ネット選挙とは?複雑すぎる日本のルール。最先端を行くアメリカとの差

ネット選挙とは?複雑すぎる日本のルール。最先端を行くアメリカとの差

2013年の参議院議員通常選挙から、日本でもインターネット選挙運動(以下、ネット選挙)が解禁され、候補者や政党は選挙運動にウェブサイトやSNS、動画共有サイトなどを使った選挙運動ができるようになりました。

ネット選挙の注意すべき点と、ネット選挙によって選挙の戦い方がどう変わっていくのかをアメリカのネット選挙とともに解説していきます。

ネット選挙はいつから?具体的に何ができるようになったのか

ネット選挙が日本で解禁されたのは、2013年4月に公職選挙法が改正されてから、です。

改正前は規制の対象となっていましたが、解禁に伴い、下記の二点が政党・候補者・有権者で可能となりました。

・ホームページ、ブログ、SNSなどでの投票の呼びかけ

・街頭演説などの動画配信

自民党の前総裁(元首相)である安倍晋三議員も、首相時代にはインスタグラムやツイッターを使い、有権者へ自身の主張やメッセージを多く発信し、若年層からも支持を集めました。

2021年現在の野党第一党である立憲民主党は、YouTubeを活用して幹部の会見や議員のメッセージを配信するほか、「りっけんチャンネル」を立ち上げて政策を発信しています。ネット選挙の解禁は、アナログな手法ではアプローチできなかった若い層の認知度アップにも一役買っています。

投票日前にライブ配信を通して生の声を届けることで、無党派層や投票に行かないつもりだった人達に、投票を促すこともできます。

ネット選挙に関する禁止事項や注意点は?

しかし、ネット選挙を行うにあたり、禁止事項もあります。

メールでの選挙運動

メールを使った選挙運動が許されるのは候補者と政党に限ります。有権者が個人的に「○○候補へ一票を入れよう」「○○候補の応援をよろしくお願いしますといった電子メールを送ると、公職選挙法違反となります。

有権者が候補者や政党から送られてきたメールを転送や添付することもできないので、注意が必要です。

一方で、自分が応援する候補者の街頭演説をSNSやブログへ投稿したり、または候補者の投稿をSNS上でシェアして、友人や知人に投票を呼び掛けることは可能です。ウェブサイト・SNS上等に掲載された投稿は投票日もそのままにしておくことができます。

期間外の選挙運動

ただし、選挙運動は公職選挙法第129条、239条により選挙運動ができる期間が定められています。

選挙運動は立候補の届出が受理されてから投票日の前日までの間に限り行うことができます。つまり、立候補届出前にする選挙運動は事前運動とみなされ、禁止されています。

また、選挙期日当日の更新もできません。特に、投開票日に特定の候補者に投票するよう依頼する投稿をSNS上で行ったり、投開票日に動画中継サイトで特定の候補者への投票を呼びかけることは、選挙運動期間外の選挙運動とみなされ、違反となります。

18歳未満の選挙運動

公職選挙法137条により、満18歳未満の者は選挙運動をすることができないとされています。

違反となった場合、罰金を課せられることもあります。ネット選挙に参加したり、活動の補助をする際には、そうした違反行為に十分配慮しなければいけません。

最先端を行くアメリカのネット選挙事情

一方、アメリカでは、10年以上も前からネット選挙が大統領選のカギを握っています。

2009年にノーベル平和賞を受賞したアメリカ合衆国 第44代大統領のバラク・オバマ氏は、ネット選挙の申し子といえるほど、自身の大統領選挙でインターネットをフル活用しました。

オバマ氏はネット選挙の達人

従来の米大統領選では、大量に運動員を駆動して各家庭を訪問したり、電話で投票を呼びかけるという、アナログな活動が主で、キリスト教や全米ライフル協会といった巨大組織の支持を集めることが優先されていました。

ところが2008年に行われた大統領選挙で、アメリカ民主党のオバマ陣営はインターネット、電子メール、SNSを駆使する新しい手法を取り入れ、その結果若い世代から圧倒的に支持されて勝利を勝ち取ります。

