社会保障制度とは?医療や年金の各制度や財源を解説

社会保障制度とは?医療や年金の各制度や財源を解説

「社会保障費の増大」「社会保障制度の問題点」などと、日々のニュースで耳にすることがあります。

社会保障制度は、医療や年金、介護や育児など、私たちの人生に深く関わってきますが、どのようなものがあるのでしょうか。

また、費用の予算や財源はどのような状況なのでしょうか。

本記事では、社会保障制度の歴史や各分野の具体的な内容に加え、社会保障関係費の状況について解説します。

社会保障制度とは

社会保障制度とは、国などが主体となって国民の生活を支えるセーフティーネットです。

社会保障という概念の源流は、17世紀のイギリスで制定された「エリザベス救貧法」だと言われます。貧しい人に仕事を与えたり、働けない人を救済したりする、世界初の公的扶助制度でした。

日本の社会保障制度

日本の社会保障は、大きく分けて4部門で構成されています。

各部門の具体例と費用負担は以下の通りです。

  • 公的扶助:生活保護制度。費用は全額公費
  • 社会保険:年金、医療、介護、雇用、労災の各種保険。費用は保険料など
  • 社会福祉:子どもや高齢者、障害者などに関する福祉。児童手当や保育園、障害者支援施設、介護サービスなど。費用は全額公費
  • 公衆衛生・保健医療:医療保険や予防接種、健康診断、上下水道の管理など。費用は全額公費

制度の実施主体は、国・都道府県・市区町村です。

  • が主体:年金制度、雇用政策、労働保険(雇用保険、労災保険)など
  • 都道府県が主体:国民健康保険の財政運営、健康保険(協会けんぽ)、後期高齢者医療(75歳以上)、生活保護など
  • 市区町村が主体:国民健康保険の資格管理や給付、介護保険、児童手当、社会福祉サービスなど

日本の社会保障の歴史

日本の社会保障制度は、1874年に定められた救貧制度「恤救規則(じゅっきゅうきそく)」が最初だといわれます。重い障害を持つ人や70歳以上の老人、重病者、13歳以下で貧しく身寄りのない子どもを対象に、救済措置を規定しました。

その後1922年に健康保険法が制定され、初の社会保険制度が作られます。

戦後、日本国憲法が制定され、いわゆる「生存権」が定められました。

第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

引用元:日本国憲法

1947年から1964年にかけて、「社会福祉六法」と呼ばれる6種類の法律が制定されました(名称は現在のもの)。

  • 児童福祉法(1947年)
  • 身体障害者福祉法(1949年)
  • 生活保護法(1950年)
  • 知的障害者福祉法(1960年)
  • 老人福祉法(1963年)
  • 母子及び寡婦福祉法(1964年)

社会保障制度の具体例

社会保障制度の対象や内容はさまざまですが、私たちの一生に欠かせない存在です。各分野の社会保障制度には、どのようなものがあるのでしょうか。

医療:国民皆保険制度

1961年に実施された「国民皆保険制度」により、全ての国民は働き方などに応じていずれかの医療保険制度に加入することになっています。

医療保険は大きく分けると、次の3種類です。

  • 会社員とその家族などが加入する被用者保険
  • 自営業者などが加入する国民健康保険
  • 75歳以上が加入する後期高齢者医療制度

私たちがけがや病気で病院を受診し、保険適用内の治療を受けた際、窓口で健康保険証を提示すれば支払う金額が一部になることが一般的です。これは、この保険制度によるものです。

年金:公的年金制度

公的年金制度とは、老後や、障害を負って働けなくなったとき、また生計を維持していた人が亡くなったときに生活を支える制度です。状況に応じて、老齢年金・障害年金・遺族年金があります。

現役で働いている時には保険料を納め、上記のような状況になったときに支給を受ける仕組みです。

日本の年金は「2階建て」といわれ、20歳以上60歳未満の人全てが加入している国民年金(基礎年金)と会社員・公務員が加入する厚生年金があります。会社員や公務員は2種類の年金制度に加入しているため、2階建てといわれています。

厚生労働省による2019年の調査では、高齢者世帯のうち48.4%が年金収入のみで生活しているという結果が出ました。高齢になり、働けなくなるのは誰にでも起こりうることです。

しかし少子高齢化の進行によって、若い世代ほど受け取る年金額に比べて負担が大きくなってしまっている状況です。増加する高齢者世代を、減少する現役世代が支える構造が顕著になっています。

2004年に実施された年金制度改革では「人生100年時代」に対応するためとして、保険料の段階的な引き上げや国庫負担率の増加(3分の1から2分の1へ)、社会情勢に合わせて年金の給付水準を調整する「マクロ経済スライド」などが導入されました。

介護:デイサービスや施設利用

国民は、40歳になると介護保険に加入し保険料を支払います。

65歳以上で自治体から介護が必要であるという認定を受けると、その程度に応じて各種介護サービスを受けられるようになる仕組みです。40歳以上65歳未満でも、特定疾病で介護が必要になった場合は対象になります。自己負担額は、利用にかかった費用の1割(一定以上の所得がある場合は2割または3割)です。

