国家三権である司法、立法、行政に次ぐ権力を持つとして、マスメディア・特に報道機関を「第四の権力」と呼ぶことがあります。
マスメディアが情報を媒介して多数の人に伝え、時に政治や社会を動かす力を持つことからきている言葉です。
しかし、SNSの発達などにより、情報を伝える機関としてのメディアの力が弱まっているとも言われています。
本稿では、マスメディア・特に報道機関が第四の権力と呼ばれるようになった背景、そしてSNS時代における変化やメディアに求められる役割などについて、わかりやすく解説します。
第四の権力とは
マスメディアとは、マス(多くの人々)向けに情報を伝える媒体のことで、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などを指しています。
特に政治や社会のニュースを伝える報道機関は、権力を持つ公的機関などを監視する機能を持ち、世論を動かす影響力をも持つことがあります。そのため、司法・立法・行政に次ぐ「第四の権力」と呼ばれることがあります。
国民の知る権利に応えるため、報道機関に求められるのは、必要な情報を正確にいち早く届けること。そのため、公的機関などに対し継続的に取材を行うほか、必要に応じて関係団体・組織や一般の市民などにも取材を行い、情報を深堀しています。
時には記者クラブなどを通じて公的機関が秘匿したい情報の公開を迫ったり、より詳しい情報を引き出すために会見を要求したりすることも。一定の緊張関係を保ちながら、取材活動を行っています。
政治や国家などの干渉を受けると、権力に対する監視機能を果たすことができなくなってしまいます。そのため、例えば新聞では「新聞倫理綱領」のなかで独立の確保や勢力からの干渉排を明記しています。
また公共放送であるNHKは「放送ガイドライン」のなかで不偏不党や外からの圧力・働きかけにより左右されないことを謳っています。
マスメディアによって政治や社会が動いた事例
マスメディアの報じた内容により、実際に政治や社会が動いた事例を見てみましょう。
権力監視の例:「田中角栄研究」
日本に調査報道の存在を知らしめたとも言われる、ジャーナリストの立花隆氏による文藝春秋の記事。
膨大な資料分析と関係者への取材から、当時の首相・田中角栄氏の金の流れや政治支配の構造を明らかにした内容で、圧倒的な力を持っていた田中角栄氏を退陣に追い込んだといわれています。
海外の例:ベトナム戦争
当時のアメリカ政府は、ベトナム戦争に対する国民の理解を得るために、広報キャンペーンを行いました。
多くの報道陣を受け入れて自由に取材させ、時には取材支援をすることで、特派員を味方につけようとしたのです。軍が望む形で報道させて情報統制することで、愛国心醸成のために利用しようと考えたといわれます。
しかし、軍の意図に反し、特派員たちは現場で見た戦争の実態を伝え、アメリカ側にとってマイナスとなる情報も伝えました。
アメリカはメディアの報道をコントロールできず、広報キャンペーンは「失敗」となりました。以降、戦争取材の規制を厳しくするようになり、ベトナム戦争は「自由に報道できた最初で最後の戦争」ともいわれます。
社会問題の例:無戸籍問題
戸籍をもたない「無戸籍」の人がいるという問題について、大手新聞社が特集シリーズとして記事を大々的に連載しました。
無戸籍問題は、主に、「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子」と推定する旧民法722条の規定により、前夫の子になるのを避けるために母親が出生届を提出しないことが原因でした。
報道を受けてこの規定について議論され、2022年にこの規定の見直しなどを行った改正民法が成立しています。
SNSの台頭で起きた変化とは
近年では、報道機関のあり方、力に変化が起きているともいわれています。
かつては、多くの人に情報を届ける機能は、ほぼマスメディアが独占していました。公的機関が広く国民に情報を伝えようと思っても、テレビもラジオも新聞も報じなければ届けることはできなかったのです。
しかし、インターネットやSNSが登場し、仕組み上はいつでも誰でも世界中に情報が発信できるようになりました。
公的機関も企業も個人も、世の中に伝えたいことがあるときは自らの言葉で直接発信できます。即時性もSNSの方が優れており、SNSの情報を端緒に報道機関が取材をするケースも増えています。
中には、「アラブの春」(アラブ世界で起きた民主化運動)や「保育園落ちた日本死ね!!!」(待機児童問題をつづった匿名ブログ)など、SNSが社会を動かした事例もあります。
報道内容に対する批判も可視化されるようになりました。例えば記事に出てくる当事者が「事実と違う」と発信したり、より専門性の高い人が「記事は表現が正確ではない」「書いた人は不勉強だ」などと発信したり、これまでは反論の術を持たない人たちがSNSにより声をあげることが可能になっています。
さらに、記者クラブ問題、過熱報道などの取材手法もあわせて問題視され「マスゴミ」という言葉も登場しました。
現代のマスメディアに求められる役割とは
時代とともに、マスメディアに対する国民の意識も大きく変化しています。
2022年の新聞発行部数は3000万部余りで、20年前に比べて2000万部以上少なくなっています。
また、総務省の調査では、「いち早く世の中のできごとや動きを知る」ために、最も利用するメディアは何かという質問に対し、60代では「テレビ」が67%以上でもっとも多かったのに対し、20代では75%が「インターネット」と回答しました。
各報道機関も、自分たちに求められる・果たすべき役割は何か、報道機関として何が必要かを議論し、模索しています。
報道機関でないとできない情報の集約、丁寧な取材による検証や深堀、調査報道などの必要性を改めて主張する声もあります。また、コンテンツの作り方や届け方など、デジタル化がすすむ現代にあわせた形を充実させるべきという意見も聞かれます。
報道機関自身が、時代に合わせて変わるべきところ、変わらずに守るべきところは何かをそれぞれ検討し、自分たちの存在意義を改めて見つめ直しています。
<参考>
コトバンク|マスメディア
コトバンク|第4の権力
外務省|「アラブの春」と中東・北アフリカ情勢
総務省|令和3年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書
日本新聞協会|新聞倫理綱領
日本新聞協会|新聞の発行部数と世帯数の推移
NHK|NHKの概要・沿革など
NHK|「調査報道」の社会史
アジアンドキュメンタリーズ|ベトナム戦争の真実
毎日新聞|<無戸籍問題キャンペーン>困難な成人の無戸籍解消
文春オンライン|
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