日本では、選挙に立候補するには、必ず「供託金」という法務局に預けるお金を用意しなければなりません。日本の供託金の金額は世界と比べ高いと言われていますが、実際どうなのか、ランキングを通してわかりやすく解説します。
供託金とは
供託金とは、選挙に立候補する際に法務局に預けなければならない金銭や債権のことです。
供託金は、当選を目指さない売名目的の立候補を防ぎ、候補者の乱立を避けるために設けられています。
選挙で一定の得票数に達しないと、没収され返還されません。
世界の供託金ランキング
先進国の多いOECD(経済協力開発機構)の加盟国で、供託金の金額を比較し、解説します。
OECD加盟国38ヶ国のうち、供託金制度が確認されたのは13ヶ国でした。
各国の供託金制度は、返還基準が異なったり、無所属の候補のみに課したりなど様々で一概に比較はできませんが、以下の方法でランキングを作成しました。
各国の1人あたりGNI(国民総所得)に対する、国会に相当する議会選挙での供託金金額の比率をランキングにしました。(1人あたりGNIは2019年、為替レートは2019年12月の値を使用しました。)
候補者個人に課される場合
日本と同様に供託金が立候補者個人に課される国は、OECD加盟国のうち10ヶ国でした。
1人あたりGNIに対する比率
1位:日本 約130%
2位:韓国 約40%
3位:トルコ 約20%
4位:リトアニア 約6%
5位:チェコ 約5%
1位:日本
衆参両院の比例代表の供託金600万円は、日本人1人あたりのGNIを上回っています。
2位:韓国
日本に次いで供託金が高い韓国では、有効投票数の15%以上の得票で全額返還、10%以上15%未満で半額が返還されるという仕組みです。
3位:トルコ
トルコの供託金は、無所属候補のみに課されます。その額は、最高位の公務員の給料月額と定められています。
4位:リトアニア
ヨーロッパのバルト海東岸に位置するリトアニアでは、小選挙区で国内平均月給の1ヶ月分が課されます。リトアニアでも返還条件は当選です。
5位:チェコ
チェコの上院は小選挙区の2回投票制であり、返還には1回目の投票で有効投票数の6%以上得票する必要があります。
政党ごとに課される場合
日本とは異なり、供託金が政党に課される国もあります。
OECD加盟国の中では5ヶ国です。
多くの国では、比例代表の名簿を提出する際に供託金を課しています。
1人あたりGNIに対する比率
1位:リトアニア 約110%
2位:スロバキア 約100%
3位:オランダ 約20%
1位:リトアニア
リトアニアは大選挙区において、25人以上記載された名簿を提出するとき、各政党が国内平均月給の20ヶ月分の供託金を預けることになっています。
2位:スロバキア
スロバキアの供託金返還の基準は、有効投票数の2%以上です。
3位:オランダ
オランダでは、下院の選挙で、前回獲得議席の無かった政党のみに供託金が課されます。
※ランキング作成にあたり使用した参考文献等は本記事末尾に記載してあります。
日本国内の供託金ランキング
供託金の金額は、日本国内でも選挙によって異なります。
1位:衆議院・参議院 比例代表-600万円
2位:衆議院小選挙区、参議院選挙区、都道府県知事-300万円
3位:政令指定都市の長-240万円
4位:政令指定都市以外の市の長-100万円
5位:都道府県議会議員-60万円
6位:町村長、政令指定都市の議会議員-50万円
7位:政令指定都市以外の議会議員-30万円
8位:町村の議会議員-15万円
有権者数が多く、規模が大きい選挙ほど供託金の金額は高くなる傾向にあります。
また、衆議院選挙で小選挙区・比例代表への「重複立候補」を選択する場合は、合計600万円です。
政令指定都市は内閣によって定められた人口の多い、大阪市・名古屋市・横浜市・新潟市など全国の20の都市です。
供託金の没収と返還基準
供託金は一定の得票数に達しないと、返還されません。
衆議院小選挙区や都道府県知事選挙、市区町村長選挙などでは有効投票数の10分の1以上が供託金返還の基準となっています。
参議院選挙区や都道府県議会議員選挙などでは有効投票数÷定数の8分の1以上得票が条件です。
また、この供託金没収点を超えなければ、選挙費用の公費負担も受けられません。
2024年都知事選挙では、56人が立候補し、53人が供託金を没収されました。
4番目に得票数の多かった、約27万票を得た候補者も供託金没収点に達しませんでした。
供託金の歴史
世界で初めての供託金は、イギリスで導入されました。
日本で供託金が導入されたのは、普通選挙法が施行された1925年。
それまでは、一定額以上の税金を納めた富裕層の男性にしか選挙権がありませんでしたが、普通選挙法の施行により全ての男性が選挙権を得ました。
この際に、被選挙権(立候補する権利)にも変化があり、無産階級といわれる貧しい人々が政治に進出することを防ぐため導入されたといわれています。
戦後も供託金制度は維持され、貨幣価値の上昇に伴い金額は引き上げられてきました。
衆議院小選挙区での供託金の金額が現在の300万円になったのは、1992年(平成4年)です。
最近では、2020年に町村議会議員選挙にも供託金15万円が導入されました。
供託金は違憲?
