「圧力団体」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
安倍晋三元首相の死後、政治と様々な団体との関係が注目されるようになり、SNSなどで目にしたという方も多いかもしれません。
この記事では、圧力団体とはいったいどのような団体を指すのか、また、その活動内容などについて解説します。
そもそも「圧力団体」とは?
圧力団体とは、自分たち組織の目的を実現するために、政治家や議会、それから政策執行過程や世論などに対して、組織的に動いて影響力を行使しようとする団体のことです。
元々は「pressure group」の訳からきている言葉で、例えば「政治団体」のように法律に定めがあり、要件が明確に定義されているものではありません。
一般的によく圧力団体(利益団体)の具体例として挙げられるのには、主に経済政策についての提言などを行う経済三団体(日本の代表的な企業や業種別全国団体などが加盟する日本経済団体連合会、企業経営者が個人として参加する経済同友会、全国の商工会議所を会員とする日本商工会議所)や、労働法制などに関して働きかける日本労働組合総連合会、医療制度などに関して働きかける日本医師会、そのほか宗教団体や市民組織などがあります。
組織本来の目的はこのような圧力団体としての活動とは別にあり、普段はそれぞれの業界の発展を目指した施策など、政治とは直接関わりのない活動をしている場合も多くあります。
最近は「圧力」という言葉がネガティブな印象を与えることから、「利益団体」などと表現されることが多くなっています。
政治や社会学の専門家による研究では、政権交代時の農業団体の動きや、規制緩和に対抗するタクシー業界の団体など、実際の団体を利益団体として取り上げています。
圧力団体の活動内容
仮の設定で、具体的な活動内容をみてみましょう。
例えばある特定の業種の会社が参加する業界団体があるとします。この団体は、普段は会員企業向けに勉強会を開催したり、業界をPRするイベントを開いたりしています。
自分たちの業界の発展につながる政策立案を希望し、また、他の業界より有利な企業活動ができる根拠となっている法律が一部批判を集めていることから、この法律撤廃を阻止したいと考えています。
- 活動例1:希望する政策実現にむけ政治家や行政に働きかけ、政策提言をする
この団体は、希望する政策立案、法律撤廃阻止を実現するために、普段から政策決定過程に力を持つ政治家に献金し、関係構築をはかっています。
また政治家に対してだけではなく、担当省庁にも自分たちの要望を働きかけ、パブリックコメントに組織的に意見を書き込むなどしています。また、希望する政策立案に向けた請願や、政策提言という形での意見発表もしています。
- 活動例2:選挙の際に特定候補を応援し、場合によって政策協定を結ぶ
選挙の際には自分たちが希望する政策をすすめてくれる候補を応援します。当選した際にやってほしいことなどを具体的に明示して政策協定を結ぶこともあります。
そして、加盟している会員にその候補を紹介し投票を呼び掛けたり、選挙期間に団体会員から人を出して選挙運動の手伝いをしたりするほか、時には自分たちの団体の中から組織内候補を選出することもあります。
上記は仮の設定で特定の業種に携わる民間企業の集まりを想定し、業界の利益のために活動する場合を紹介しましたが、こうした自分たちの利益を求める構造に限らず、例えば社会課題の解決など公共の利益を訴え、同じように政治家や行政に働きかけ、選挙の際に特定候補を応援する市民団体などもあります(前述したように「圧力団体」に明確な基準はないので、上記はあくまで活動の例で、必ずしも圧力団体と呼ばれる団体がこうした活動全てをおこなっているというものではありません)。
「圧力」という言葉は不適切?使用には注意も必要
このように、政治家にとっては、選挙の際に票を集めてくれる団体はありがたい存在であり、時には自身が当選するためになくてはならない存在となる可能性もあります。
また担当省庁などの行政にとっても、円滑な行政の執行のために管轄業界の力を持った団体の協力は、必要不可欠な存在です。
かつては「天下り(省庁幹部の定年退職後の再就職先などを業界団体が用意していた)」などが世間の批判を浴びたように、過度な結びつきが問題視されたこともありました。
一方で、政治家や担当省庁などにとっては、こうした団体の存在はある意味プレッシャーでもあります。団体の要望に沿った動きをしないと、次の選挙で支援を受けられなかったり、必要な協力が得られなったりする可能性があるためです。
こうした構造から、団体からの要望が政治家にとっては「圧力」と感じるという見方もあり、「圧力団体」という名称が用いられてきました。
政策決定過程が今よりも不透明で、特定団体の強い結びつきが可能だった以前は、「癒着」などと問題視され、こうした団体の動きも批判をあびることがありました。
しかし、組織的に実現したい事柄を表明し、それに賛同してくれる政治家を応援したり、担当省庁に要望を伝えたりすることは特に違法なことではありません。
また、「圧力」という言葉は「威圧して服従させようとする」というニュアンスを含む場合もあるため、社会構造の変化などに伴い、最近では「圧力団体」とはいわずに、「利益団体」という名称が用いられることが多くなっています。
まとめ
- 圧力団体とは、自らの要望を実現するために、政府や政治過程、担当省庁などに働きかけをし、組織的に影響力を与えようとする団体。
- 明確な法律の定めや定義がある団体ではなく、本来は別目的のために存在する団体も多い。
- 普段から働きかけをしたり選挙の際に応援したりすることとあわせて、自分たちの利益実現を要望することが、ある意味プレッシャーを与えるという側面をとらえ、圧力団体という名称が用いられてきた。
- 社会構造の変化などに伴い、「圧力団体」ではなく最近は「利益団体」と呼ぶことが多い。
<参考>
コトバンク | 圧力団体
高橋昌二 | 圧力団代の組織と機能
秋吉貴雄 | 規制緩和と利益団体政治の変容
河村和徳 | 利益団体内の動態と政権交代
総務省 | 政治団体とは
学研キッズネット | あつりょくだんたい
Weblio辞書 | 圧力
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