2020年11月に投票が行われたアメリカ大統領選挙では、共和党のドナルド・トランプ候補が「選挙で不正が行われている」と繰り返し主張していました。
ニュースなどで耳にされた方もいるのではないでしょうか。
大統領選挙の不正疑惑は、トランプ政権下にあった4年間のアメリカにおける変化を理解するうえで役立ちます。
この記事では、
「具体的になにがあったのか」
「『自分への投票が盗まれた』とトランプ候補は言っていたが、本当なのか」
「トランプ前大統領の今後の政治生命はどうなるのか」
といった疑問に答えます。
※本文中の日付はアメリカ現地時間で表記しています。
2020年アメリカ大統領選挙における選挙不正疑惑の流れをおさらい
トランプ候補は選挙中、選挙の正当性について繰り返し批判していました※。
※以下の「選挙戦中のトランプ候補の主張」で紹介するトランプ氏の発言は、政治についての主張の正確性を調査する「ファクトチェック」を行っているウェブサイト”Politifact”のトランプ氏の発言に関するページ(“https://www.politifact.com/factchecks/list/?page=2&speaker=donald-trump“ 最終確認日:2021年8月19日)から引用しています。
選挙戦中のトランプ候補の主張
「私の名前がない、偽の投票用紙が印刷された」
(2020年10月20日:ペンシルヴェニア州での演説内の発言)
「ネバダ州では、彼ら(選挙運営を行うネバダ州当局を指しているものと思われる)は投票用紙の署名確認を不要としたいようだ」
(2020年10月25日:政治集会での発言)
「選挙日から何週間も経ってから投票用紙を数えるのはまったく不適切であり、私たち(アメリカ)の法律ではあり得ないことだ」
(2020年10月27日:メディア関係者への発言)
2020年11月3日の投票日を過ぎたあとでさえ、トランプ候補は批判を止めませんでした。
「合法的な票を数えれば、私は簡単に勝てる。違法な票を数えれば、彼ら(ジョー・バイデン陣営)は私たちから選挙を奪うことができる」
(2020年11月5日:ホワイトハウスでの演説内の発言)
「ドミニオン投票システムズ社(ドミニオン社)が “全米で270万のトランプ票を削除”」
(2020年11月5日:ツイッターでの発言)
「ペンシルヴェニア州とミシガン州では、我々の投票監視員と投票オブザーバーの双方もしくはいずれかの監視や監察が許されなかった」
(2020年11月11日:ツイッターでの発言)
選挙結果とその後の展開
大統領選挙の投票日後に起きた重要な出来事を、時系列で整理しました。
- 2020年11月3日:投票日。開票開始。
- 11月4日:トランプ陣営がミシガン州での「開票打ち切り」を求め州裁判所へ提訴。後に訴えは却下。トランプ陣営は他にもペンシルヴェニア州などで、選挙手続きに関する提訴を実施。
- 11月7日:ジョー・バイデン候補が勝利宣言。
- 11月23日:トランプ候補がツイッターで「政権移行手続きを開始する」と表明。
- 12月8日:テキサス州のパクストン司法長官が、接戦だった4つの州を「大統領選に関わる手続きを不正に変更した」として連邦最高裁判所に提訴。4州の投票結果を大統領選の結果から外すよう求めた。翌日、トランプ候補本人も支持を表明。
- 12月11日:最高裁、テキサス州のパクストン司法長官らの訴えを棄却。
- 2021年1月7日:アメリカ連邦議会がバイデン候補の大統領選出を正式に認定。
- 1月20日:大統領就任式。バイデン政権発足。
バイデン候補がアメリカ合衆国憲法に従って正式に大統領に選出され、第46代大統領として就任しました。
一方、トランプ陣営が行った選挙不正についての数々の提訴は、裁判所が裁判を行う必要性を認めずに終わりました。
トランプ前大統領は伝統的に大統領選の敗者が行う「敗北宣言」を行わないまま、ホワイトハウスから去りました。
トランプ候補の発言への反応
バイデン候補は今年1月7日の演説で
「60件以上の訴えで、裁判官は『トランプ氏の主張を見て(裁判を行う)何のメリットもないと判断した』」と発言しました。
ファクトチェック・サイト「Politifact(ポリティファクト)」のバイデン氏(現大統領)のページより引用:https://www.politifact.com/factchecks/2021/jan/08/joe-biden/joe-biden-right-more-60-trumps-election-lawsuits-l/(最終確認日:2021年8月19日)
しかし一方で、今でも「大統領選挙で不正があった」と信じているトランプ前大統領の支持者はいます。
そもそも裁判が行われていないことが、かえって「裁判で不正がなかったと証明されたわけではない※」というトランプ候補の支持者の主張を支えています。
※NHK「『結束は夢物語』トランプ支持者はいま何を思う」でのインタビューより(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210208/k10012855151000.html)( 最終確認日:2021年8月19日)
何が問題か:選挙不正疑惑の争点をおさらい
2020年アメリカ大統領選挙における選挙不正疑惑の争点について解説します。
死人が投票? バイデン候補への投票が水増しされていた?
