防衛費増額の理由や財源は?「NATO基準」も解説

防衛費増額の理由や財源は?「NATO基準」も解説

岸田文雄首相は、国の防衛費を大幅に増加する方針を示しています。2022年7月の参議院議員通常選挙でも、自民党は「NATO基準」を参考に、GDP(国内総生産)比2%相当を念頭に置いた増額を公約に掲げていました。

そもそも日本の防衛費はどのくらいの金額で、なぜ増額しようとしているのでしょうか。財源確保の方法も注目されています。

本記事では、現在の防衛費増額の理由に加え、NATO基準との算出方法の違いも解説しています。ぜひ参考にしてください。

本記事は、2022年12月12日時点の内容です。

防衛費とは

防衛費とは、装備品の購入費や自衛隊の人件費など、防衛省が所管する予算です。

防衛費の現状と内訳

防衛費の総額などは、政府による「中期防衛力整備計画(中期防)」によって、5年単位で決められています。現在の中期防は2019年から2024年までの期間で、総額約27兆円です。

2022年度の当初予算における歳出は全体で107兆円です。そのうち防衛関係費は5兆4000億円で、5%を占めています。大まかな内訳は以下の通りです。

  • 人件費(自衛隊の給料など):42.0%
  • 維持費(燃料費や修理費など):24.7%
  • 装備品(護衛艦など)の購入費:15.8%

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防衛関係費の「GNP1%枠」とは

1976年、当時の三木武夫内閣は「防衛関係費は原則国民総生産(GNP)の1%相当額を上限とする」という方針を閣議決定しました。しかし1986年、中曽根康弘内閣で1%を超過し、その翌年に原則は撤廃されます。中曽根首相は「1%の枠を尊重する」と表明しました。

その後はほとんどの政権で、当初予算における防衛費は1%以内に収まってます。1994年からは国内総生産(GDP)比となりました。

ただし、補正予算などを加えると1%を超えることが多くなっています。2022年度の当初予算の防衛関係費はGDP比0.95%でしたが、補正予算でミサイル整備費など7000億円以上が追加されました。その結果、合計6兆円を超え、GDP比1.09%となっています。

防衛費「1.5倍」に増額?

岸田内閣では防衛費の大幅な増額が議論されており、話題です。

岸田首相が「総額43兆円」を指示

岸田首相は2022年12月、2023年度から2027年度までの中期防における防衛費を、総額43兆円とするよう指示しました。現在の計画と比較すると、1.5倍以上となります。

2022年7月の参院選において、自民党は公約で「NATO基準(GDP2%程度)」を参考に防衛費を引き上げるとしていました。

防衛費増額の理由やメリット

岸田首相が掲げる、防衛費増額の理由は「防衛力の抜本的強化を進めるため」です。

背景には、日本を取り巻く安全保障の問題があります。2022年2月から続くロシアのウクライナ侵攻や、中国の軍備増強北朝鮮による相次ぐミサイル発射などです。

また、アメリカなどを含む北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、2024年までに国防関係支出をGDP2%とする目標を掲げています。日本はNATOとパートナー関係にあります。

「NATO基準」とは

NATO基準とは、NATOによる国防費などの計算方法です。

日本における予算区分である防衛費と、NATO基準の国防費の範囲は異なります。

NATO基準に従うと、現在は防衛費に含まれていない次のような項目も算入される可能性があります。

  • 沿岸警備費(海上保安庁の予算)
  • 平和維持活動(PKO)の経費
  • 旧軍人遺族への恩給費
  • 軍事利用の可能性がある研究開発の費用(宇宙分野など)

これらを計上すると、2022年度の防衛費はGDP比1.24%です。

防衛費の算定方法を変更し、NATO基準に近づける案も議論されています。

方針や財源を巡り批判も

防衛費の大幅な増額について、反対意見や指摘も上がっています。

財源は税金や国債?

防衛費の支出を増やすならば、その分の財源が必要です。

財源確保の具体策としては、法人税などの増税や、国債の発行によって歳入を増やすことが考えられます。

しかし、日本は債務残高がGDPの2倍を超える状況にあり、国債の発行は避けるべきだとの声があります。

増税は、国民にとって直接的な負担を強いる方法です。現在は、新型コロナウイルスの感染拡大や世界的なインフレの影響を受け、国内の景気が悪化しています。そのような中での増税は、激しい批判を免れません。

国債の仕組みについては、こちらの記事をぜひ参考にしてください。
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賛成?反対?参院選では主要争点に

2022年の参院選では、ウクライナ危機などの影響を受け、安全保障や防衛費の問題が重要な争点となりました。自民党に加え、日本維新の会やNHK党もGDP比2%程度の「防衛費増額」を公約に掲げ、国民民主党や公明党も増額には賛成の立場でした。

一方で、立憲民主党・共産党・れいわ新選組・社民党は反対していました。

日本は憲法のもと「専守防衛」の方針を掲げています。専守防衛とは、敵国を攻撃することなく、相手側の攻撃から自国を防衛することに徹するという方針です。この方針に基づき、防衛力の内容は自衛の範囲に限定しなければなりません。

防衛費増額の是非については、財源確保の方法だけでなく、そもそも防衛力の強化が専守防衛の方針を空洞化させるおそれがあるという指摘があります。

まとめ

  • 防衛費とは、自衛隊の人件費や装備品購入費などの予算。2022年度の当初予算では全体の5%で5兆4000億円、GDP比では0.95%
  • 1976年以降、ほとんどの政権で防衛費の当初予算はGNPまたはGDPに対して1%以内だった
  • 岸田文雄首相は、防衛費を約1.5倍に大幅増額する方針。ウクライナ危機などの安全保障問題や、GDP2%相当の国防費支出を目指す「NATO基準」の影響がある
  • 防衛費増額の財源には増税などが想定され、批判が上がっている

 

<参考>
『政治・経済用語集 第2版』山川出版社、2019
『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
政府 「中期防衛力整備計画」期間を10年間に変更の方向で調整 | NHK
防衛費|きょうのことばセレクション 詳細
財政に関する資料 : 財務省
令和4年度防衛関係予算のポイント(概要)
我が国の防衛と予算
防衛費のNATO基準とは? 見込まれる大幅増、歴史の転換点か
防衛費って何? 過去最大「5兆2551億円」どんどん伸び続ける理由
1976年11月5日 防衛費GNP1%枠、三木内閣が決定
【そもそも解説】日本の防衛費は他の国と比べて多いの? 少ないの?
防衛費「5年で43兆円」、岸田首相指示 23年度から: 日本経済新聞
防衛費、5年間で43兆円 財源、年末に一体決定 首相指示 規模ありき、1.5倍超に
防衛費、海保予算も含めた算定方法の導入検討へ…「NATO基準」参考にGDP2%に
NATO基準:時事ドットコム
参議院選挙:[政策分析 参院選]<2>防衛費…増額の是非 世論二分
防衛費増額「財源は増税」が主流に 政府・与党 GDP比2%なら毎年5兆円必要…家計や賃金に影響も:東京新聞 TOKYO Web
過去最大の防衛費要求 専守防衛、捨て去るのか | 中国新聞デジタル
(社説)防衛予算増額 財源先送りは許されぬ
2027年度には防衛増税1.1兆~1.2兆円 政府・与党が方針

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