官僚制とは?メリットや「逆機能」についてわかりやすく解説

官僚制とは?メリットや「逆機能」についてわかりやすく解説

政治において、官僚制の肥大化や官僚政治が指摘されることがあります。

行政機関や組織における官僚制とはどのような定義があるのでしょうか。

本記事では、日本の官僚制の特徴や、メリット・デメリットについてわかりやすく解説します。

「官僚制の逆機能」と呼ばれる批判についても触れているので、ぜひ参考にしてください。

官僚制とは

官僚制(ビューロクラシー、bureaucracy)とは、広義では何段階もの階層構造を持つ管理体制です。組織経営などビジネスに関する話題でも取り上げられることがあります。

本記事では、国の行政機関における官僚制について説明します。

マックス・ウェーバーによる官僚制の特徴

ドイツの社会学者マックス・ウェーバーは著書『支配の社会学』の中で、近代官僚制の特徴を以下のように挙げました。

  • 規則により職務権限が明確化されている
  • 職務において上下のヒエラルキー(階層秩序)があり、ピラミッド型の組織である
  • 文書主義
  • 職務活動が専門化されている

「官僚」とは誰を指す?

行政組織の官僚制において「官僚」とは、政策決定に影響を行使できるような上級公務員を指します。

日本の場合、例えば各省庁の事務次官や局長、審議官などです。省庁の幹部候補になるのは国家総合職試験に合格したいわゆる「キャリア官僚」がほとんどで、政策立案や予算編成など重要な職務を担っています。

官僚政治とは

政策立案など、政治の実権を官僚(上級公務員)が事実上握っていることを「官僚政治」といいます。

民主主義においては本来、政治の実権は国民から選挙で選ばれた国会議員が握っているはずです。これが代議政治です。

しかし官僚制が肥大化して官僚政治に陥ると、実質的な政治の決定権を政治家ではなく官僚が持つようになります。本来の民主主義政治ではなくなってしまうとの指摘があります。

官僚制のメリット・デメリットと「逆機能」

ウェーバーは官僚制を「合法的な支配」の最も合理的な形だとして提唱しました。しかし現実には欠点もあります。

メリット:本来は合理的で平等な仕組み

官僚制において本来、最大のメリットは合理的であることです。規則に従い文書主義を実践することで、能率的な事務処理に優れています。

また、形式的であるために個人の感情や関係に支配されず、不平等が生じにくい仕組みだといえます。

デメリット:縦割り行政や官僚政治に陥る

一方で官僚制の批判として「縦割り行政」や「セクショナリズム」があります。

縦割り行政とは、各省庁が独自に職務を実施し、省庁間での連絡や調整が不十分なことです。省庁が互いに協力せず、自己の権限や利益にこだわり排他的になってしまうセクショナリズム(縄張り主義)が背景にあります。

さらに、権威主義や、形式を重視しすぎた中身のない行政になること、官僚政治や法律万能主義に陥りやすいことが官僚制のデメリットです。法律万能主義とは、実態に沿わない法解釈を適用したり、法律でなんでも規制しようとしたりすることです。

官僚制の逆機能

ウェーバーが述べた官僚制に対し、アメリカの社会学者ロバート・キング・マートンが主にその弊害について指摘したものが「官僚制の逆機能」と呼ばれています。

官僚制は本来、国民の利益を目的とし、合理的政策を行うための制度(=「手段」)のはずです。しかしその官僚制自体が「目的」になってしまうと、国民にとってデメリットになりかねません。

例えば、文書主義や細かい規則・形式にこだわりすぎて十分な行政機能が果たせなかったり、セクショナリズムによって国民の利益よりも省庁の利益が優先されたりしてしまう場合です。

