日々のニュースを見ていると、記者会見や政治家のインタビューなどがどのような仕組みで行われているのか、気になることがあるのではないでしょうか。
日本の大手メディアによる報道には「記者クラブ制度」があります。本記事では、記者クラブとはどのような組織なのか、わかりやすく解説します。
大手マスコミだけが特権を得ている閉鎖的な組織として「記者クラブはいらない」といった批判もあります。記者クラブのメリット・デメリットや問題点の他、実際にある記者クラブの事例も紹介しています。
記者クラブとは
記者クラブとは、報道機関に所属する記者などによって構成される、取材・報道のための自主組織です。例えば省庁や都道府県警察、都道府県庁など、取材対象となる機関ごとに設けられています。
記者クラブの起源は明治時代まで遡ります。第1回帝国議会が開かれた1890年、政府側によって議会取材が制限されたことに対し、報道機関が団結して傍聴を求めたことが始まりです。
誰が所属・運営している?
記者クラブは自主組織のため、その規模や内容、入会対象者などはそれぞれ異なります。
一般的には、以下のようなメディアの記者などが所属しています。
- 全国紙(朝日新聞、読売新聞など)
- 通信社(共同通信社・時事通信社)
- 日本放送協会(NHK)・民放テレビ局
- 地方新聞や地方テレビ局
- 専門紙など
記者クラブに入会するには、報道機関の社員であることの証明や氏名の登録に加え、身分証明書や顔写真の提出が必要なこともあります。また、運営に必要な経費は各社でお金を出し合って負担していることが一般的です。
多くの場合、加盟各社が輪番制で幹事社として記者クラブの代表を務め、自社の業務とは独立した立場で事務を行っています。
記者会見や代表取材などを行う
記者クラブは、必要に応じて記者会見を主催します。具体的には、記者会見の出席者の管理や、場所の準備、当日の司会進行などです。
省庁や自治体の記者クラブなどでは、担当大臣や首長などが定期的に質疑応答に対応する「定例記者会見」が行われています。
また、ニュースとなるような事態が起きたときには、担当者に記者会見への出席・説明を求めることもあります。取材対象となる機関や団体などが、広報のために記者会見の開催を要望することもあり、開催のパターンはさまざまです。
取材対象のある建物内に、担当記者が常駐する「記者室」や「記者会見室」が設けられていることもあります。
加盟社を代表した記者が取材対象者の対応や取材を行い、内容を各社に共有する代表取材も重要な役割です。
日本特有の制度?
日本では全国的に普及している記者クラブ制度ですが、欧米諸国などには記者クラブはなく、日本独特の仕組みだと言われています。
ただし海外でも、その国で知られている大手メディア以外には掲載媒体や取材者の厳しいチェックがあったり、取材を制限されたりするケースがあるようです。
記者クラブのメリット
記者クラブ制度には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
情報公開を求める役割
記者クラブが生まれたきっかけでもあるように、公機関などが取材に非協力的だったり、情報を出し渋っていたりすると捉えられる場合、記者クラブが団結して情報公開を求めることがあります。
権力を持つ機関を監視し、必要に応じて公開を求めることは、取材・報道の自由や国民の知る権利を守るために重要です。
メディアスクラムを防ぐ
記者会見に出入りする媒体や記者を把握したり、ルールを設けたりすることで、取材対象者や取材の場の安全を維持する役割もあります。
大きな事件や事故があった際、報道が過熱して、被害者などに記者が押しかけて負担を与えてしまうことがあります。「メディアスクラム(集団的過熱取材)」と呼ばれ、問題視されてきました。
記者クラブの幹事社が取材を申し入れたり、各社の質問事項を取りまとめたりする代表取材によって、メディアスクラムの防止が図られています。
デメリットはある?記者クラブの問題点・批判
大手メディアの報道においては欠かせない仕組みとなっている記者クラブですが、多くの批判や問題点の指摘も後を絶ちません。
「閉鎖的」「特権的」との批判
記者クラブが記者会見や発表情報を独占してしまうと、加盟社以外のメディアや個人のジャーナリストなどに取材の機会がなく、不平等で閉鎖的だという指摘があります。
記者会見は、掲載媒体や取材者の氏名・連絡先などを提示すれば、参加できることが一般的です。一方で、記者会見の開催予定など、取材のきっかけとなる情報自体が積極的に公開されないことも多く、格差があるのも現状です。
公機関と癒着?
