2022年6月の国会において「こども家庭庁設置法」と「こども基本法」が成立しました。2023年4月にこども家庭庁が発足する予定です。
こども家庭庁は、これまで複数の省庁に分かれていた子どもに関する政策を担います。具体的にはどのような組織なのでしょうか。
今回は、こども家庭庁の発足に至る経緯や、懸念されていることなどをわかりやすくまとめました。ぜひ参考にしてください。
こども家庭庁とは
こども家庭庁は、設置法に基づいて創設される内閣府の外局です。子どもに関するさまざまな政策を担当し、2023年4月の発足を目指して現在準備が進められています。
内閣府の特命担当大臣である「こども政策担当大臣」がトップを務めます。2022年11月現在の第2次岸田文雄内閣のこども政策担当大臣は、小倉将信氏です。
大臣の管轄下にこども家庭庁が設置され、こども家庭庁長官が置かれます。
そもそも「こども」とは?
こども基本法では、「こども」の定義を次のように定めています。
第2条 この法律において「こども」とは、心身の発達の過程にある者をいう。
(引用元:こども基本法)
こども基本法やこども家庭庁設置法では、こどもの定義に明確な年齢制限を定めていません。
これまで、各種法律において子どもや児童の定義はそれぞれ異なっていました。例えば、児童福祉法では「児童」を「18歳未満の者」としていますが、母子並びに父子並びに寡婦福祉法における「児童」は「20歳未満の者」となっています。
創設の目的は?
こども家庭庁の目的は、出産や育児、子どもの成長に関する支援を一元化し、充実させることです。
子どもに関する政策を国・社会の中心に据えるという意味の「こどもまんなか社会」というキーワードが掲げられています。
2020年度の内閣府の調査では、現在の日本が「子どもをうみ育てやすい国だと思うか」という質問に、6割以上の人が「全くそう思わない」「どちらかといえばそう思わない」と回答しました。
2021年の日本の合計特殊出生率(1人の女性が一生のうちに子どもを産む人数)は6年連続で低下し、1.30となりました。子どもの成長過程においても、児童虐待やヤングケアラー、いじめや不登校、貧困などさまざまな社会問題があります。
これまで子どもに関する政策は、厚生労働省・文部科学省・内閣府など、複数の機関に分かれていました。こども家庭庁の設置によって縦割り行政を解消し、妊娠から出産、育児、成長と続く中で、支援を断絶させず、より的確で手厚い対応を目指します。
こども家庭庁は何をする?
こども家庭庁は、次の3つの部門に分かれています。
- 企画立案・総合調整部門:全体を取りまとめ、データなどを整備
- 成育部門:子どもの安全・安心な成長のための政策を立案
- 支援部門:困難を抱える子どもや家庭を支援
具体的には、それぞれどのような政策を担うのでしょうか。
企画立案・総合調整部門
企画立案・総合調整部門では、データや統計を用いた政策立案や情報発信、広報を行う部門です。子どもや若者から意見を聴く場を設けることも検討されています。
デジタル庁などとも連携し、支援の内容などの情報を集約したデータベースを整備します。
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「デジタル庁」発足の目的は?いつからあるの?今の大臣は誰? | スマート選挙ブログ
成育部門
成育部門は、妊娠・出産に関する支援から、就学前を含むすべての子どもの成長に携わります。例えば幼稚園・保育園・認定こども園の教育・保育内容の基準策定や、児童手当の支給などです。
小学校入学前の子どもの教育・保育施設に関しては、担当する組織が次のように一部変更されます。
- 保育園(認可保育園):厚生労働省→こども家庭庁
- こども園、小規模保育施設など:内閣府→こども家庭庁
- 幼稚園:文部科学省→変更なし。ただし、こども家庭庁と連携
他に、児童館やこども食堂などの居場所作り、子どもの性的被害や事故の防止も管轄です。
支援部門
困難を抱える子どもや家庭の支援にあたるのが支援部門です。児童虐待やいじめの防止策をより強化し、ひとり親家庭や障害児などの支援も担います。
近年では、さまざまな理由で大人の代わりに家族の世話や介護をする子ども「ヤングケアラー」も社会問題になっており、対応が求められます。
当初は「こども庁」?名前変更の理由とは
子どもに関する政策を一元化した組織を創設するべきだという議論は、前首相の菅義偉政権時からありました。当初は「こども庁」の名称で計画が進められます。しかし設置法成立の過程で変化し、現在の名称になりました。
この背景には、「家庭のように温かく育つ環境作りが重要」「子どもは家庭を基盤として成長する存在だ」といった趣旨の声が、自民党保守派から出たことがあります。
こども家庭庁の問題点や懸念
創設を控えたこども家庭庁ですが、課題や批判もあります。
幼保一元化には至らず
こども家庭庁は、保育園と幼稚園の管轄が異なることなど縦割り行政の解消を1つの目的として計画されました。
しかし結果的に幼稚園は文部科学省の管轄にとどまることとなり、保育園・こども園との一元化は果たせていません。
設置法には5年をめどに組織や体制を見直すという規定があります。今後も幼保一元化を目指していくべきだとの声が上がっています。
知名度の低さ
対象となる子どもたちや、子育て世代の多くがこども家庭庁の存在を知らず、知名度が低いことが問題視されています。
18歳以下の子どもを対象としたNGO団体の調査では、約7割がこども家庭庁ができることを「知らなかった」との結果が出ました。
こども「家庭」庁への批判
当初は「こども庁」の予定だった名称が「こども家庭庁」に変更されました。この名称は子育てにおける「家庭」の役割を強調しており、適切ではないとの指摘があります。
「母親や家庭に責任を負わせずに、社会全体で子育てを担うべき」という考えとは逆行していること、対象となるのは必ずしも家庭がある子どもだけではないことなどから、「こども庁」の名称を求める議員や専門家も多くいます。
まとめ
- こども家庭庁は2023年4月に創設される内閣府の外局。現在の縦割り行政を解消し、子どもに関する政策を一元化して充実させることが目的
- 「企画立案・総合調整部門」「成育部門」「支援部門」に分かれている
- 保育園・こども園は、こども家庭庁の管轄に移行する。一方、幼稚園は引き続き文部科学省が担当する
- 幼保一元化が果たせなかったことや知名度の低さ、法案の成立過程で名称が「こども庁」から「こども家庭庁」に変更されたことなど、課題や批判もある
<参考>
こども政策担当 小倉 將信 (おぐら まさのぶ) | 第2次岸田改造内閣 閣僚等名簿
こども家庭庁、子育てに希望を持てるか 設置法成立
こども政策の推進(こども家庭庁の設置等)|内閣官房ホームページ
子供シフトできぬ日本 こども家庭庁、縦割り・財源不安
21年の出生率1.30 少子化対策見劣り、最低に迫る
各種法令による児童等の年齢区分
母子及び父子並びに寡婦福祉法 | e-Gov法令検索
児童福祉法 | e-Gov法令検索
こども家庭庁って何?子どもの権利は?財源は? | NHK政治マガジン
【2022年最新版】こども家庭庁について知っておくべき3つのポイント | 株式会社いちたす
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こども家庭庁、子育てに希望を持てるか 設置法成立
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7割の子どもが名前さえ知らない「こども家庭庁」 うまく機能するのか? スタートまで半年弱:東京新聞 TOKYO Web
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