「マニフェストとはどんなもの?」
第49回衆議院議員総選挙の投票日が2021年10月31日に決定しました。各党の政策や選挙公約がどのような内容なのかを知りたい方も多いでしょう。
そもそもマニフェストとはどういうものなのでしょうか。
この記事では、政治や社会問題に興味があり、「選挙には何が何でも行く」と決めている方のために、マニフェストの意味・目的や各党の選挙公約の内容などを、わかりやすく解説します。
マニフェストとは
マニフェスト(manifesto)は、イギリスのマニフェストと呼ばれる選挙公約集を参考に、2003年以降に日本でも導入が進みました。
マニフェストの目的
マニフェストは、「私達が政権をとれば、この政策を実現します」と訴えるもので、単なる宣言文書ではなく、有権者との契約書と捉えられています。
具体的な政策が明示されているため、有権者は政策を吟味し、信頼を持ったうえで投票できます。そして選挙後には、政党や候補者が、マニフェストの宣言どおり「政策を本当にきちんと実行しているか」を事後検証できることに意味があります。
したがって、マニフェストは民主主義を支えるツールと言っても過言ではありません。
マニフェストの種類
マニフェストには、国政で政党が作る「パーティー・マニフェスト」と、地方自治体の首長が書く「ローカル・マニフェスト」があります。
他にも、住民の方々が「政治家に実行してほしい政策」を提示する「市民マニフェスト」もあります。
第49回衆議院議員総選挙-注目される争点と各党の公約
衆議院は10月14日に解散され、2021年の第49回衆議院議員総選挙は、10月19日(火)に公示、10月31日(日)の投票が確定しました。
これに合わせて、各党の選挙公約も出揃ったため、
総選挙で注目される主な争点を一覧にしてまとめておきましょう。
新型コロナウイルス感染対策
それぞれ規模は異なりますが現金給付や大型補正、PCR検査の拡充など、ほぼ同一方向の施策になっています。
ただし、与党の自民党・公明党は経済活動と感染対策の両立を目指していますが、立憲民主党は徹底的な感染の封じ込めを優先しています。
政党名 | 新型コロナウイルス感染対策 |
自民党 | 人流抑制や医療提供体制へ法改正、地域・業種を限定しない規模に応じた企業支援、無料PCR検査所設置 |
公明党 | PCR検査大幅拡充、国産ワクチン・治療薬の開発・実用化 |
社民党 | 医療従事者への支援、高齢者の医療費2割負担、時短・自粛に関する補償の充実、財政確保、内部留保への税制改革 |
立憲民主党 | 30兆円補正予算編成、PCR検査体制確立、低所得者への年額12万円現金給付 |
日本共産党 | 年収1000万円程度未満も対象に1人10万円給付金 |
国民民主党 | 50兆円規模の緊急経済対策、一律10万円の現金再給付、低所得者には20万円 |
日本維新の会 | 医療提供体制の再編推進、国産ワクチンや治療薬の研究開発・生産体制強化 |
れいわ新撰組 | 1ヶ月あたり20万円のコロナ脱却給付金 |
景気回復・経済対策
各党とも、上で説明したようにコロナ禍で疲弊した状況に対して、大規模な経済対策を掲げています。
争点は、成長と分配の関係です。岸田首相は、アベノミクスの基本路線を引き継ぎつつも、中間層への分配をより手厚くするとして、「成長と分配の好循環」を訴えています。
一方、立憲民主党は、中間層への分配を強める点は同様ですが、アベノミクスは過去の失敗を活かし、分配を優先すべきとしています。各党とも、財源は国債依存です。
大きな違いが見られるのは、「消費税率の引き下げ」です。
野党は時限的に消費税率を5%に引き下げるべきとの主張でほぼ一致しています。
一方、与党の自民党は現状維持・公明党は特に言及がありません。
政党名 | 経済・財政政策 |
自民党 | 賃上げに積極的な企業への税制支援、財政の単年度主義見直し |
公明党 | 18歳以下に10万円給付、新GoToキャンペーン実施、マイナンバーカード普及3万円ポイント付与 |
社民党 | 3年間消費税率0、最低賃金を1,500円に引き上げ、大企業や富裕層に応分の負担を求める税制へと改革、非正規雇用の増大を防止 |