立候補の際に供託金を課すことは、立候補の自由を侵害し、政治参加に壁をつくっているとして、供託金制度は違憲ではないかという意見があります。
海外の判決
複数の外国で供託金制度は違憲であるという判決が出ています。
2000年以降、フランスでは供託金制度が廃止され、韓国では供託金の金額が減額されました。
また、2017年にはカナダでも廃止されました。
日本での判決
日本の憲法44条では「国会議員の資格は人種、信条、性別、社会的身分、門地(出身地)、教育、財産又は収入によって差別してはならない」と定められています。
供託金制度はこの44条に反しているという訴訟が起こされていますが、これまでに違憲性は認められていません。
世界と比べ高い日本の供託金
諸外国と比べ、日本の供託金は目立って高いことに加え、供託金返還の基準も厳しいといえます。売名目的の候補者の乱立を防ぐためには供託金制度は必要だという意見がある一方、供託金の廃止や減額の訴えもあります。
<『世界の供託金ランキング』作成にあたっての参考文献>
供託金違憲訴訟弁護団 OECD 加盟国の選挙供託金制度について
IPU PARLINE database on national parliaments: Search
報告省令レート(12月分) : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)
帝国書院 | 統計資料 世界 その他 1人あたりのGNI (teikokushoin.co.jp)
エストニア – 最低賃金 | 1999-2021 データ | 2022-2023 予測 (tradingeconomics.com)
リトアニアの平均年収ってどれくらい?主要産業や失業率、最低賃金について|リトアニア情報まとめ (yo-hey.info)
<その他の参考文献>
供託金について | 島根県大田市公式サイト (ohda.lg.jp)
総務省|地方自治制度|指定都市一覧 (soumu.go.jp)
取手市/法定得票数と供託物没収点 (city.toride.ibaraki.jp)
選挙に出馬するには世界最高額の費用がかかる日本。その制度が変わるかも? | 日本最大の選挙・政治情報サイトの選挙ドットコム (go2senkyo.com)
タダでは立候補できない日本 高額の「供託金」なぜ必要?【#あなたの衆院選】(毎日新聞) – Yahoo!ニュース
総務省|町村の選挙における公営拡大と供託金導入について (soumu.go.jp)
供託金、高額な規定 捻出に政党苦慮 「違憲判決」外国で相次ぐ|熊本日日新聞社 (kumanichi.com)
選挙の供託金「世界一高くても合憲」 男性の請求棄却、東京地裁 – 弁護士ドットコム (bengo4.com)
図録▽日本とOECD主要国の選挙供託金 (sakura.ne.jp)
『最新図説政経』浜島書店 2019年
<以上 最終閲覧日は2022年1月>
都知事選の供託金没収、総額1億5900万円 上位3人除く53人が対象で過去最高額に – 産経ニュース
<最終閲覧日は2024年7月>