め、判決内容を踏まえ、国民審査の在外投票を可能とするための方策について、関係各方面とも協議しつつ、早急に検討してまいります」と述べました。

憲法違反とされた内容について今後見直しされ、在外邦人が海外から国民審査に投票できるようになることが予想されます。

まとめ

  • 違憲立法審査権とは、法律や命令、処分などが憲法に違反していないかを審査する権限。
  • アメリカで確立し第二次世界大戦後世界的に広がった。
  • 日本でも、大日本帝国憲法(明治憲法)には規定がなかったが現在の日本国憲法81条に規定がある。
  • 日本で初めて最高裁で違憲判決が出たのは、1973年の尊属殺人事件。今年5月の在外邦人5人が国を訴えた裁判で、今年5月に11例目の違憲判決。
  • 最高裁による違憲判決が出た場合、過去のケースではいずれも法律が改正されている。

 

<参考>
違憲立法審査制度ージャパンナレッジ(改訂新版・世界大百科事典)
5分で解ける!憲法の番人・違憲立法審査権に関する問題ートライイット
憲法訴訟に関連する用語等の解説ー衆議院憲法調査会事務局
憲法保障(特に、憲法裁判制度及び最高裁判所の役割)」に関する基礎的資料ー衆議院最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会
違憲立法審査権とはーコトバンク
裁判例ー裁判所
日本国憲法の話-今だから、もういちど憲法を読み直そう-14条④ー資格の学校TAC
「立憲主義、憲法改正の限界、違憲立法審査の在り方」に関する資料ー衆議院憲法調査会事務局
「伝家の宝刀」違憲立法審査権 11例目の「法令違憲」判断ー毎日新聞
▼裁判例検索ー裁判所https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/936/051936_hanrei.pdf
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/520/083520_hanrei.pdf
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/547/085547_hanrei.pdf
国民審査 “在外の日本人が投票できないのは違憲” 最高裁判決ーNHK
金子総務大臣閣議後記者会見の概要ー総務省
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