私たちの生活を支えるインフラの運営や、最新技術の研究開発は、官公庁や民間企業ではなく独立行政法人によって実施されているものがあります。
独立行政法人とは、どのような組織なのでしょうか。省庁などとの違いや設立の経緯、種類や具体的な機関についてまとめました。
独立行政法人とは
独立行政法人とは、内閣府や省庁の行政から分離した一定の事務や事業を担当する機関です。
独立した法人格を与えられ、業務の効率化や透明性の向上のために設けられています。
独立行政法人は何をする?
独立行政法人通則法によると、独立行政法人が担う業務は次のように定められています。
「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるもの」
国の直接経営からは切り離した方が効率的だと考えられる一方で、市場の影響を受けやすい民営化には馴染まない事業が対象です。例えば、インフラの運営や研究開発などが挙げられます。
民営化については、こちらの記事を参考にしてください。
公企業の「民営化」とは?メリットや方法をわかりやすく解説
独立行政法人と官公庁の関係
独立行政法人は、各府省庁の大臣(主務大臣)によって目標管理や評価などが行われる仕組みです。ただし主務大臣が関与しすぎないように、関与事項は法令で限定されています。
目標設定や評価の指針は、総務大臣が主務大臣にします。目標管理などについて意見を述べる機関として置かれているのが、独立行政法人評価制度委員会です。
原則企業会計を導入しており、国から運営費交付金を受け取っています。
また、職員が公務員である独立行政法人を特定独立行政法人といい、国立印刷局や造幣局などがあります。
中央省庁改革の一環として新設
独立行政法人制度は、国や地方の行政機構や制度を見直し、合理化を目指す行政改革の中で生まれました。英国で行政を効率化するために導入された「エージェンシー制度」を参考にしています。
橋本龍太郎内閣で方針が打ち出され、1999年に独立行政法人通則法が施行されました。中央省庁を1府22省庁から1府12省庁に再編した中央省庁改革の一環です。(2022年現在は1府13省庁)
中央省庁の仕組みや再編については、こちらの記事でまとめています。
省庁とは?省と庁の違い・役割・組織図や再編前の省庁も紹介
独立行政法人の種類と具体例
独立行政法人には、次のような種類があります。(法人数は2022年11月時点)
- 中期目標管理法人(53法人):国民向けサービスなどの質の向上を図る目的で、3〜5年ごとの中期目標に基づいて業務を行う
- 国立研究開発法人(27法人):自主性・自律性を持ち、科学技術の研究開発を中長期的に行う。5〜7年の中長期目標に基づく。
- 行政執行法人(7法人):国の行政事務と密接に関連する業務を行う。事業年度ごとの目標に基づく。
各法人は個別の法律に基づいて運営されています。
独立行政法人の具体例を、種類ごとに挙げました。
中期目標管理法人:国立病院機構や大学入試センターなど
中期目標管理法人には、全国140の病院で、臨床や研究を行う国立病院機構があります。厚生労働省の所管です。
他に、文部科学省が所管する大学大学入試センターは、大学入学共通テストを実施しています。東京・上野などにある国立美術館や国立科学博物館も、独立行政法人です。
国立研究開発法人:JAXAなど
最新技術の研究開発を行う、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や防災化学技術研究所、日本原子力研究開発機構などがあります(いずれも文部科学省所管)。
医療分野の研究では国立がん研究センターや国立循環器病研究センターなどがあり、厚生労働省の所管です。
行政執行法人:国立公文書館や造幣局など
公文書を歴史資料として適切に保存・利用する機関である国立公文書館は、内閣府が所管する行政執行法人です。
他には、国勢調査や消費者物価指数など、国の統計を作成する統計センター(総務省所管)や、硬貨を鋳造する造幣局、お札を印刷する国立印刷局(いずれも財務省所管)などがあります。
独立行政法人の課題
独立行政法人は、行政をスリム化し、経営や会計を効率化するために設立されました。しかし、官僚の天下り先になっていたり、赤字が膨らんでいたりする現状があり、問題視されています。
また、研究開発を行う独立行政法人では、短期で業績をあげにくい基礎研究が扱いにくくなるといった懸念もあります。
天下りについてはこちらの記事で触れています。
天下りとは?仕組みや現在の問題点を簡単に解説
まとめ
- 独立行政法人とは、府省庁から分離した一定の事務や事業を担当する機関。インフラや研究開発などが対象。所管する各府省庁の大臣によって目標管理や評価などが行われている
- 行政の合理化・効率化を目指すため、中央省庁改革の一環として生まれた
- 中期目標管理法人・国立研究開発法人・行政執行法人の種類がある
<参考>
『政治・経済用語集 第2版』山川出版社、2019
『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
総務省|独立行政法人制度等
独立行政法人制度について
「独立行政法人会計基準」及び「独立行政法人会計基準注解」6/6 : 財務省
エージェンシーとは
独立行政法人通則法 | e-Gov法令検索
独立行政法人一覧(令和4年11月14日現在)
国立病院機構の概要
大学入試センター要覧
統計センターの役割・機能
造幣局 : 貨幣Q&A
独法、赤字6384億円 検査院「効率的運営を」