「『政教分離』は政治と宗教は一切関わってはいけないということ?」
「日本の政教分離について知りたい」
「海外の政教分離の状況は?」
「そもそも政教分離とはどういうもの?」
政教分離は、政治と宗教の分離を制度として保証することで、信教の自由を保障するための憲法原則です。
本記事では政教分離とは何かという基本や日本国憲法における政教分離規定、政教分離に関する判例を紹介しています。
政教分離とは
政教分離とは、国家(政府)と教会(宗教団体)を分離する原則のことを指し、政教分離原則とも呼ばれます。
政治と宗教との分離を制度として保証することで、信教の自由を保障するための憲法原則として採用されるようになりました。
中世および近世ヨーロッパにおいては、国家と教会、国権と教権が密接に結合していたため信教の自由が認められていませんでした。
そのような中で、国教または公認の宗教以外の信者は異端として、刑罰を含む迫害を受けたのです。
17〜18世紀頃から宗教的寛容と国家の宗教的中立の制度がヨーロッパ社会に広まるにつれ、政教分離が信教の自由の保障のための憲法原則として広く採用されることになりました。
政治と宗教の完全な分離を意味するものではない
政教分離は、基本的には信教の自由を保証するための原則であるため、政治と宗教の完全な分離を意味するものではありません。
例えばアメリカでは政教分離を採用していますが、歴代大統領は、就任式直前に教会で礼拝を行うのが慣習となっており、宣誓式では聖書に手を載せて、憲法第2章第2条第8項に規定されている「私は合衆国大統領の職務を執行し、全力を尽くして合衆国憲法を維持し、保護し、擁護することを誓う」という文章を読み上げます。
また、イギリスも信教の自由が確保されているため政教分離国家といえますが、エリザベス女王の国葬はイギリス国教会のウェストミンスター寺院で行われました。
このように政治的セレモニーと宗教は完全に分離しているわけではなく、政教分離は国によってさまざまな形態で実施されているのです。
日本国憲法で定められた政教分離
日本における政教分離について解説します。
日本国憲法の以下の部分が政教分離規定にあたるとされています。
- 20条1項後段
- 20条3項
- 89条前段
それぞれの条文を抜粋します。
20条1項後段
いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
20条3項
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
89条前段
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
政教分離に関する判例
以下の判例を元に、日本における政教分離原則について見ていきましょう。
- 津地鎮祭訴訟
- 愛媛玉串料訴訟
津地鎮祭訴訟
昭和40年に津市が主催した津市体育館の起工式(地鎮祭)が、宗教法人である神社の宮司主宰の下に神式にのっとって挙行され、その挙行費用に公金が支出されたことについて、適法性が争われたものです。
判決においては、地鎮祭の目的は世俗的なもので神道を援助、助成、促進するものではないため、憲法第20条第3項により禁止される宗教的活動には当たらず、これに対する公金の支出も憲法第89条に違反するものではないとされました。
愛媛玉串料訴訟
愛媛県が靖国神社に玉串料を公金から支払ったことの是非が問われた訴訟で、最高裁は「特定の宗教団体を支援し、他とは異なる特別なものである印象を与える」と指摘。
国や自治体の宗教的活動を禁じる憲法20条3項、宗教団体に公金を支出してはならないとする同89条に違反すると結論づけました。
最高裁は憲法の「政教分離原則」に反するとの初判断を示した判例です。
まとめ
本記事では政教分離について解説しました。以下に内容をまとめます。
- 政教分離は国家と教会を分離する原則のこと
- 政教分離の目的は、政治と宗教の分離を制度として保証することで、信教の自由を保障すること
- 政教分離は政治と宗教の完全な分離を意味するものではない
- 津地鎮祭で津市が神式の起工式に公金を支出したことについては、政教分離に違反しないと判決が下された
- 愛媛県が靖国神社に公金から玉串料を支出したことについては、政教分離に違反するとの判決が下された
<参考>
政教分離(せいきょうぶんり)とは
アメリカの「政教分離」は「政治と宗教の分離」ではない=中岡望 | 週刊エコノミスト Online
二 津地鎮祭事件の最高裁判決:文部科学省
1997年4月2日 愛媛玉串料訴訟、最高裁が違憲判決
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