不逮捕特権とは?なぜ国会議員に認められている?例外や事例も解説

不逮捕特権とは?なぜ国会議員に認められている?例外や事例も解説

国会議員は国会の会期中、捜査機関によって逮捕されない「不逮捕特権」という権利があります。

国会議員にはなぜ不逮捕特権が認められているのでしょうか。また、制度の例外や過去に国会会期中に逮捕された事例はあるのでしょうか。

不逮捕特権がある理由や「逮捕許諾請求」についても解説しています。

本記事での具体的な事件に関する記述の肩書きは、いずれも逮捕当時のものです。

不逮捕特権の意味や事例

不逮捕特権とは、警察や検察といった捜査機関に逮捕されない権利です。

日本では、以下の場合に不逮捕特権が認められています。

  • 憲法に基づく国会議員の不逮捕特権
  • ウィーン条約に基づく外交官の不逮捕特権
  • 日米地位協定に基づく公務中の在日米軍兵の不逮捕特権

本記事では、国会議員の不逮捕特権について扱います。

国会議員の特権のひとつ

国会議員には、次の特権があります。

  • 歳費特権:会社員の給与にあたる「歳費」や手当が支払われる
  • 不逮捕特権:国会会期中は逮捕されない
  • 免責特権:院内でおこなった演説・討論・表決について院外でその責任を問われない

このうち不逮捕特権は、憲法50条に定められている権利です。

第五十条 両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

引用元:日本国憲法

国会議員は、後述する「法律の定める場合」(院外における現行犯・所属議院の許諾がある場合)を除いて、国会の会期中は逮捕されません。会期前に逮捕された議員は、所属議院の要求があれば、会期中に限り釈放されます。

なお、地方議員には不逮捕特権がありません。

不逮捕特権が認められている理由

なぜ国会議員には不逮捕特権があるのでしょうか。その理由は、三権分立の下で国会議員の立法活動(立法権)が、政府(行政権)や捜査機関(司法権)から不当に制限されることを防ぐためです。

大日本帝国憲法下では、政府の方針に反対する国会議員を不当に逮捕することがありました。そのようなことが二度と起こらないよう、日本国憲法では国会議員の不逮捕特権が定められています。

院外の現行犯逮捕など例外も

不逮捕特権の例外は「法律の定める場合」です。

国会法 33条は、以下のように定めています。

第三十三条 各議院の議員は、院外における現行犯罪の場合を除いては、会期中その院の許諾がなければ逮捕されない。

引用元:国会法

現職の国会議員であっても、院外において現行犯逮捕の要件を満たしている場合、または捜査機関による「逮捕許諾請求」が所属議院(衆議院または参議院)によって認められた場合は逮捕されます。

国会閉会中に現職議員が逮捕された事例

国会議員に対して何らかの犯罪に関する嫌疑がかかり逮捕の必要がある場合、捜査機関は上記の「例外」によって逮捕するか、国会閉会中に逮捕します。

現職議員が閉会中に逮捕された例は、次のような事件です。

河井夫妻選挙違反事件

2019年の参議院選挙広島県選挙区を巡り、広島県議らを買収した公職選挙法違反の疑いで、河井克行衆議院議員と妻の河井案里参議院議員が逮捕されました。

現職議員が夫婦そろって逮捕されたのは異例の出来事です。東京地検特捜部による逮捕は2020年6月18日で、通常国会が閉会した翌日でした。

IR汚職事件

カジノを含む統合型リゾート(IR)参入を巡る収賄容疑で、東京地検特捜部は2019年12月25日に秋元司元衆議院議員を逮捕しました。この逮捕は臨時国会閉会後から、翌年1月に通常国会が開会するまでの間の時期を狙ったと見られています。

「逮捕許諾請求」とは

不逮捕特権の例外で述べたように、国会中に議員を現行犯以外で逮捕するためには所属する議院の許諾が必要です。これを「逮捕許諾請求」と言います。

逮捕許諾請求の流れ

通常逮捕では、捜査機関が裁判所に逮捕状を請求し、逮捕相当と認められると逮捕状が発行されます。

一方で国会議員の逮捕許諾請求を得る場合は、次のような手順が必要です。

  1. 検察が裁判所に逮捕状を請求
  2. 裁判所が逮捕相当と認めれば、内閣に許諾を要求する
  3. 内閣が衆議院または参議院の議長に許諾を請求する
  4. 議院運営委員会が審査(秘密会形式)
  5. 本会議の議決
  6. 裁判所が逮捕状を発行

国会会期中に逮捕された事例

過去には、逮捕許諾請求を経て国会会期中に現職議員が逮捕されたこともあります。

北海道開発局発注の工事を巡る受託収賄容疑(林野庁汚職事件)などで鈴木宗男衆議院議員が2002年に逮捕された際は、国会会期中の逮捕でした。

他に、1997年のオレンジ共済組合事件における友部達夫参議院議員の逮捕(詐欺容疑)や、1994年のゼネコン汚職事件における中村喜四郎衆議院議員の逮捕(あっせん収賄容疑)などがあります。

参院選でガーシーが当選、不逮捕特権が話題に?

2022年の参院選で、「暴露系YouTuber」として知られるガーシーこと東谷義和氏がNHK党から出馬、初当選しました。

7月現在、東谷氏は現在ドバイに住んでいますが、詐欺容疑や名誉毀損容疑などで逮捕される可能性があるとして、帰国を拒んでいます。NHK党の立花孝志党首は、東谷氏は8月に開かれる予定の臨時国会には登院しないと発表しました。

国会法は「議員は、召集詔書に指定された期日に、各議院に集会しなければならない」と定めています。正当な理由なく7日以内に召集に応じない場合は懲罰委員会に掛けられ、最も重い懲罰は「除名」です。

今後開かれる臨時国会や通常国会に東谷氏が登院するのか、帰国した場合の展開が注目されています。

まとめ

  • 国会議員の不逮捕特権とは、国会会期中、捜査機関によって逮捕されない権利をいう。
  • 不逮捕特権が認められている理由は、三権分立の下で国会議員の立法活動(立法権)が、政府(行政権)や捜査機関(司法権)から不当に制限されることを防ぐため。
  • 例外的に、現行犯や「逮捕許諾請求」が所属議院によって認められた場合は逮捕される。
  • 過去には国会会期中に現職議員が逮捕された事例もある。

 

<参考>
『政治・経済用語集 第2版』山川出版社、2019
『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
外交官は無敵なのか 訴追免除…不正後絶たず(1/3ページ) – 産経ニュース
リーガラス
日米地位協定Q&A 問9:米軍人が日本で犯罪を犯してもアメリカが日本にその米軍人の身柄を渡さないというのは不公平ではないですか。
特権を問う:米軍側の「不起訴要求」に複数の証言 日米地位協定が司法にもたらす闇 | 毎日新聞
国会議員の歳費|ワードBOX|【西日本新聞me】
日本国憲法 | e-Gov法令検索
国会法 | e-Gov法令検索
三権分立とは?国会、内閣、裁判所それぞれの役割について解説します!
河井夫妻選挙違反事件
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