昨今ニュースで、「アダムズ方式」という言葉を耳にする機会が増えました。今後の国政選挙で導入される予定ですが、その仕組みや採用されることになった理由など、疑問に感じる点もあるのではないでしょうか。
本記事では、アダムズ方式導入の背景にある「1票の格差」の問題や経緯と併せて、制度のメリットやデメリットを解説します。
アダムズ方式とは?
選挙制度のひとつである「アダムズ方式」ですが、そもそもその仕組みはどのようなものなのか、導入の背景も含めてご紹介します。
アダムズ方式の仕組み
アダムズ方式とは、選挙区制度において、各都道府県の人口を「ある数」で割って出た値の小数点以下を切り上げてその選挙区の定数とし、都道府県ごとの定数の合計が小選挙区の総定数に一致するよう「ある数」を調整する方法です。
アメリカの第6代大統領アダムズ氏が提唱したとされるため、この名称で呼ばれています。
日本では、2023年以降の選挙での導入が予定されています。
「1票の格差」是正に有効とされる
アダムズ方式は選挙区の人口に応じて議席数を配分するため、いわゆる「1票の格差」問題の是正に有効な制度だと言われています。
1票の格差とは、国政選挙の選挙区において議員1人当たりの有権者の割合を計算した際、有権者1人あたりの持つ1票の重みが不均衡である状態です。
例えば、有権者数が1000万人のX選挙区と、500万人のY選挙区で、どちらも3人の候補者がおり、1人だけ当選する場合を考えてみましょう。
X選挙区では400万票を得たAさんが当選し、350万票のBさん、250万票のCさんは落選したとします。
一方Y選挙区では、200万票を得たDさんが当選、180万票のEさんと120万票のFさんは落選した場合、各候補者の票数を比べてみるとどうでしょう。
すると、X選挙区で落選したCさんより少ない票数のDさんがY選挙区で当選していることになります。
選挙区の有権者数の違いによって、当選に必要な得票数が異なってしまう現象が起きかねません。
このように、人口の多い都市部と少ない地方の選挙区で有権者が持つ投票価値に大きな差があることになり、投票価値が平等でなく、問題だとされているのが「1票の格差」です。
一票の格差って?何が問題なのか理解しよう | スマート選挙ブログ
現状の「1票の格差」は?
1票の格差が2倍以上など大きくなるほど、選挙は法の下の平等を定める憲法14条に違反していて無効だとして、たびたび違憲訴訟が起こされています。
最高裁はこれまで衆院選の1票の格差について2回の「違憲」、3回の「違憲状態」判決を出しています。しかし選挙のやり直しなどの政治的混乱を考慮して、選挙が無効であると判断したことはありません。
1票の格差が1.98倍だった2017年の衆院選をめぐる訴訟で最高裁は、アダムズ方式の導入が予定されていることを評価して「合憲」だとしました。
最新の国政選挙である2021年の衆院選では、有権者数が最少だった鳥取1区と最多だった東京13区での格差が2.07倍になりました。2021年の衆院選の一票の格差をめぐる訴訟においても、2017年と同様に、最高裁は「合憲」判断をしました。
アダムズ方式導入の経緯や導入時期
日本では、2016年に成立した衆院選挙改革関連法で、1票の格差是正のためアダムズ方式の導入が決定しました。
いつから導入される?
アダムズ方式は2020年の国勢調査後に導入することになっており、2021年10月の衆院総選挙には間に合わなかったため、次回の選挙から実際に適用される見通しです。
国勢調査の確定値は2021年11月に公表されました。その数値を元に、各都道府県の定数も確定しました。
導入後の選挙はどうなる?
導入後、衆院選の小選挙区は15都県で「10増10減」することになります。
具体的には、宮城・福島・新潟・滋賀・和歌山・岡山・広島・山口・愛媛・長崎の10県で各1選挙区が減少します。
一方、東京都が5選挙区、神奈川県が2選挙区、埼玉・千葉・愛知の3県で各1選挙区が増加することになりました。
比例代表ブロックも、東京ブロックが2、南関東ブロックが1増え、東北・北陸信越・中国の各ブロックが1ずつ減り「3増3減」となる予定です。
アダムズ方式の適用と選挙区数の変動を受けて、今後さらに選挙区割りの見直しが進められている現状です。
アダムズ方式のメリット・デメリットは?
このように適用が進むアダムズ方式の、メリットとデメリットをそれぞれ説明していきます。
アダムズ方式のメリット
アダムズ方式のメリットは、従来に比べて人口比を正確に反映して議員定数が設定される点です。そのため、前述の「1票の格差」が減少し、投票価値の平等がより図られると見込まれています。
アダムズ方式のデメリット
一方でデメリットもあります。
アダムズ方式を適用すると、東京近郊など都市部の議席数が増え、対して人口の少ない選挙区では議席数が減ることになります。つまり人口の少ない地域から選出される議員数が減るため「地方の住民の声が政治に届きにくくなるのでは」との懸念があります。
まとめ
選挙区の人口をより正確に反映し議席数を設定することで「1票の格差」問題の是正を図るアダムズ方式について、仕組みや導入について見てきました。
投票価値を平等に近づけるというメリットがある一方で、地方の議席数が減り、政治に声が届きにくくなるのではという不平等も懸念されています。
今後の区割りの見直しや制度の導入によって、選挙を巡る実際の状況がどのように変わっていくのか、注目していきたいですね。
参考文献
・『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
・小選挙区の選挙無効求め一斉提訴…1票の格差巡り「衆院選は憲法違反」
・毎日新聞 3分で分かる司法の話:「1票の格差」訴訟 どんな格差で何が問題なのか(2018年12月18日)
・西日本新聞「長崎県の小選挙区「4」→「3」衆院15都県の10増10減確定」(2021年12月1日)
・日本経済新聞「衆院小選挙区、22年にも「10増10減」区割り改定へ」(2021年7月2日)
・産経新聞ニュース「そもそもアダムズ方式ってなに?」(2016年3月15日)
・2018年の最高裁判決踏襲、アダムズ方式を評価 ほぼ2倍の「1票の格差」維持へ 21年衆院選「合憲」
最終閲覧日は記事更新日と同日