新型コロナウイルスの感染拡大による経済や雇用の悪化を背景に、ベーシックインカム(最低所得保障)という制度が注目されています。
ベーシックインカムは、国が個人へ現金などを定期的に給付する制度ですが、どのような特徴があるのでしょうか。
今回はベーシックインカムのメリット・デメリットについて解説します。
また、日本で導入が可能なのかという観点や、海外での事例も紹介しているのでぜひ参考にしてくあるのかを解説します。
ベーシックインカムとは
ベーシックインカム(Basic Income)とは、政府が個人に対し、無条件で一定額を給付することで最低所得額を保障する制度です。社会保障政策の1つで、基本所得などと訳されることもあります。
ベーシックインカムの特徴
ベーシックインカムには、以下の特徴があります。
- 定期的な給付:1回限りではなく、月単位など定期的に給付される
- 無条件:資産や労働条件の制限がなく、誰にでも給付される。申請も不要。
- 個人へ給付:世帯ごとではなく、個人単位
2022年現在の日本では、ベーシックインカムは導入されていません。
生活保護制度との違い
現在の日本には、定期的に現金を給付する制度として生活保護制度があります。
しかし、生活保護とベーシックインカムは異なるものです。主な違いは、以下の点があります。
- 条件を満たした場合のみ対象:資産や労働状況、扶養を受けられるかなどを調査した上で保護を受けられるかどうかが決まる
- 申請が必要:生活保護を受けようとする場合は、役所で申請しなければならない
- 世帯へ給付:個人ではなく、世帯を単位として認定される
ベーシックインカムのメリット・デメリット
ベーシックインカムにはどのような利点や欠点があるのでしょうか。一般的に指摘されているものを紹介します。
メリット:景気活性化や自由な働き方が可能になる
ベーシックインカムによって国民全体の所得が増加することで、商品やサービスの購入など消費に回るお金が増えると考えられます。経済活動が活性化し景気が良くなることがメリットの1つです。
また、労働とは切り離された収入があることによって、個人の働き方や職業選択がより自由になるかもしれません。
一律にお金を配ることで、困窮している人を取りこぼすことがなくなります。申請を1件ずつ審査する手間もないため、行政コストも削減できます。
デメリット:労働意欲が減少?財政破綻の懸念も
デメリットは、国の歳出が増えるため財政破綻のおそれがあることです。
また、働いても働かなくても一律にお金をもらえると、労働意欲がなくなるなど働き手が不足し、社会が成立しなくなる可能性もあります。
景気が良くなるのはメリットですが、消費活動が過剰になるとインフレ(物価高)になる懸念があります。
海外のベーシックインカム導入事例
ヨーロッパを中心に、ベーシックインカムの導入をめぐる議論や実証実験が世界的に本格化しています。
フィンランドなどで実証実験
フィンランドでは2017〜2018年、社会保険庁が失業者2000人に対し、月560ユーロを2年間給付しました。その結果「失業者の精神的には良い傾向があったものの、雇用への影響は限定的だった」というデータがまとめられました。
他にはドイツの研究機関が、毎月1200ユーロを3年間、120人に給付し生活の変化を追跡する実証実験を実施しています。ナミビアやオランダなど世界各地でも実験が行われています。
コロナ禍で議論が再熱
ベーシックインカムをめぐる議論が注目されている背景には、2020年以降の世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響があります。コロナ禍によって経済活動が停滞したり、失業者が増えたりしているためです。
例えばスペインでは2020年5月、ベーシックインカムの導入を決定しました。しかし対象者は低収入の生活困窮者などに限定されています。そのため、給付対象に条件を設けない本来のベーシックインカムとは異なるものだとも指摘されています。
2022年3月に実施された韓国大統領選では、与党候補だった李在明(イ・ジェミョン)氏が国民1人当たりに年間100万ウォンを支給するベーシックインカムを公約に掲げていました。李氏は僅差で敗れ、実現はされていません。
日本では導入される?
日本では2020年ごろから、慶應義塾大学の竹中平蔵名誉教授がベーシックインカムの導入を提言したことが1つのきっかけとなり、話題になりました。竹中氏は小泉純一郎政権で総務大臣や経済財政政策担当大臣を務めた人物です。
コロナ禍では特別定額給付金
2020年、コロナ禍による経済負担を背景に、政府は特別定額給付金として国民1人当たり10万円を配布しました。
特徴的だったのは、所得などに関係なく、基準日時点で住民基本台帳に記載されている人全員が対象となったことです。定期的な給付でない点を除くと、特別定額給付金はベーシックインカムの制度だったと言えます。
現状は?参院選では公約に掲げる政党も
現在、国民年金の満額などを参考に、1人当たり月7万円程度を給付するベーシックインカムが提唱されています。その場合、国民1億2000万人に給付すると100兆円規模の予算が必要になる計算です。
2022年度の国家予算(一般会計)は約107兆円であることを考慮しても、財源の確保が現実的ではないと指摘されています。
一方で、所得がある人には減税し、ない人には給付するという給付付き税額控除の仕組みを利用することで、実質的なベーシックインカムを実現する方法も挙げられています。
2022年7月の参院選では、日本維新の会や国民民主党が給付付き税額控除と組み合わせたベーシックインカムを公約に掲げました。
予算の仕組みや決め方については、こちらの記事もおすすめです。
国会で予算が成立する仕組みは?決め方や暫定予算・補正予算も解説 | スマート選挙ブログ
まとめ
- ベーシックインカムとは、政府が国民に対して無条件で一定額を定期給付し、最低所得を保障する制度
- 景気を活性化し、困窮している人を取りこぼさないなどのメリットがある
- 一方でデメリットは国の財政破綻や労働者の意欲低下の恐れがある点
- 新型コロナウイルスの感染拡大による失業者増加などを受け、ベーシックインカム導入の議論や実証実験が世界的に進んでいる
- 2022年7月の参院選では、制度の導入を公約に掲げる政党があった
<参考>
ベーシックインカムとは?メリット・デメリット、実現の可能性を解説
生活保護制度 |厚生労働省
毎月7万円の一律支給は現実的? 「ベーシックインカム」入門 | EL BORDE(エル・ボルデ) by Nomura – ビジネスもプライベートも妥協しないミライを築くためのWEBマガジン
ベーシックインカム 欧州も導入に高い壁: 日本経済新聞
竹中平蔵氏が提言の最低所得保障、スペインで導入難航: 日本経済新聞
韓国新政権に課題山積 不動産高騰、外交再建も急務: 日本経済新聞
1からわかる!ベーシックインカム(1)そもそも、どんな制度なの?|NHK就活応援ニュースゼミ
1からわかる!ベーシックインカム(3)日本で実現できるの?|NHK就活応援ニュースゼミ
プロフィール – 竹中 平蔵 公式ウェブサイト
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