賃上げの仕組みとは?政治やインフレとの関係も

賃上げの仕組みとは?政治やインフレとの関係も

企業などに雇われている人(労働者)の賃金は、「賃上げ」によって上昇することがあります。背景には、労働組合などによる交渉や景気の影響があります。

また、賃上げの方針は選挙や政策の重要な争点です。

本記事では、ベア(ベースアップ)労働組合春闘の仕組みなど賃上げはどのように実現するのかに加え、政治や経済との関係性も解説します。

賃上げの仕組み

労働者の給与などの賃金を上昇させることが「賃上げ」です。

労働者と雇い主側(使用者)の関係を労使関係といい、賃金や労働時間など勤労条件の基準を定めているのが労働基準法です。労働者と使用者が交渉し、法令の範囲内で賃金が変動することがあります。

「ベア」とは

賃上げには、「ベア」と呼ばれるベースアップ定期昇給があります。

ベアとは、基本給(ベース)を一律に上げることです。一方で定期昇給は、年齢や勤続年数に応じて給与を上げます。

ベアを実施すると、入社年数や年齢層に関わらず全ての社員の給料が上がります。企業にとっては人件費の支出を継続的に増やす選択です。そのため、ベアの有無や上昇率は定期昇給に比べて、業績や景気の影響を受けやすいと言えます。

労働組合(労組)や連合とは

労働組合(労組)とは、労働者側が主体となって組織する団体です。現在の日本では、企業ごとや、産業ごとの労組が多くあります。

労働者が賃金を上昇させたり労働環境を改善したいと思っても、大きな組織や資金、権力を持っている雇い主に対し、個人で交渉を成功させるのは簡単ではありません。

そのため、労組などが団結して、雇い主側に要求・交渉することが一般的です。

企業単位で組織する労組を「企業別労働組合」といいます。さらに、同じ産業で働く企業別労組が集まって「産業別労働組合」を結成することもあります。

産業別労働組合の例は、繊維、外食産業や流通業の労組が加盟する「UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)」や、電機関連産業の「電気連合(全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会)」などです。

企業労組の集まりではないものの、業種・業態を同じくする労働者の集まりとして、教職員による「日教組(日本教職員組合)」や自治体職員らによる「自治労(全日本自治団体労働組合)」などもあります。

さらに、全国の産業別労働組合などを束ねているのが「連合(日本労働組合総連合)」です。

春闘とは?2023年はどうなる?

春闘とは「春季賃金闘争」の略称です。新年度に向け、全国の多くの企業・業界の労使関係において、賃金・労働環境・働き方などについて要求・交渉が行われます。例年2〜3月に実施されることが名称の由来です。

企業ごとに行うよりも交渉力を強くするため、連合が方針を提示し、産業別労組が結束して取り組むことが多くあります。

春闘に際しては、大企業や業界団体で構成する経団連(日本経済団体連合会)や政府の方針や反応も注目されます。

2023年の春闘では、物価高が続く経済状況を踏まえ、連合は5%程度の賃上げを要求する方針です。28年ぶりの高水準で、内訳は定期昇給が2%、ベアが3%程度となっています。2022年の春闘では4%程度の賃上げを求めていました。

経団連も、ベアなどによる積極的な賃上げを会員企業に呼びかける方針です。

景気と賃上げの関係

賃上げは企業の人件費を増加させるため、有無や上昇率は経済情勢の影響を大きく受けます。

好景気ではベアが続く

高度経済成長期やバブル経済による好景気の時代には、毎年2〜5%の賃上げが実施されていました。

ベアは1995年ごろまで続きましたが、その後デフレなど景気の悪化とともにほとんど行われない状況となります。企業はベアの代わりとして、ボーナスなどの一時金を支給したり増加したりすることが増える傾向になりました。

輸出産業などが回復した2014年から、再び大企業がベアを実施するようになります。

インフレと賃上げ

2022年現在は、世界的に深刻なインフレが続いてます。背景にあるのは、新型コロナウイルス感染拡大による人手不足やその後の需要増加、さらにウクライナ危機などの影響です。インフレは日本も例外ではなく、景気対策は重要な課題です。

