イギリスの政治に関するニュースの中で、「シャドー・キャビネット」という言葉がたびたび登場します。
あまり聞き馴染みがない言葉で、理解があいまいな方は多いのではないでしょうか。
シャドーキャビネットは、野党が政権交代に備え組織する現内閣への対抗機関です。
この記事では、シャドー・キャビネットとはどういうものか、またそのメリットを簡単に解説します。
また、イギリスや日本におけるシャドーキャビネットの事例についても紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
シャドー・キャビネット(影の内閣)とは
ここでは、シャドー・キャビネットの概要とそのメリットを解説します。
野党が組織する現内閣への対抗機関
シャドー・キャビネット(Shadow Cabinet)とは、野党が政権交代に備え、現内閣に対抗して組織する機関で、イギリスを発祥とします。
主な活動は、政府の政策批判や代替政策の立案、次期選挙に向けた準備などです。
シャドー・キャビネットには、内閣に対応した形で首相や閣僚のポストが置かれ、野党幹部らを中心に構成されます。
Shadowは「影の」Cabinetは「内閣」を意味することから、日本では「影の内閣」と訳されます。
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シャドー・キャビネットのメリット
シャドー・キャビネットを導入することは、健全な議会政治の実現につながります。
健全な議会運営には、十分な政策立案能力を有し、政権交代可能な野党の存在が必要です。
シャドー・キャビネットを組織することで、野党の政治的責任がより明確化され、同時に与党の緊張感も高まります。
結果、与野党による政策議論は、互いに政権交代を意識した、より建設的なものになっていくでしょう。
イギリスにおけるシャドー・キャビネット
シャドー・キャビネットは、19世紀後半のイギリスで誕生しました。
イギリスでは、シャドー・キャビネットは公職とされており、その運営には予算が計上され、議会内に専用執務室が置かれます。
また、シャドー・キャビネットの適正な反対活動を可能にするため、与党から必要な情報が提供されることが慣習となっています。
野党が政権交代を果たすと、シャドー・キャビネットがそのまま新内閣を組織するのが一般的です。
なお、保守党と労働党では、組織方法や名称に違いがあります。
- 保守党:
- 党首が閣僚を任命する
- 諮問委員会(Consultative Committee)と呼ばれる
- 労働党:
- 議会労働党によって選出される
- 議会委員会(Parliamentary Committee)と呼ばれる
日本におけるシャドー・キャビネット
日本でもイギリスにならう形で数々のシャドー・キャビネットが組織されてきました。
社会党の「社会党シャドーキャビネット」に始まり、新進党の「明日の内閣」、民主党の「次の内閣」などが挙げられます。
ここでは、野党時代の自民党によって組織された「シャドウ・キャビネット」と、先日新たに発足した立憲民主党による「次の内閣」を紹介します。
自民党による「シャドウ・キャビネット」
2008年、自民党は衆院選で民主党に敗れ、約15年ぶりに野党に転落しました。
野党第一党となった自民党が、2010年9月に発足させたのが「シャドウ・キャビネット」です。
政権経験のある野党による影の内閣の組織は初めてであり、当時総裁だった谷垣氏は「日本初の本格的シャドウ・キャビネット」とアピールしました。
2012年に自民党が政権に復帰したことで廃止されています。
立憲民主党による「次の内閣」
2022年8月26日、立憲民主党の泉代表は、「次の内閣(ネクスト・キャビネット)」の設置を表明しました。
次の内閣を通じて、立憲民主党の政権担当能力をアピールする狙いがあります。
起用された13人のメンバーには、ベテラン議員だけではく、若手や女性も含まれています。
9月13日には初の閣議が開かれ、経済対策や子育て支援策について意見交換が行われました。
まとめ
この記事では、シャドー・キャビネットの概要やメリット、日本やイギリスの事例を解説しました。
- シャドー・キャビネットは、野党が政権交代に備え、現内閣に対抗して組織する機関で、日本では影の内閣とも呼ばれる
- シャドー・キャビネットを通じて、健全な議会政治の実現が期待できる
- シャドー・キャビネット発祥のイギリスでは、公職とされている
- 日本でもイギリスにならう形で多くのシャドー・キャビネットが組織されてきた
<参考>
読売新聞オンライン | 立民「次の内閣」 説得力ある政策を示せるか
山陽新聞 | 「次の内閣」 野党は公約の準備今から
財務省 | 危機対応と財政(2) 英米の選挙と議会
All About | 日曜日の政治用語 影の内閣
若松新(1996)「英国の政治機構における与野党の建設的関係(1)」,『早稲田大学社会学研究』,第53号,p57-p107
若松新(1997)「英国の政治機構における与野党の建設的関係(2)」,『早稲田大学社会学研究』,第54号,p67-p100