集団安全保障の概念は、第一次世界大戦の反省の元に構築されました。
国際的な安全保障の枠組みが発展してきた経緯やその問題点などについて、わかりやすく解説します。
集団安全保障とは
集団安全保障とは、簡単に説明すると以下のような考え方です。
複数の国々が互いに武力行使を慎むことを約束し、約束が破られた場合には、残りの全ての国が結集することで侵略行為などを辞めさせようとする。
国際連盟から国際連合へと形を変えながら発展してきた集団安全保障の枠組みについて、順に確認していきましょう。
国際連盟
世界初の集団安全保障組織は、1920年に発足した国際連盟でした。
現在は、国際法上、国家による武力の行使は原則として禁止されています。(国連憲章2条4項)
しかし、19世紀のヨーロッパでは、国家による戦争は国際法によって禁止されていませんでした。
そのため各国は同盟関係を築き、他国から攻撃された際には同盟国からの助勢を期待することで、自国の安全を担保しようとしました。
しかし、こうした同盟政策には「勢力拡張競争が起こりやすく、一旦戦争が始まると同盟関係を通じて多くの国家が巻き込まれて戦争が大規模化するという欠点」(国際法上の集団的自衛権/森肇志)がありました。
結果的に、三国同盟と三国協商(*)の衝突による第一次世界大戦が生じます。
(*)三国同盟はドイツ・オーストリア・イタリア、三国協商はフランス・ロシア・イギリスによる同盟国の枠組み
悲惨な世界大戦を生じさせてしまった反省から、同盟関係よりも大きな枠組みを構築することで、和平を維持しようという考えが生まれました。こうして、国際連盟による集団安全保障体制が誕生したのです。
国際連合
残念なことに国際連盟は、第二次世界大戦を防げませんでした。
更なる反省の元、第二次世界大戦終結後に正式に創設されたのが国際連合です。国際連盟との違いは様々ありますが、主に以下のとおりです。
- 攻撃等が発生したことの認定およびとるべき措置の決定が、国連安全保障理事会(安保理)(**)によって集権的になされるようになった(国際法上の集団的自衛権/森肇志)
- 国際連盟は全会一致、国際連合は原則多数決(ただし、5つの常任理事国は拒否権を持ち、一国でも反対すれば可決されない。また、可決に必要な賛成数は、理事国総数15に対し9)
- 国際連盟:アメリカ、ロシア、ドイツ、日本など有力国の不参加及び脱退が目立つ/国際連合:世界の大多数の国が参加(全196カ国中、193か国。日本が承認している国のうち、バチカン、コソボ、クック及びニウエは国連未加盟。他方、日本が承認していない北朝鮮は国連に加盟)
- 国際連盟:経済制裁のみ/国際連合:経済制裁に加え武力行使も可能(**)国連安全保障理事会(安保理):国連の中で国際平和の維持を担う。理事会は15カ国。うち、常任理事国が5カ国、残る10カ国が非常任理事国。常任理事国は中国・フランス・ロシア・イギリス・アメリカ。非常任理事国は、2年の任期で選出される。各理事国は1票の投票権を持つ。具体的な活動としては、国連平和維持活動(PKO)の推進や多国籍軍の承認、制裁措置の決定など。
集団安全保障における問題点
少しづつ形を変えながら発展してきた集団安全保障体制ですが、欠点や限界も露呈しています。
例えば、2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻が挙げられます。
全世界的に、明らかにロシアの侵略行為であるとする声が圧倒的に多いにも関わらず、安保理ではロシアの即時撤退を求める決議案が否決されました。常任理事国であるロシアが拒否権を行使したためです。
その後、国連総会の緊急特別会合で、ロシア軍の即時撤退などを求める決議案が賛成多数で採択されましたが、この会合で決まった内容に法的拘束力はありません。
また、ロシアは本侵攻を、後述の「集団的自衛権」の行使であるとして正当化しています。
本ウクライナ侵攻のほか、アメリカによるベトナム戦争やソ連によるアフガニスタン侵攻なども、常任理事国による「集団的自衛権の濫用」と「拒否権の行使」という点で、同じ構図です。
