表現の自由はどこまで許される?正しい意味や判例もわかりやすく紹介

表現の自由はどこまで許される?正しい意味や判例もわかりやすく紹介

近年インターネットが発達したことで、誰もが自由に自分の表現したいことを発信できるようになりました。

しかし、表現の仕方を巡るトラブルや議論が増えているのも事実です。

そこで問題となってくる「表現の自由」ですが、そもそもどういったもので、どこまで許されているのでしょうか。

本記事では表現の自由について、日本国憲法の条文を交えてわかりやすく解説し、重要な判例についても紹介します。

表現の自由とは

表現の自由は憲法によって保障されている権利です。

個人の自己実現を保障するとともに、自由な討論によって運営される民主社会では特に重要とされます。

ここでは正しい意味と、憲法でどのように規定されているかについて見ていきましょう。

正しい意味は?

表現の自由とは、個人が持っている思想・意見・感情などの精神活動を、外部に向かって表明する自由のことです。

文字を始め、画像・映像・音声などの形態を問わず、あらゆる表現が該当します。

表現にはさまざまな方法があり、また必然的に受け手がいることから、以下のような内容が含まれます。

  • 言論の自由(言語によって表現を行う自由)
  • 知る権利聴く自由・読む自由・視る自由)
  • アクセス権(マス・メディアに受け手の意見を伝達するように要求する権利)
  • 報道の自由(報道機関によって事実を国民に伝える自由)
  • 放送の自由(主に電波メディアを用いて放送する自由)
  • 出版の自由(著作物を印刷して刊行する自由)
  • 示威行動の自由(抗議のためにデモや集会を行う自由)
  • 営利広告の自由(利益を目的として製品やサービスを紹介する自由)
  • 性表現・名誉毀損的表現の自由(性の芸術的価値や公人の問題点について表現する自由)

このように情報を得たり伝達したりするコミュニケーション全般の自由を指し、ほとんどすべての自由に不可欠な基本的権利とされます。

憲法における規定

表現の自由は、日本国憲法で保障されている「基本的人権」のうち「精神的自由権」にあたる国民の権利です。

憲法では第21条に規定されています。

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

引用:日本国憲法

憲法は表現の自由について一切を保障しており、国家の介入を厳しく制限しています。

ただし憲法第12条において、自由権の制限についても明記されている点に注意が必要です。

第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

引用:日本国憲法

このように表現の自由は最大限に尊重されますが、権利の濫用は禁止されており、公共の福祉を理由に制限される可能性があります。

表現の自由はどんな時に制限される?

