政治・選挙に関するコラムなどで「地上戦・空中戦」という言葉を見かけることがありますね。しかし、選挙における地上戦と空中戦がどういうことなのか分からない、という方もいるでしょう。
「地上戦」「空中戦」はそれぞれどのようなねらいがあるのか、戦略の立て方の違いや活動例なども知りたい、という方も多いと思います。
この記事では、地上戦と空中戦について、目的や戦略の違いなどを実際の活動例を含めてわかりやすく解説します。この記事をご覧になれば、地上戦と空中戦の意味・目的など両者の違いがよくわかります。
地上戦・空中戦の使われ方
「選挙における地上戦と空中戦」の説明の前に、そもそも「地上戦」「空中戦」とはどのようなことなのか、本来の意味とビジネスなどにおける使われ方を説明します。
「空中戦」の本来の意味は、戦闘機などによる空中での戦闘を表す言葉です。陸地での戦闘を指す「地上戦」の対語です。
現在では、ビジネスにおいて、口頭で会議を行うことを「空中戦」と言うことがあります。これに対して、お互いの意見を文字などにして会議を見える化するのが「地上戦」です。
噛み合わない議論が続くまとまらない会議を比ゆ的に「空中戦」と表現することもあります。
さらに、マーケティングや 広報では、ターゲットが明確なパーソナルアプローチを「地上戦」、メディアを活用したマスアプローチを「空中戦」と呼んでいます。
選挙における地上戦とは
まず「選挙における地上戦」とはどのようなことなのか、その意味と活動例などを解説します。
地上戦の意味とねらい
地上戦とは、候補者が、一軒一軒・有権者一人ひとりに丁寧にお願いして歩く個別訪問を中心としたあいさつ回りなどの活動のことです。通称「ドブ板選挙」ともいわれます。
ドブ板選挙と呼ぶのは、中選挙区時代からの名残りです。当時は候補者や運動員が、家の前にあった側溝を塞ぐドブ板を渡って各戸を訪れていました。そのことに由来して、個々にあいさつ回りして歩く戸別訪問を中心とした選挙は、今でも「ドブ板選挙」と呼ばれています。
選挙の基本は、なんと言っても有権者との「対面」です。候補者が有権者に直接会って話をする対面での接触は、有権者の心象もよく、与えるインパクトも強く、知名度をあげていく上で効果が高い活動です。
これが選挙で一番大切ということは古今東西変わらないでしょう。特に、地方選挙のような小さい選挙ほど、地上戦こそが勝敗の鍵を握ります。
地上戦の活動例
地上戦の主な活動は、直接会って話をするあいさつ回り(ドブ板選挙)やミニ集会です。
- あいさつ周り:
候補者や運動員が、有権者の家を一戸一戸訪問したり、関係企業などを回ったりします。田中角栄元首相は、「歩いた家の数、手を握った数しか票は出ない」と「ドブ板選挙」の重要性を強調していました。ターゲットに直接会って接する機会を積み重ねることが重要だというのです。
- ミニ集会:
後援者宅や小規模施設などに有権者を少人数集めて演説会を行います。
地上戦、特にあいさつ回りの際は、自分が伝えたいことを簡潔に説明することが大切です。訪問先の下調べを含めて事前準備が重要になります。
なお、政治活動として行う戸別訪問は禁止されていませんが、選挙運動期間中における選挙運動のための戸別訪問はNGですので、注意しましょう。(公職選挙法第138条)
選挙における空中戦とは
次に、「選挙における空中戦」とはどのようなことなのか、その意味と活動例などを解説します。
空中戦の意味とねらい
空中戦は、一人でも多くの人の目と耳に候補者の顔と名前を焼き付けていく活動です。不特定多数の有権者を相手としますので、一対一の対面での接触を丁寧に行う地上戦と異なり、効率を重視する必要があります。
そのため、候補者の名前を街頭で連呼して、浮動層への認知度を高め、支持を広げるのが基本戦略です。
空中戦は、コロナ禍で人と人との接触を重視する地上戦が困難になっている状況下で、重要な役割を占めるようになっています。
空中戦の活動例
空中戦の活動の基本は、不特定多数を相手とする街頭での演説です。演説する場所は、駅前(駅立ち)・交差点(辻立ち)をはじめ、人の流れの多い街頭(街頭演説)が中心になります。
効率性を重視する空中戦は、人の多い場所・時間帯に、いかに候補者を露出できるかがカギになります。
- 駅立ち:
駅前に立って、通行人へのビラ配りや、あいさつ・演説などをする選挙運動です。有権者の利用が多い駅・時間帯などの下調べをして、定期的に立ち続けることが大切とされています。
- 辻立ち:
交差点に立ち、駅立ちと同様にビラ配りをしたり、あいさつや演説をしたりします。有権者の往来が多い交差点に立つことが重要です。
- 街頭演説:
文字通り街頭に立って通行人を相手に演説をします。大型商業施設の前など日常的に人が多く集まる街頭で、人が集まりやすいタイミングを見定めて効率よく演説することが大切です。
- ポスティング・新聞折込み:
チラシを用いた地域限定的な広告です。ポスティングは直接投函しますので、ターゲットに確実に届きます。新聞折込みは広い地域に配布できますが、配布先は購読者に限定されます。また、若者を中心に新聞購読率が低いのも難点です。
- マスコミ対応:
記者からの取材対応、立候補の調査票やアンケートへの回答などのことです。特にアンケートなどについては、締め切りを守って誠実に対応するようにしましょう。
ネット戦
規模の大きい国政選挙や東京都23区などスマホ利用者やSNSユーザー数が多い地域では、ネット戦の重要度はより高いものになります。反対に人口の少ない町や村の議会議員選挙ではネット選挙の重要度は低下します。
インターネットの政治活動での利用は、原則として自由です。地上戦や空中戦と同じく、投稿内容が事前運動にわたらない限り自由に行うことができます。サービスやツールに制限もありません。
具体的なツールは、ホームページ・ブログ・Facebook・Twitter・LINE・instagram・動画配信サイトです。
政治家のホームページはプロフィールページへのアクセスが一番多い傾向にあると言われています。有権者は、候補者がどんな人なのか、なぜ選挙に立候補するのかということに最も関心があります。幼少期からの写真やエピソード、立候補に至った決意、政治家となって何がしたいかといったヴィジョン等を掲載することがおすすめです。
ブログは自分の考えを伝えるものとして有効ですが、ただ、なんでも書けばいいわけではありません。政治活動報告をするだけでは関心を持ってもらいにくいので、地元の人が何を求めているかを先読みして書くことが必要です。例えば地元の保育園情報や美味しいレストラン情報などを季節に合わせて記事を書いてみましょう。
YouTubeは、Google検索に次いで2番目にアクセスが多い動画共有サービスです。自分の放送局を作るイメージ。動画は使いようによっては非常に効果があるものの、クオリティーの高い動画を制作する場合はコストもかかるため、計画的に活用していきましょう。
米国における空中戦・地上戦の例
最後に米国における空中戦・地上戦の例を紹介します。
空中戦・地上戦は、日本に限った選挙運動ではありません。たとえば、2012年の大統領選挙で大勝を収めたオバマの勝因は、地上戦・空中戦、それにサイバー戦(ネット戦)だと言われています。
- 地上戦:戸別訪問や投票促進運動などの組織作り
- 空中戦:テレビでの選挙スポットCM
- サイバー戦:ソーシャルメディアなどでのPR戦略
オバマ陣営が取った戦略は、上記の3つの戦いを密接に関連付けることです。特にサイバー戦はオバマの圧勝であったと言われています。
まとめ
地上戦と空中戦について、意味・目的や戦略にどのような違いがあるのかを、活動例とあわせて解説しました。
地上戦と空中戦では、ターゲットや活動の重点が異なります。さらに、最近ではネット戦の役割が増大しています。
この記事を参考にして、各選挙戦の意味・より効果的な戦略のあり方なども考えながら政治関連のニュースや記事に関心を持っていただければ幸いです。
<参照>
weblio「地上戦」
毎日doda「会議の効率的な進め方。まとまらない会議を「地上戦」に持ち込む」
産経新聞「与党、新潟での連敗ストップ 地上戦に徹し空中戦僅差でかわす」
読売新聞オンライン「[衆院選Q&A]運動のルールは?…「戸別訪問」は禁止」
読売新聞オンライン「脳が好感度アップ? 「どぶ板選挙」の効用」
東洋経済「THE昭和「どぶ板選挙」がいまだ健在な深いワケ」
選挙ドットコム「選挙の手法が地上戦から空中戦に変わると、政治家が小粒になる」
江戸川区「選挙:電話で投票依頼がありましたが、違反ではないのでしょうか。」
weblio「空中戦」
下野新聞「ネットで熱い「空中戦」若年層狙いSNS駆使 栃木県知事選」
NHK政治マガジン「風の吹かない選挙 組織戦と空中戦が分けた明暗」
asahi.com「民主「地上戦」VS自民「空中戦」」
朝日新聞DIGITAL「会えなくても、ネットで訴え…」
東京財団政策研究所「「オバマの勝因:「地上戦」「空中戦」「サイバー戦」での圧倒」」