例えば官公庁の建物の中に記者室があったり、記者クラブに「投げ込み」と呼ばれる広報文が日常的に提供されたりするため、取材対象である公機関と報道機関との癒着を生むとの批判もあります。
これらの批判に対して、全国の新聞社・通信社・放送局で構成する一般社団法人日本新聞協会は、「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」を発表しました。
その中で、「記者クラブは、公権力の行使を監視するとともに、公的機関に真の情報公開を求めていく社会的責務を負ってい」るとした上で、「開かれた存在」であるべきだと述べています。
また、記者室を設けることの是非については、以下の見解を示しました。
報道機関は、公的機関などへの継続的な取材を通じ、国民の知る権利に応える重要な責任を負っています。一方、公的機関には国民への情報開示義務と説明責任があります。このような関係から、公的機関にかかわる情報を迅速・的確に報道するためのワーキングルームとして公的機関が記者室を設置することは、行政上の責務であると言えます。
(引用元:記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解)
記者クラブの事例一覧
現在の日本では、具体的にどのような記者クラブがあるのでしょうか。
政治ニュースの取材に関する記者クラブと通称
国政取材では、国会や首相官邸の他、与党である自民党や野党、各省庁に記者クラブがあり、それぞれ担当記者が所属・常駐しています。
伝統的に、以下のような通称もあります。
- 自民党クラブ:「平河クラブ」
- 外務省クラブ:「霞クラブ」
- 官邸クラブ(内閣記者会):「永田クラブ」
自民党本部が置かれていた「平河町」など、地名が由来となっていることが多いようです。
地方政治の取材では、各都道府県庁や議会にクラブが置かれています。都道府県庁所在地や中核市など一定規模の市区町村でも、役所や議会に記者クラブを設けています。
社会ニュースの取材に関する記者クラブ
事件や事故の取材に関係するのは、警視庁・全国の都道府県警察・裁判所・検察庁などの記者クラブです。事件や事故の取材を担います。
誘拐事件など人命に関わる場合など、記者クラブと警察が「報道協定」を結んだケースもありました。
経済ニュースの取材に関する記者クラブ
日本銀行本店や全国の支店、財務局など、経済・金融に関する公機関の他、証券取引所や商工会議所にも記者クラブがあります。
「日本記者クラブ」とは
公益社団法人「日本記者クラブ」は、日本新聞協会・日本放送協会・日本放送民間連盟の会長が発起人となって作られた会員制の非営利組織です。大手報道機関が法人会員として所属する他、ジャーナリストなどの個人会員もいます。
ここまで述べてきた自主組織としての各地の記者クラブとは全く異なるもので、「ナショナル・プレスクラブ」として、海外の要人が来日した際に記者会見を主催するなどしています。
まとめ
- 記者クラブとは、新聞社やテレビ局など大手報道機関に所属する記者によって構成される、取材・報道のための自主組織。各官公庁などに設けられている
- 記者クラブは主に、記者会見の主催や代表取材などを行う
- 日本特有の制度と言われ、公機関に対する情報公開の要求や、取材現場のルール作りによってメディアスクラムの防止を図るなどのメリットがある
- 一方で、記者クラブ加盟社以外のメディアや個人ジャーナリストに対して閉鎖的・特権的だという批判などがある。日本新聞協会は、記者クラブは「開かれた存在」であるべきだとの見解を示している
<参考>
記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解
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