2020年のアメリカ大統領選挙では、新型コロナウイルス対策の一環で郵便投票が大規模に実施されました。
郵便投票は「今は生きていない人が、投票者として名前を使われている」、「死人の投票で、バイデン候補への投票が水増しされている」といったトランプ陣営の主張に信ぴょう性を感じさせる原因の1つとなりました。
またトランプ陣営は「登録有権者よりも票が多い」「民主党の票が一挙に急増した」といった主張も行っていました※。
※イギリスの放送局”BBC”日本語版の記事「【米大統領選2020】 検証:投票について色々なうわさ 投票の数や投票機など(https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-55054609)」を参照。(更新日:2020年11月24日、最終確認日:2021年6月29日)
投票器材が不正に操作されていた?
大統領選において28州で使われた投票機材を提供した「ドミニオン社」も「不正に関与していた」としてトランプ陣営が批判を行っていました。
不正はあったのか:選挙不正疑惑のファクトチェック(事実確認)
ファクトチェックとは、事実かどうかを確認することです。
アメリカではメディアや政治家の発言の正確性を調査・評価するファクトチェック・サイトが普及しています。
政治についてのファクトチェックを行っているPolitifact(ポリティファクト)は、政治家の発言が事実がどうかを6段階に分けて評価しています。
記事内で引用したトランプ候補による6つの発言のうち、4つが「不正確で馬鹿馬鹿しい」、1つが「不正確」、1つが「ほとんど不正確」とポリティファクトは評価していました。
- 「私の名前がない、偽の投票用紙が印刷された」(ポリティファクトによる評価:ほとんど不正確)
- 「ネバダ州では、彼ら(選挙運営を行うネバダ州当局を指しているものと思われる)は投票用紙の署名確認を不要としたいようだ」(ポリティファクトによる評価:不正確)
- 「選挙日から何週間も経ってから投票用紙を数えるのは全く不適切であり、私たち(アメリカ)の法律ではあり得ないことだ」(ポリティファクトによる評価:不正確で馬鹿馬鹿しい)
- 「合法的な票を数えれば、私は簡単に勝てる。違法な票を数えれば、彼ら(ジョー・バイデン陣営)は私たちから選挙を奪うことができる」(ポリティファクトによる評価:不正確で馬鹿馬鹿しい)
- 「ドミニオン社が “全米で270万のトランプ票を削除”」(ポリティファクトによる評価:不正確で馬鹿馬鹿しい)
- 「ペンシルヴェニア州とミシガン州では、我々の投票監視員と投票オブザーバーの双方もしくはいずれかの監視や監察が許されなかった」(ポリティファクトによる評価:不正確で馬鹿馬鹿しい)
また、もう一つの主要なファクトチェック・サイトである「factcheck.org(ファクトチェック・ドット・オルグ)」も、トランプ前大統領の発言の多くが不正確だと評価しています※。
※Factcheck.org(ファクトチェック・ドット・オルグ)内のトランプ前大統領についてのページ(https://www.factcheck.org/person/donald-trump/)を参照。(最終確認日:2021年8月19日)
まとめ
トランプ陣営が主張した選挙不正の疑いは、裁判所とファクトチェック・サイトにほぼ完全に否定されています。
それでもトランプ前大統領の主張が一定の支持を集め続ける背景には、経済格差やインターネットによる情報の偏りなど、さまざまな要因があります。
2021年6月、オハイオ州で行われた「2022年中間選挙(国会議員を選ぶ選挙)」へ向けたイベントで、トランプ前大統領が演説を行いました※。
トランプ前大統領への支持は依然として根強く、共和党そしてアメリカ政治への影響力を持ち続けています。
※アメリカの新聞社” USA Today”の記事
”Donald Trump tells Ohio rally he’s ‘trying to save American democracy(https://www.dispatch.com/story/news/politics/2021/06/26/donald-trump-rally-ohio-saturday-return-campaign-style-events/5310482001/)’”などのニュースを参照。(更新日:2021年6月26日、最終確認日:2021年8月19日)