N党 | 期限付きで10万円分の電子マネー配布 |
立憲民主党 | 年収1000万円まで実質免除の時限的所得税減税、金融所得総合課税化を見据え強化。コロナ禍収束時点を見据え5%への時限的な消費税減税 |
日本共産党 | 最低賃金時給1500円へ引き上げ、所得税・住民税最高税率引き上げ。消費税5%へ引き下げ |
国民民主党 | 積極財政と金融緩和継続、賃金デフレから脱却。消費税を経済回復するまで5%に引き下げ |
日本維新の会 | 積極的な財政出動・金融緩和、成長重視の財政再建。2年目安に期間限定し消費税 5%へ引き下げ |
れいわ新選組 | 積極財政への転換、消費税の廃止 |
外交・安全保障
外交・安全保障では、日米安保条約廃棄を主張する共産党を除き、与野党とも日米同盟を基軸とする点で大きな違いはみられません。
ただ、防衛力強化が必要とする自民党に対して、立憲民主党は敵基地攻撃能力の保有は慎重にすべきと考えています。野党でも、日本維新の会や国民民主党は抑止力強化に前向きですが、与党の公明党は慎重で、抑止力強化には触れていません。
政党名 | 外交・安全保障 |
自民党 | 相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力保有を含め抑止力向上・防衛関係費増額・海上保安庁の体制拡充と自衛隊との連携強化 |
公明党 | 核兵器のない世界へ取り組む |
社民党 | 憲法改悪反対、安保法制・秘密保護法・共謀罪法・重要土地調査規制法の廃止、普天間基地の閉鎖と撤去 |
N党 | 敵基地攻撃能力を国民の命・財産を守るために保有すべきと進言 |
立憲民主党 | 日米同盟基軸としつつ近隣諸国との多国間協力推進、核兵器禁止条約締結国会合へのオブザーバー参加・辺野古新基地建設中止・米軍基地負担軽減と日米地位協定改定 |
日本共産党 | 憲法9条を活かした平和外交、日米安保条約を破棄し、対等な日米友好条約締結、核兵器禁止条約に参加 |
国民民主党 | 日米同盟を堅持・強化、沖縄・辺野古埋め立ては停止し・話し合い。海上保安庁の体制強化・自衛隊などと連携深化 |
日本維新の会 | 日米同盟の基軸、防衛体制強化、領域内阻止能力構築を積極的に検討 |
れいわ新撰組 | 対米追従外交からの脱却、安保法制見直し、日米地位協定改定、辺野古新基地の中止、核兵器禁止条約の署名、国際法遵守による平和維持 |
憲法改正
憲法改正を目指す自民党に対して、改憲に反対の共産党、コロナ禍での議論に消極的な立憲民主党など、各党の立場に違いが見られます。
政党名 | 憲法改正 |
自民党 | 早期の憲法改正を目指す |
公明党 | 「加憲」で対応 |
社民党 | 憲法を暮らしに活かすことを優先、安保法制・重要土地規制法を廃止 |
N党 | 憲法改正の発議を行ったうえで国民投票を実施 |
立憲民主党 | コロナ禍での優先はしない |
日本共産党 | 憲法9条改憲に反対 |
国民民主党 | 幅広い国民と対話、総理の解散権制限、臨時国会の召集期限の明文化、憲法裁判所の設置 |
日本維新の会 | 憲法9条は平和主義・戦争放棄を堅持し改正議論、教育無償化・道州制・憲法裁判所を検討 |
れいわ新選組 | 現行法と法改正を最大限実施、最低限度の生活を守れるよう国民が監視、緊急事態条項への反対 |
地球温暖化・エネルギー問題と原発
大きな争点は、脱炭素(カーボンニュートラル)・原発再稼働など環境問題(SDGs)への取り組みです。
特に原発再稼働・新増設の是非については、再稼働を認める自民党に対して、新増設を認めない立憲民主党と、立場の違いが際立っています。
また、野党でも、新増設には反対するが、再稼働は容認する国民民主党など立場の違いが見られます。
政党名 | 地球温暖化・エネルギー問題と原発 |
自民党 | 安全性が確認された原発再稼働、2050年カーボンニュートラル実現に向け2兆円基金 |
公明党 | クリーンエネルギー自動車購入補助、充電スタンド・水素ステーション整備 |
社民党 | 原発ゼロ基本法案成立、すべての原発を5年以内に廃炉、2050年までに自然エネルギー100%実現、グリーンリカバリー推進 |