インフレ下ではモノやサービスの価格が上がるため、人々は支出が増え、収入が上昇しなければ生活は苦しくなってしまいます。そのため、労働者による賃上げの要求はより強まります。

しかし、企業が賃上げをした場合、人件費で増えた支出分をモノやサービスの価格に上乗せすることも少なくありません。それによって、さらにインフレが進行するおそれがあります。

政治と賃上げの関係

賃上げは人々の生活に直結する問題である上、労組などの支持団体の影響力もあり、選挙や政策にも深く関係しています。

選挙や政策の争点に

2022年7月の参議院議員通常選挙では、インフレの影響もあり、多くの政党が賃上げを公約に盛り込みました。

政権与党である自民党は、経済成長による労働生産性の向上や、企業に対する税制優遇によって賃上げを後押しすることを掲げます。そのほか、連立与党の公明党や、立憲民主党、共産党など野党の多くは、最低賃金の引き上げを公約に示しました。

また、連合や産業別労組といった大きな規模を持つ組織が、選挙でどのような政党や候補者を支持するかも注目されます。

利益団体(圧力団体)については、こちらの記事をぜひ参考にしてください。
圧力団体とは?活動内容などを解説

2022年参院選の結果や争点はこちらの記事でまとめています。
参議院選挙2022の結果は?自民党圧勝、政党別議席数や争点も

政府は「賃上げ促進税制」を実施

参院選では自民党が大勝しました。岸田文雄首相は「構造的な賃上げに最優先で取り組む」と方針を示しています。

政府は、賃上げに取り組む企業を税制優遇する「賃上げ促進税制」を実施しています。

賃上げ促進税制とは、雇用者全体の給与などの支給額のうち、大企業は最大30%、中小企業は最大40%を税額控除する仕組みです。

岸田首相は賃上げに積極的な姿勢を示している一方、法人税などの増税を検討しています。防衛費を大幅に増額する方針で、その財源を確保するためです。

増税によって企業が負担を強いられると、賃上げをしにくくなると考えられます。そのため、「賃上げマインドを冷やす」などと与野党からの批判があります。

防衛費の増額については、こちらの記事をご覧ください。
防衛費増額の理由や財源は?「NATO基準」も解説

まとめ

  • 賃上げとは、労働者の給与など賃金が、春闘などの労使交渉によって増額すること
  • 賃上げには、基本給が一律で上がるベースアップ(ベア)と、年齢や勤務年数に応じて上がる定期昇給がある
  • 賃上げは経済情勢や景気の影響を受けやすい。また、選挙や政策の争点にもなる
  • 深刻なインフレの影響がある中、2023年の春闘に向けて連合は5%の賃上げを要求。政府や経団連も、賃上げに積極的な姿勢を示している

 

<参考>
『政治・経済用語集 第2版』山川出版社、2019
『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
賃上げとは 脱年功序列、一律要求の意義薄れる
コラム 「ベア」ってなに?
「ベア」「定期昇給」って何?~企業の賃上げの仕組みを知る|ビジュアル・ニュース解説
産業別労働組合 | やさしく解説 用語集 | 労働組合 電機連合 オフィシャルサイト
コラム 「春闘」ってなに?
物価高が試す持続的賃上げ、ベア焦点 問われる構造転換
連合について 構成組織
加盟する産業別労働組合について | マルイグループユニオン・福祉会
日本教職員組合
全日本自治団体労働組合
主要製造業、賃上げ率2%超え 春季交渉集中回答日: 日本経済新聞
経団連「ベア前向きに検討を」 物価高受け、会員企業に
物価上昇が止まらない…半世紀ぶりの世界的インフレはなぜ起きたのか – 国際報道 2022
日本経済低迷の象徴、くらしに直結「賃上げ」競う<公約点検>:東京新聞 TOKYO Web
賃上げに取り組む経営者の皆様へ
大企業向け「賃上げ促進税制」 御利用ガイドブック
岸田文雄首相「構造的な賃上げ最優先」 令和臨調で演説
連合、探る政策実現 政府・与党ともパイプ
「首相の真意理解できない」 高市経済安保相、防衛費増税の方針に

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