オバマ陣営は数百万通のEメールで選挙への支援を訴え、選挙のボランティア活動参加を呼びかけ、ネットを使ったグループ会合を15万回以上も行いました。

そうすることで、ネットネイティブな35歳以下の若い世代へ「自分たちで社会を変えていくんだ」と当事者意識を持たせ、強固な支持基盤を築いたのです。

また、若い世代でも気軽に献金できるように、1口10ドルなど少額から献金できる選挙戦応援サイトを設立。最終的に1億5000万ドルもの献金を集め、世間を驚かせました。

アメリカ民主党の人気女性議員はSNS戦略家

現在のアメリカ民主党には、バラク・オバマ氏を凌ぐほどSNS戦略に長けた政治家がいます。

アレグザンドリア・オカシオ=コルテス議員カマラ・ハリス議員

 「AOC」の愛称で親しまれるオカシオ=コルテス議員は、2018年の下院中間選挙に米国史上最年少(当時28歳)で当選を果たしました。ヒスパニック系の労働者階級の家庭出身で、民主的社会主義者という、ミレニアル世代を象徴する政治家ともいわれています。

ウェイトレスやバーテンダーとして働き、後ろ盾を持たなかったオカシオ=コルテス議員は、TwitterやInstagramといったSNSでアメリカ政治のリアルな現場をフォロワーに発信し、バズとミームで知名度を高めていきました。

現在「AOC」のSNSフォロワー数は1500万人以上。ドナルド・トランプ前大統領からTwitterで差別的な発言をされた際も、対立する共和党の議員に暴言を浴びせられた際も、AOCはTwitterやスピーチで毅然と反論しました。その発言や動画はまたインターネットミームとなって数多くシェアされ、一層多くの支持者を集める要因となりました。

史上初の女性副大統領はウェブコミュニケーションの達人

カマラ・ハリス議員は、ジャマイカ人で経済研究者の父親と、インド系移民で著名な乳がん研究者の母親の元に生まれました。自分のルーツや家族について惜しみなくSNSへ発信する姿勢は、多くの人々から共感を得ています。また、検察官としてのキャリアで鍛え抜かれた鋭い質問や優れたスピーチは強い拡散力を持ち、大きな反響を呼んでいます。

2020年、ジョー・バイデン氏がアメリカ合衆国第46代大統領に就任すると共に、カマラ・ハリス議員は女性として、黒人として、さらにアジア系として初のアメリカ副大統領に指名されました。

このことは、78歳という高齢で大統領になったバイデン氏の事実上の後継者となったことを示します。大統領選の勝利宣言と共に、Instagramには世界的人気歌手のテイラー・スウィフトやハリウッド女優のナタリー・ポートマンなど、世界中のセレブからカマラ・ハリス議員に向けて祝福のコメントが寄せられました。

2024年には次期大統領選挙が行われます。カマラ・ハリス議員はバイデン氏の後継者として女性初のアメリカ大統領となる可能性があり、オカシオ=コルテス議員は、アメリカ憲法の規定で大統領に立候補できる35歳になります。

まとめ

日本の選挙制度は他に例を見ないほど複雑と言われます。ネット選挙で有権者は以下のことに気をつけなければなりません。

・メールでの選挙運動が許されるのは候補者と政党のみ。

・SNSでの選挙運動は立候補届を出してから投票日前日23時59分まで。

・投票日は、シェア、いいね、リツイートも含めて一切の選挙運動が禁止されている。

・満18歳未満の選挙運動は認められていない。

日本ではネット選挙が解禁されてからまだ10年も経っていません。日々試行錯誤をして、知名度の獲得や投票の呼びかけをしている状況です。アメリカ初の黒人大統領や女性副大統領、アメリカ史上最年少議員の誕生にインターネットやSNSが深く関わってきたように、日本の新しい政治にも、ネット選挙が影響していくかもしれません。

 

 

<参考>
「ネット選挙」が解禁~ネットと選挙運動について知る|ビジュアル・ニュース解説
知っていますか?ネット選挙運動のキホン | 選挙を知ろう | NHK選挙WEB
なぜオバマ大統領のネット選挙術は成功したか、そして残された課題とは
アレグザンドリア・オカシオ -コルテス、かく語りき──AOCはいかにしてAOCになったか? | GQ JAPAN
今、アメリカでなにが起きているのか?「AOC現象」が象徴すること(池田 純一) | 現代ビジネス
トランプ氏の「国に帰れ」ツイート、民主議員が一斉に反論 – CNN.co.jp
カマラ・ハリス氏ってどんな人?彼女が歴史的な副大統領候補である理由 | ハフポスト WORLD
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