表現の自由は、一般的には「公共の福祉」に反する場合は認められないと考えられています。

ここでは公共の福祉の意味と、現代に新しく浮かび上がってきた問題点について見ていきましょう。

公共の福祉とは

公共の福祉は、一般的に社会全体の利益と理解されています。

しかし具体的に何を指すのかが不明確なため、長年議論されてきました。

有力な通説は「人権相互間の矛盾・衝突を調整するための原理」というものです。

つまり他者への人権侵害にあたる場合、表現の自由は制限されるという解釈になります。

一方、通説に対して「公共の福祉を理由に無制約な規制が行われる危険性がある」という指摘があるのも事実です。

国連の自由権規約人権委員会からも疑念が出されており、国内では公共の福祉について解釈の見直しを求める声が上がっています。

現代の問題点

近年、メディアやインターネットの発達により、表現の自由について新たな問題点が浮かび上がっています。

特に議論されているのが、他者の名誉・プライバシーを侵害する「誹謗中傷」と「ヘイトスピーチ」です。

ヘイトスピーチとは、特定の人種・民族・国籍・特性などを持つ人に対する憎悪表現を意味します。

ネットの性質上、誹謗中傷やヘイトスピーチは拡散しやすく、情報の広がるスピードも早いという特徴があります。

そのため人権侵害が起きても救済が間に合わないことがあり、大きな問題となっているのです。

さらに現行の裁判制度では時間・労力・費用がかかり過ぎるため、被害者側の負担が大きいとされます。

こうした現状を受けて、法律で事前に規制するべきといった意見が出ています。

日本では「プロバイダ責任制限法」「ヘイトスピーチ解消法」などが施行され、対応が強化されました。

参考:プロバイダ制限責任法 | e-Gov法令検索
参考:ヘイトスピーチ解消法 | e-Gov法令検索

一方で、表現の自由の規制は最小限でなければならないとされ、兼ね合いについて現在も議論が続いています。

表現の自由に関する判例

ここでは、表現の自由に関する裁判の重要な判例を紹介します。

悪徳の栄え事件

悪徳の栄え事件は、翻訳出版された書籍がわいせつ文書にあたるかどうかが争われた刑事事件です。

わいせつ性のある小説について、表現の自由に基づく芸術的・思想的価値とわいせつ性のどちらが優先されるかが争点となりました。

裁判の結果は一審では無罪とされましたが、二審で有罪となります。最高裁への上告は棄却されました。

判断基準は、芸術的・思想的価値とわいせつ性は別次元の問題という点です。

わいせつ性が認められる場合は、表現の自由に関わらず刑法第175条(わいせつ物頒布等)の適応を受けるという認識が示されました。

北方ジャーナル事件

北方ジャーナル事件は、公人の批判に関する出版差止めについて争われた事件です。

公職選挙の候補者への批判記事を掲載しようとした雑誌に対し、候補者が訴え出たため、裁判所が出版差止めの仮処分を出しました。

これを不当とする雑誌側が損害賠償を請求しましたが、第三審までいずれも棄却されます。

事前の出版差止めについて、憲法が禁止する検閲にあたるかが争点となりました。

最高裁の判決では、検閲は行政が行うものを指すため、裁判所が行う場合は検閲にあたらないとされます。

また、差止め自体の是非についても基準が示されました。

原則として、公務員や公職選挙の候補者に対する評価・批判については、差止めは認められないとされます。

つまり、基本的に公人・著名人に対する批判は表現の自由として保護されるということです。

ただし例外的に、差止めが許される条件として以下の3つが示されました。

  1. 真実ではない
  2. 公益を図る目的ではない
  3. 被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る場合

1か2のどちらか一方が明白で、加えて3の条件が当てはまる場合は、表現の自由として認められません。

大阪市ヘイトスピーチ条例

大阪市ヘイトスピーチ条例は、大阪市が市民の人権を擁護する目的でヘイトスピーチを規制した条例です。

参考:大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例|大阪市

これが表現の自由を侵害しているとして、市民の訴えにより裁判となりました。市の条例が憲法第21条に違反するかどうかが争点となります。

最高裁は条例が表現の自由を制限していることを認めた上で、合憲の判決を出しました。

条例の目的が合理的かつ正当であり、表現の自由の制限は必要最小限に留まっていることが根拠となります。

ヘイトスピーチに関する最高裁初の判決として、近年とても注目された判例です。

まとめ

本記事では、表現の自由について解説しました。

  • 表現の自由とは、個人が表明する思想・意見・感情などについて、公権力に規制されない自由のこと
  • 表現の自由は無制約ではなく、公共の福祉に反する場合は制限される場合がある
  • 公共の福祉とは他者の権利を侵害しないことだが、規制と自由の兼ね合いが課題
  • 表現の自由を制限する場合は必要最小限でなければならない
  • 誹謗中傷やヘイトスピーチは表現の自由として認められない

 

<参考>
表現の自由とは – コトバンク
基本的人権 4.精神的自由権|参議院憲法審査会
日本国憲法 | e-Gov法令検索
基本的人権 2.人権と公共の福祉との関係、権利と義務|参議院憲法審査会
「公共の福祉(特に、表現の自由や学問 の自由との調整)」に関する基礎的資料|衆憲資第46号
自由権規約委員会は 日本政府に どのような改善を求めているのか|日本弁護士連合会
法務省:ヘイトスピーチ、許さない。
SNS上での誹謗中傷への対策に関する 取組の大枠について|総務省
プロバイダ制限責任法 | e-Gov法令検索
ヘイトスピーチ解消法 | e-Gov法令検索
『悪徳の栄え』事件 第一審|京都産業大学
『悪徳の栄え』事件 控訴審|京都産業大学
『悪徳の栄え』事件 上告審|京都産業大学
昭和39(あ)305 猥褻文書販売、同所持| 裁判所 – Courts in Japan
全文・昭和39(あ)305 猥褻文書販売、同所持| 裁判所 – Courts in Japan
『北方ジャーナル』事件 第一審|京都産業大学
『北方ジャーナル』事件 控訴審|京都産業大学
『北方ジャーナル』事件 上告審|京都産業大学
昭和56(オ)609 損害賠償 | 裁判所 – Courts in Japan
全文・昭和56(オ)609 損害賠償 | 裁判所 – Courts in Japan
ヘイトスピーチ|大阪市
大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例|大阪市
法務省:ヘイトスピーチに関する裁判例
法務省:ヘイトスピーチに関する最高裁判決
令和3(行ツ)54 公金支出無効確認等請求事件 | 裁判所 – Courts in Japan
全文・令和3年(行ツ)第54号 公金支出無効確認等請求事件|裁判所 – Courts in Japan

この記事を書いた人
Akira

大学では日本近代史を専攻し、外交史を学んでいました。現在は政治・歴史・経済のテーマを中心に扱うフリーライターです。
政治・選挙に役立つ情報を、分かりやすくお届けできるよう心がけています。

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