例えば、自宅で介護を受ける訪問入浴や訪問リハビリ、デイサービスなどへの通所、特別養護老人ホームへの入所などが対象となります。

子ども・子育て:保育園や児童手当

保育園の設置や運営、児童手当の給付、親元で暮らせない事情のある子どもを育てる「社会的養護」などがあります。

保育園に関しては、希望していても入所できない「待機児童」が社会問題となりました。子どもの預け先がないために、保護者が育児休業から復帰できなかったり、仕事を続けられなくなったりするケースもあり、保育施設の増加が求められました。

現在待機児童は減少傾向にありますが、「隠れ待機児童」が指摘されています。2001年から「認可保育園に入りたかったが入れず、認可外の保育施設に預けて待機している」場合は待機児童にカウントされない制度になったためです。

保育園には入れても、自宅から遠方だったり、兄弟を別々に送迎しなければならなかったりと、希望通りの園を選べないことで不便な生活を強いられることもあります。保育士などの人員不足も問題となっています。

雇用:雇用保険・労災保険

雇用保険と労災保険を合わせて「労働保険」といいます。

会社などの事業主は、1人でも雇用契約を結び労働者を雇った場合は雇用保険の加入手続きをしなければなりません。労働者の生活や雇用の安定を図るためです。事業者と労働者はいずれも雇用保険料を支払い、例えば失業した場合は失業手当を受け取ります。

2022年10月1日から雇用保険料が引き上げられ、事業者・労働者いずれも負担額が増えました。これは、新型コロナウイルスの感染拡大による影響で雇用が減少するのを防ぐ「雇用調整助成金」の支給額が増加し、財源が不足したためです。

コロナ禍では、売上高が減少するなど事業活動が縮小した事業者が多くありました。雇用を維持し労働者を守るため、社員を休業させた事業者に対し、休業手当の一部を国が助成する雇用調整助成金が設けられました。

雇用調整助成金に関しては、休業していたふりをして助成金を受け取るなどの不正受給も問題になっています。

労災保険は、労働者が業務や通勤を理由にけがをしたり、亡くなったりした場合に労働者やその家族を守るための制度です。労災保険料は、事業主が負担します。

社会保障関係費の状況

深刻化する高齢化などを理由に、日本の社会保障関係費は増え続けてます。

社会保障費の現状

社会保障制度のために必要な費用は、国の歳出の中で最も多くの割合を占めています。

2022年度の当初予算は過去最大の107.6兆円ですが、そのうち33.7%の36.3兆円が社会保障関係費です。

日本の歳出は1990年に66.2兆円でしたが、30年あまりで40兆円以上も増大し、財政悪化が問題になっています。1990年の社会保障関係費用は11.6兆円で、現在は3倍以上になっています。

社会保障費増大の背景にあるのは、世界的にも早いスピードで進む高齢化です。

分野別の社会保障給付費は、年金が58.5兆円、介護が12.7兆円、医療が40.7兆円、子ども・子育てが9.5兆円となっています(2021年時点)。合計129.6兆円で、この財源は保険料が72.4兆円の他、残りのほとんどを税金と借金で賄っている状況です。

社会保障と税の一体改革

社会保障費は本来、保険料で賄うのが理想的です。しかし、少子高齢化が進む中では支払う側と受給する側の人口バランスが崩れ、難しい現状です。これらの問題に対応するため、2012年に関連法案が成立し「社会保障と税の一体改革」が行われました。

「税」に関しては、全ての世代が公平に費用負担し、社会保障費の財源を確保するために消費増税が実施されました。一方で「社会保障」では、幼保無償化など子育て世代を対象とする改革がなされています。消費増税による増収分は、全て社会保障費に充てられる仕組みです。

国家予算の決め方や金額についてはこちらの記事で解説しています。
国会で予算が成立する仕組みは?決め方や暫定予算・補正予算も解説 | スマート選挙ブログ

まとめ

  • 社会保障は、国などが国民の生活を支えるセーフティネット
  • 日本の社会保障制度は公的扶助・社会保険・社会福祉・公衆衛生がある
  • 具体的な社会保障制度では、国民皆保険制度や公的年金、保育園や児童手当、労働保険などがある
  • 高齢化などを理由に、社会保障費の増大が懸念されている。国の歳出の最も多くを占め、30年余りで約3倍に増えている

 

<参考>
『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
社会保障とは何か
協会けんぽの概要
医療保険制度の基礎知識|知って得する!?健康保険|けんぽれん[健康保険組合連合会]
知っておきたい年金のはなし
年金改革とは? 制度が抱える課題と改革のあゆみ
介護保険とは | 介護保険の解説 | 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」
公表されている介護サービスについて | 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」
サービスにかかる利用料 | 介護保険の解説
子ども・子育て支援 |厚生労働省
「保育園いれるのあきらめた」双子持つ母の失望 待機児童減ったのに
「#保育園に入りたい」は終わってない 待機児童問題の先にあるもの
待機児童問題「見える化」プロジェクト:朝日新聞デジタル
雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか! |厚生労働省
労働保険への加入について
雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)
雇用保険料、来年度引き上げ コロナで財源枯渇―政府:時事ドットコム
雇用保険料率10月から引き上げ 労働者と事業主負担増
休業支援金不正受給公表|福岡労働局
増大する社会保障とは何か 財務省
高齢化で増え続ける社会保障費 財務省
なぜ社会保障費は増えるのか 財務省
[国の財政] 歳出~社会保障関係費~ | 税の学習コーナー|国税庁
持続可能な社会制度の構築に向けて 財務省
社会保障費を賄うのになぜ消費税なのか 財務省
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