官僚制という手段が目的化し、本来の目的である国民の利益が損なわれることを「逆機能」といいます。

日本の官僚制における特徴と問題点

官僚制の仕組みそのものにはメリット・デメリットがありますが、日本の官僚制は具体的にどのような課題を抱えているのでしょうか。

内閣人事局の設置

国家公務員の人事管理に関する戦略的中枢機能を担う組織」として2014年、内閣人事局が創設されました。国家公務員の人事行政や、行政機関の管理を担います。

内閣人事局の設置に伴い、各省庁の幹部候補などは内閣によって一元的に管理される仕組みとなりました。

設置当時に安倍晋三内閣で官房長官だった菅義偉前首相は、首相就任後も官僚人事を政治主導で行う方針を示します。民主主義の下で、本来政治の実権を持つ国会議員ら政治家が政策を実現するため、政治主導で人事を掌握するのは正当だとも考えられます。

一方で、「首相が気に入らない官僚は左遷される」と捉えられることもありました。内閣人事局による官僚の一元管理は、「政治家による官僚人事への強すぎる介入」「本来は専門性や中立性を必要とする官僚が、政治家に対して萎縮してしまう」との批判もあり、賛否両論です

内閣立法の増大・議員立法の減少

法律をつくる立法権は国会に属していますが、行政権を担う内閣も法律案の提出が可能です。

日本では、国会議員が法律案を提案し成立する「議員立法」が減少し、内閣(官僚)が提出する「内閣立法」が増加している傾向にあります。

内閣府法制局によると、2021年中に開かれた通常国会・特別国会・2回の臨時国会において成立した法律のうち、内閣府提出は63件、議員提出は23件でした。

法律の大枠のみを定め、詳細は政令や省令などの行政立法に委任する「委任立法」も増えています。

議会の立法機能が低下し、立法・政策決定は実質的に内閣・官僚組織がその多くを握っている状況です。

議員立法・委任立法については、こちらの記事で詳細に解説しています。
議員立法とは?議員立法が少ない理由や議員立法で成立した法律を紹介 | スマート選挙ブログ
委任立法とは?必要な理由や問題点を解説!委任立法の例も紹介 | スマート選挙ブログ

ブラック?国家公務員志望者が激減

国をあげた「働き方改革」によって、労働環境の改善が進められています。しかし国家公務員の働き方は民間企業以上にハードだといわれ、ブラック企業ならぬ「ブラック霞が関」と表現されることもあります。

「ブラック」といわれる一因は、長時間労働やサービス残業の多さです。特に若い世代の離職者が増えており、人手が減ることで残った人の働き方がますますハードになる悪循環に陥っています。

官僚を志す人の減少傾向も顕著です。1980年には4万人を超えていた国家公務員総合職志望者は、現在2022年には約1万5000人と半数以下に激減しました。

なり手が減り続ければ、中央省庁は深刻な人手不足になり、行政機能の遂行や質に影響が及びかねません。

まとめ

  • 官僚制には、規則による職務の明確化やヒエラルキー、文書主義などの特徴がある
  • 官僚政治とは、官僚制の肥大化で官僚が事実上の実権を握ることをいう
  • 官僚制のメリットは合理性や平等性だが、セクショナリズムによる縦割り行政や権威主義、過度な形式主義などのデメリットがある。官僚制の逆機能とも呼ばれる
  • 日本の官僚制は、政治家による強い人事介入が適切かどうかという議論や、議員立法の減少、ブラックな働き方などの課題がある

 

<参考>
『政治・経済用語集 第2版』山川出版社、2019
『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
試験概要 | 国家総合職(官僚) |資格の学校TAC[タック]
(耕論)アートと公金支出 河村光庸さん、平田オリザさん、野口雅弘さん
官僚制組織とは何か
マートンとは-コトバンク
官僚制理論と官僚制批判理論その基礎
内閣人事局
官邸主導とは何だったのか 内閣人事局「生みの親」が語る安倍・菅政権 | 毎日新聞
官僚人事の憲法論 政治主導と中立性は両立するか
メンタル不調の公務員急増、政治改革の完成形「強い官邸」の末に
過去の法律案の提出・成立件数一覧 | 内閣法制局
ブラック霞が関、色薄まるか 若手「変わらぬ絶望」訴え: 日本経済新聞
きしむ霞が関 増える業務・増えぬ人員、180人で7400船舶事業者カバー 参院選|朝日新聞デジタル

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