常任理事国が、「集団的自衛権」の行使を名目に明らかな侵略行為や武力行為を行ったとしても、安保理で拒否権を行使すれば、違法と判断されることなく、実質野放しになってしまいます。
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集団安全保障と集団的自衛権
「集団的自衛権」についても確認しておきましょう。
集団安全保障の枠組みの中で行使できるのが集団的自衛権、前者が制度の名称で後者が権利の名称、と理解しがちですが、厳密には少し異なります。
国連憲章51条に規定される集団的自衛権は、国連の集団安全保障体制を前提として、それが機能するまでの間、あくまで集団安全保障体制を補完するために行使を認められたものです。
安保理が特定の行為を侵略行為であると認定し、集団安全保障体制が発動するまでの間、やむを得ないものとして限定的に認められた権利です。
前述の「集団的自衛権の濫用」は、この前提を無視し、拡大解釈しているとして、批判されています。
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集団安全保障条約機構(CSTO)
以上見てきた国際的な集団安全保障体制とは別に、「集団安全保障条約機構(CSTO)」と呼ばれる同盟も存在します。ロシアが主導する旧ソ連圏の軍事同盟です。
現在の加盟国は、アルメニア・ベラルーシ・カザフスタン・キルギス・ロシア・タジキスタンの6カ国。
CSTOは、米ソ冷戦終結後、1992年に組織されました。東側諸国による軍事同盟であったワルシャワ条約機構が解体したことを受け、周辺地域への影響力を保ちたいロシアが、旧ソ連諸国と集団安全保障条約を締結した形です。
加盟国が攻撃を受けた際に集団的自衛権を行使するほか、平和維持部隊も保有します。
まとめ
- 集団安全保障の概念は、第一次世界大戦の反省の元に構築され、国際連盟から国際連合へと形を変えながら発展してきた
- 現在は国際連合の元、複数の国々が互いに武力行使を慎むことを約束し、約束が破られた場合には、軍事的手段も含む措置が取られる
- 集団的自衛権は、集団安全保障が機能するまでの間の時間的制約を考慮し、集団安全保障を「補完するもの」として認められた権利
- 集団的自衛権の濫用や、安全保障理事会における拒否権の存在など、集団安全保障の限界も露呈している
- ロシアが主導する旧ソ連圏の軍事同盟である安全保障条約機構(CSTO)も存在する
<参考>
国際法学会|国際法上の集団的自衛権
国際法学会|ロシアのウクライナ侵攻と武力不行使原則
日本平和学会|100の論点:32. 国連憲章において、集団的自衛権はどのように位置づけられるのでしょうか
日本平和学会|100の論点:33. 集団的自衛権はこれまでどのように行使されてきたのでしょうか
Try IT|【高校世界史B】「世界初の集団安全保障!」
国連広報センター|国際連合:その憲章と機構
外務省|世界と日本のデータを見る(世界の国の数、国連加盟国数、日本の大使館数など)
四谷学院|国際連盟はなぜ失敗した?国際連合との違いを徹底比較
ニッセイ基礎研究所|拒否権のパワー-国連安保理で常任理事国と非常任理事国の投票力格差は?
ベネッセ| 国際連盟・国際連合(国連)の違い
朝日新聞|安保理の可決には、なぜ9カ国が必要か
日経ビジネス|ロシアの暴走止められない? 国連・安保理について知りたい10のこと
NHK|国連総会の緊急特別会合 ロシアを非難する決議 賛成多数で採択
日本共産党|「集団的自衛権」を口実にした侵略とは?
朝日新聞|決議欠く攻撃は「国際法違反」 研究者ら声明提出
日本経済新聞|集団安全保障条約機構(CSTO)とは
MAG2NEWS|加速するプーチン離れ。集団安全保障条約機構で高まるロシアへの不満
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