2022年12月10日、改正地方自治法が参院本会議で可決、成立し地方議会議員の兼業規制が緩和されました。
「地方議員の兼業は既に認められていたのではないか」
「兼業禁止の緩和で不祥事が起こる可能性が高まるのではないか」
このように思った方もいるかもしれません。
そこで本記事では今回改正された地方議会議員の兼業規制について、兼業と兼職の違いについても触れながら解説します。
地方議員の兼業規制を緩和する改正法が成立
2022年12月10日に、地方議会議員の兼業規制を緩和する改正地方自治法が可決、成立しました。共産党を除く超党派が賛同した議員立法で、2023年4月に執行される統一地方選挙までに施行するとされています。
今回の改正により、自治体から業務を請け負う個人事業主に関しても、年間取引額が300万円以下であれば地方議会議員選挙に立候補することができるようになりました。これまでは自治体と取引がある個人事業主は地方議員に立候補できませんでした。
規制緩和により地方議員のなり手不足解消が見込まれているものの、地方では人口減少と高齢化が進んでいるため、効果に限界があるとの声もあります。
これまでは農家などを兼ねる議員も多かったようですが、自治体と取引がある個人事業主は、議員活動の公正性確保を理由に兼業が禁じられてました。
法改正後、自治体との年間取引額が300万円以下であれば兼業が認められることになります。
個人事業主の年間売上高が全国平均で1300万円であることから、この金額であれば不祥事は起きにくいと判断されたようですが、今後は透明性の確保が求められるでしょう。
なお付則には立候補する従業員が休暇を取得できるよう、政府が事業主に自主的な取り組みを促すことも盛り込まれました。
地方議員の兼業の禁止とは
今回改正された地方議会議員の兼業規制については、地方自治法92条の2で定められています。
第九十二条の二 普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。
この法律では「地方議員は、その自治体に対し請負をする者(個人)にはなれない」ことと、「地方議員はその自治体に対し請負をする法人の役員等にはなれない」ことが規定されています。
今回の改正により「自治体に対して個人事業主として請負をする者」に関しては、その請負金額が年間300万円以下であれば議員と兼業できるようになったということです。
なお、地方議会議員がこの規定に抵触した場合、地方自治法127条第1項の規定により、その職を失うこととされています。
第百二十七条 普通地方公共団体の議会の議員が被選挙権を有しない者であるとき、又は第九十二条の二(第二百八十七条の二第七項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に該当するときは、その職を失う。その被選挙権の有無又は第九十二条の二の規定に該当するかどうかは、議員が公職選挙法第十一条、第十一条の二若しくは第二百五十二条又は政治資金規正法第二十八条の規定に該当するため被選挙権を有しない場合を除くほか、議会がこれを決定する。この場合においては、出席議員の三分の二以上の多数によりこれを決定しなければならない。
地方議員の兼職の禁止とは
地方議会議員は、国会議員や他の地方公共団体の議員を兼ねることはできません。
これら地方議員の兼職の禁止については地方自治法92条で規定されています。
第九十二条 普通地方公共団体の議会の議員は、衆議院議員又は参議院議員と兼ねることができない。 ② 普通地方公共団体の議会の議員は、地方公共団体の議会の議員並びに常勤の職員及び地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第二十八条の五第一項に規定する短時間勤務の職を占める職員(以下「短時間勤務職員」という。)と兼ねることができない。
地方議会議員が兼職できない主な職とその根拠となる法律は以下の通りです。
- 国会議員(地方自治法92条①)
- 裁判官(裁判所法52条)
- 普通地方公共団体の長(地方自治法141条)
- 教育委員会の教育長及び委員(地方教育行政法6条)
- 人事(公平)委員会の委員(地方公務員法9条の2⑨)
- 公安委員会の委員(警察法42条②)
- 収用委員会の委員及び予備委員(土地収用法52条④)
- 海区漁業調整委員会委員(漁業法95条)
- 内水面漁業管理員会の委員(漁業法132条による同法95条の準用)
- 固定資産評価審査委員(地方税法425条①)
- 地方公共団体の常勤の職員(地方自治法92②)
- 短時間勤務職員(地方自治法92条②)
- 固定資産評価員(地方税法406条①)
- 外部監査人(地方自治法252条の28③Ⅶ)
- 港務局の委員会の委員(港湾法§17①)
まとめ:地方議員の兼業規制緩和と兼職禁止について
本記事では地方議会議員の兼業規制緩和や兼職禁止について解説しました。以下に内容をまとめます。
- 2022年12月10日に改正自治法が可決、成立し地方議員の兼業規制が緩和されることになった
- 改正の狙いは地方議員のなり手不足解消
- 改正により自治体から業務を請け負う個人事業主であっても、その年間取引額が300万円以下であれば地方議員選挙に立候補できるようになった
- これまで自治体と取引のある個人事業主は地方議員と兼業することはできなかった
- 地方議員は国会議員や裁判官など、さまざまな職と兼職が禁止されている
<参考>
地方議員の兼業規制緩和 改正自治法が成立 なり手確保、効果限界も | 沖縄タイムス+プラス プレミアム
地方議員なり手確保へ兼業規制緩和 来春の統一選までに改正法施行
地方議員の兼業規制緩和 成り手不足対策、改正法成立
地方議員の兼業規制を緩和 改正地方自治法が成立
57_082-087_行政通知_57.pdf
地方議会制度の概要③ ~議員の兼職・兼業の禁止
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