N党 | 原発再稼働の検討を求める |
立憲民主党 | 原子力に依存しないカーボンニュートラル、原発の新増設認めない |
日本共産党 | 温暖化ガス削減目標を50%から60%に引き上げ |
国民民主党 | 代替エネルギー源確立まで原子力は重要・40年運転制限制を厳格適用、安全基準満たし地元同意得た原発は稼働、新増設せず |
日本維新の会 | 既設原発は市場原理下でフェードアウト、再生可能エネルギー割合拡大、次世代原子炉研究を強化 |
れいわ新選組 | 脱原発の実現、2050年までに自然エネルギー大国を目指す |
その他
他にも、公文書管理の透明性の確保、選択的夫婦別姓の是非なども関心の集まるテーマです。
選択的夫婦別姓については、自民党では賛否両論あり、導入の是非には触れていません。
立憲民主党は夫婦別姓の早期実現を掲げ、与党・公明党も導入を「推進する」とうたっています。
政党名 | その他 |
自民党 | LGBTに関する議員立法の速やかな制定、女性の経済的自立を支援 |
公明党 | 刑事責任問われた議員の歳費支給停止や返納 |
社民党 | 選択的夫婦別姓制度の導入、ジェンダー平等を実現、DVなどの実態把握 |
N党 | 同性婚の合法化、選択的夫婦別姓の導入に向けた施策 |
立憲民主党 | 同性婚可能とする法制度実現、DV対策など充実 |
日本共産党 | 選択的夫婦別姓導入・LGBT平等法実現、入管・難民行政改革 |
国民民主党 | 日本型「ベーシックインカム」創設、最低賃金引き上げ、社会保険料負担半減、教育無償化 |
日本維新の会 | 最低所得保障制度(給付付き税額控除・ベーシックインカム)を基軸とした再分配の最適化・統合化を検討 |
れいわ新選組 | LGBTの差別解消や同性婚を法制化、選択的夫婦別姓制度を導入、DVなどの実態把握 |
まとめ
今回はマニフェストの意味・目的や各党の選挙公約の内容などを、一覧にして解説しました。
ご自身はもちろん、いつ子どもが選挙権を持っても良いように改めて知りたいと感じる方も多いでしょう。
衆議院議員総選挙は、連立内閣を組む与党の自民党・公明党に対して、立憲民主党を始めとする野党が連携して挑む形になっています。
各党のマニフェスト・政権公約は多岐にわたるため、違いが分かり難いところもあります。この記事を参考にしてポイントをつかみ、ぜひ投票の参考にしていただければ幸いです。
【おまけ】野党4党と市民団体との政策合意とは
9月8日に、立憲民主党・日本共産党・社民党・れいわ新選組の4党が市民団体「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」との政策合意「衆議院総選挙における野党共通政策の提言」に調印しました。
2019年の参議院議員選挙でも野党5会派と市民団体の政策合意がありましたが、政権選択選挙である衆議院議員総選挙で野党第1党が政策合意に加わるのは初めてです。
合意した内容は、以下の6つの柱を軸とする20項目です。
- 憲法に基づく政治の回復:コロナ禍に乗じた憲法改悪に反対、安保法制・特定秘密保護法の違憲部分の廃止、辺野古の米軍新基地建設中止
- 科学的知見に基づく新型コロナウイルス対策の強化:医療費削減政策を転換し医療・公衆衛生体制を迅速に整備、経済的な打撃を受けた人・企業を救う財政支援
- 格差是正格差と貧困を是正する:消費税減税・社会保険料の見直し、低所得者層・中間層への再分配の強化
- 地球環境を守るエネルギー転換と地域分散型経済システムへの移行:原発のない脱炭素社会の追求、地域における新たな産業を育成
- ジェンダー平等:選択的夫婦別姓制度の実現・LGBT平等法などを成立・女性に対する性暴力根絶に向けた法整備
- 権力の私物化を許さず、公平で透明な行政を実現する:森友・加計問題、桜を見る会など疑惑の真相解明
野党4党は合意した共通政策を踏まえ、衆議院議員総選挙での連携を目指しています。
なお、国民民主党は、調印に参加していません。
<参照>
「マニフェストとは|2021年・衆議院選挙で注目の政権公約は?」
自民党:高市政調会長が政権公約を発表「新型コロナ」「新しい資本主義」など8つの柱で構成