統治行為論をわかりやすく解説|裁判所が違憲判断を避けるケースとその理由

統治行為論をわかりやすく解説|裁判所が違憲判断を避けるケースとその理由

日本は司法国家ですが、裁判所が例外的に憲法判断を避けるケースがあります。

その際に「統治行為論」が持ち出されることがありますが、どのような理由でしょうか。

本記事では統治行為論について実際の事件と判例を交えながらわかりやすく解説しています。

統治行為論とは

統治行為論は「裁判所で憲法判断が可能であるにもかかわらず、高度の政治性を理由に、裁判所が憲法判断をしない」という理論のことを言います。「統治行為」とは、極めて政治色の濃い国家行為という意味です。

裁判所は訴訟が起きている問題について、様々な理由で憲法判断が可能でもそれを行わないことがあります。

中でも、訴訟の内容が政治的な判断を伴う場合には「統治行為論」を元に違憲判断を避けることがあります。

裁判官は、最高裁判事を除いて国民によって選ばれていません。民主的に選ばれていない裁判官が政治色の濃い問題の判断をするのではなく、国民が選んだ議員で構成される国会の場で判断されるべきだという理屈です。

日本で統治行為論が引用された判例としては、衆議院の解散の効力の是非が問われた「苫米地事件」や安全保障問題に焦点が当てられた「砂川事件」が挙げられます。

この事件については本記事で後に解説しています。

統治行為論に関連する事件と判例

戦前は現在の最高裁にあたる大審院に違憲立法審査権がなかったので、統治行為論が取り上げられることはありませんでした。

昭和21(1946)年に制定された新憲法の81条、98条で初めて裁判所が違憲立法審査権を持ったことで、統治行為論が議論されるようになりました。

苫米地事件と砂川事件は、統治行為論が引用された判例として有名な事件です。

苫米地事件

苫米地事件は日本ではじめて統治行為論が司法の場で議論された事件です。

昭和27(1952)年、吉田内閣は憲法7条に基づいて衆議院の解散を強行しました。

この解散によって議員の資格を失った苫米地義三氏は、この解散の無効を前提として、国を被告として、衆議院議員としての資格確認と任期満了までの歳費請求の訴えを起こします。

これを受けて昭和35(1960)年、最高裁判所は「衆議院の解散は、国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為であるため、裁判所の審査権の外にある(裁判所による司法審査は及ばない)」とし違法性の判断を回避、上告を棄却しました。

この判決をきっかけに、苫米地事件の憲法判断は回避された状態になっています。

砂川事件と憲法9条

砂川事件は裁判で初めて日米安全保障条約の憲法適合性が争点になった重大な事件です。

全学連も参加し、その後の安保闘争、全共闘運動のさきがけとなった学生運動の原点となった事件でもあります。

昭和30~32(1955~1957)年、東京都下砂川町で米軍立川基地拡張に反対するデモ隊による闘争が起きました。政府は警官隊を動員して測量を強行しましたが、住民・労働者・学生も大量動員で対抗、流血事件も発生しています。

東京地裁の第一審判決で、裁判所は米軍駐留は憲法第9条違反であるとしてデモ隊の無罪判決を下しました(伊達判決)。

しかし、上告審判決で最高裁判所は「安保条約の様な高度の政治性を有する事項は、純司法的機能を使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまず、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外にある。」として、第一審の判決を覆し、安保自衛隊問題に対しても統治行為論を展開しました。

現在でも国会で憲法9条について議論される時に砂川判決が引用されることがあります。

憲法の「戦力を保持しない」という趣旨は、「日本がその管理権や支配権を持つべきものについてであり、その他のものについていうわけではない。砂川事件の判決は、米軍が日本に駐留することやそれについての条約を締結することは日本の憲法9条外の問題であるという判決だった」と解釈されています。

最終的に訴訟は最高裁判所から東京地裁に差し戻され、1963年に差戻審においてデモ隊の有罪判決が確定しました。

統治行為論の問題点

統治行為論は憲法問題が関わるため、学説も多様で長年議論されている分野です。

現在日本では統治行為論を肯定する見解が多く見られますが、一方で批判的な見解もあります。

否定派から統治行為論の問題点とされるのは主に以下のポイントです。

  • 「高度な政治性を帯びた国家行為」では定義が曖昧である
  • 論説ではなく法定化し民主的に基準を明確にすべきである
  • 一律に司法判断回避ではなく個別具体的な検討が必要である

まとめ

  • 統治行為論は、高度の政治性を理由に裁判所が憲法判断を回避するという理論のこと
  • 統治行為論が展開された日本の代表的判例は「苫米地事件」と「砂川事件」
  • 統治行為論については肯定派が多数だが否定派も存在し、その問題点が長年議論されている

 

<参考>
Weblio辞書 | 統治行為論
行政書士専門の通信講座 行書塾
京都産業大学 | 苫米地事件
京都産業大学 | 砂川事件
衆議院 | 憲法第 9 条(戦争放棄・戦力不保持・交戦権否 認)について~自衛隊の海外派遣をめぐる憲法的諸問題」 に関する基礎的資料
九州大学学術情報リポジトリ 統治行為論不要説

最終閲覧日は記事更新日と同日

タイトルとURLをコピーしました