2022年の参議院選挙で大勝した自民党は参院選の公約に憲法改正を掲げており、今後議論が行われる見込みです。
改憲が話題になっていますが、そもそも日本国憲法とはどのようなもので、何が書かれているのでしょうか。また、「最高法規」と呼ばれる憲法は他の法律とどのように異なるのでしょうか。
憲法の構成や、国民主権・平和主義・基本的人権の「三原則」についても解説します。
日本国憲法とは
日本国憲法とは、現在の日本における国の根本を定めた法です。戦前の大日本帝国憲法に対して、「現行憲法」と呼ばれることもあります。
公布日・施行日や構成
日本国憲法はそれまでの大日本帝国憲法に代わって、1946年11月3日に公布、1947年5月3日に施行されました。この2つの日付を記念し、11月3日は文化の日、5月3日は憲法記念日として国民の祝日になっています。
全文は前文と11章103条で、構成は以下の通りです。
- 前文
- 第1章:天皇
- 第2章:戦争の放棄
- 第3章:国民の権利及び義務
- 第4章:国会
- 第5章:内閣
- 第6章:司法
- 第7章:財政
- 第8章:地方自治
- 第9章:改正
- 第10章:最高法規
- 第11章:補則
大日本帝国憲法(明治憲法)との違い
日本国憲法の制定以前、日本の憲法であった大日本帝国憲法は1889年2月11日に公布、1890年11月29日に施行されました。
大日本帝国憲法は君主によって制定された「欽定憲法」で、天皇が主権者です。天皇は、立法・司法・行政すべてを行使する統治権や軍隊を指揮命令する統帥権を持っていました。
一方で日本国憲法(以下「憲法」)は、国民が直接、または国民から選挙された代表者が制定する「民定憲法」で、主権者は国民です。他にも、国会や内閣、裁判所の仕組みなどさまざまな点が異なります。
憲法の三原則(基本原理)
憲法が基本的な考え方として掲げている三原則(三大原理、基本原理)とは、以下の3つです。
- 国民主権
- 平和主義
- 基本的人権の尊重
それぞれの具体的な意味を解説します。
国民主権
憲法の前文には「ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」と記されています。つまり、国の政治のあり方を決定する権力を持つ「主権者」は国民です。
大日本帝国憲法下では主権は天皇にありました。日本国憲法の第1条では「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」とされています。
これを象徴天皇制といい、憲法において天皇は実質的な政治権力を持たない「象徴」です。
平和主義
憲法は前文で「恒久平和主義」を、第9条で戦争の放棄・戦力の不保持・交戦権の否認を明記し、平和主義を掲げています。この徹底した平和主義は他国に類を見ない大きな特色であることから、憲法を「平和憲法」と呼ぶこともあります。
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
引用元:日本国憲法
米軍の日本駐留や自衛隊の存在が「戦力」に当たらないかどうかなど、9条の解釈には議論があるのが実情です。
基本的人権の尊重
第3章では基本的人権を「永久不可侵の権利」として定めています。
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
引用元:日本国憲法
基本的人権には具体的に、平等権・自由権・社会権・請求権・参政権などがあります。
全ての国民が基本的人権を持ちますが、それぞれが制限なく自由に振る舞うと、互いの権利が衝突しトラブルが起きてしまうかもしれません。そのため、権利が尊重されるのは「公共の福祉に反しない限り」などの制約があります。
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
引用元:日本国憲法
平等権とは、「法の下の平等(14条)」や「両性の本質的平等(24条)」で、全ての人が人種や信条、性別、社会的身分などによって差別されないことを保障しています。
自由権には精神の自由・人身の自由・経済の自由などがあり、自分の考えや身体、経済活動などを国家から干渉されない権利です。
社会権とは、全ての人が人間に値する生活を保障される権利で、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(25条)」や、「教育を受ける権利(26条)」などです。
他に、請求権(裁判を受ける権利や請願権など)、参政権(選挙権・被選挙権など)があります。
基本的人権とは何かわかりやすく解説!歴史や4つの基本的人権も紹介 | スマート選挙ブログ
その他(統治機構など)
憲法では上記の三原則の他に、国家を統治する仕組み(統治機構)についても定めています。憲法における統治機構とは、国会・内閣・司法(裁判所など)・財政・地方自治です。
憲法と法律は何が違う?改憲できる?
憲法は、その他の法律とは異なる性質を持ちます。他の法律とはどのような関係にあるのでしょうか。
最高法規性とは
98条では、憲法は「国の最高法規」であり、憲法に反する法律や命令などには効力がないと明記しています。これが、憲法の最高法規性です。
つまり、憲法に反する法令を制定することはできません。
最高裁判所は違憲立法審査権を持ち、法令などが憲法に反すると考えられる場合は違憲訴訟によって、違憲か合憲かを判断します。
これまでにも、刑法の尊属殺人重罰規定や国籍法について違憲判決が出されました。それによって、重罰規定の削除や国籍法の改正が実施されました。選挙区による投票価値の格差が憲法違反だと訴える「一票の格差訴訟」では、違憲判決のほか、「違憲状態」の判決が出されたこともあります。
一票の格差については、こちらの記事を参照してください。
【関連記事】一票の格差って?何が問題なのか理解しよう
憲法改正の議論
憲法の改正手続きは、他の法律の改正に比べて強い制限が設けられています。
96条によって、衆議院・参議院両院で3分の2以上の賛成によって発議し、さらに国民投票で有効投票の過半数の賛成がなければ改正できません。改正の要件が厳しい(=硬い)ことから「硬性憲法」と呼びます。
2022年8月時点で、憲法改正が実施されたことは一度もありません。政権与党である自民党は改憲を公約に掲げ、自衛隊の明記・緊急事態条項の導入・憲法改正手続きの見直しなどの改正を目指して議論を進めようとしています。
憲法改正・国民投票法について、詳しくはこちらの記事もおすすめです。
【関連記事】憲法改正とは?手続きや論点をわかりやすく解説
【関連記事】国民投票法とは?改正案の内容や問題点、市民への影響をわかりやすく解説!
まとめ
- 日本国憲法(現行憲法)は、それまでの大日本帝国憲法(明治憲法)に代わって、1946年11月3日に公布、1947年5月3日に施行された。
- 憲法の三原則とは「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」。他に統治機構などについても定めている。
- 憲法には最高法規性があり、憲法に反する法律や命令などには効力がない。
- 憲法改正には、衆議院・参議院両院で3分の2以上の賛成と国民投票で有効投票の過半数の賛成が必要。他の法律の改正に比べて強い制限が設けられている。
<参考>
『政治・経済用語集 第2版』山川出版社、2019
『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
日本国憲法の3つの原則 | NHK for School
憲法って、何だろう?
国民の祝日について – 内閣府
【中学公民】「憲法は国の最高法規」 | 映像授業のTry IT (トライイット)
憲法の最高法規性と硬性性|参議院
「違憲」と「違憲状態」|ワードBOX|西日本新聞me
違憲審査権とは?2つの分類や違憲審査権に関する判例を紹介します。
4つの「変えたい」こと自民党の提案
法務省:国籍法が改正されました
尊属殺人とは|コトバンク
最終閲覧日は2023年6月