国民審査とは?投票方法や問題点、法改正も解説

国民審査とは?投票方法や問題点、法改正も解説

最高裁判所(最高裁)の裁判官がその職責にふさわしいかどうかを、国民が直接投票する制度が国民審査です。衆議院議員総選挙と同時に実施されます。

最高裁の裁判官は、どのように選ばれているのでしょうか。地方裁判所(地裁)など下級裁判所の裁判官との違いや司法権の独立に加え、国民審査制度の問題点法改正についてもまとめました。

これまでに、国民審査によって罷免された人がいるのかどうかも触れています。

国民審査とは

国民審査の正式名称は「最高裁判所裁判官国民審査」といい、日本国憲法や国民審査法に定められています。最高裁の裁判官を、国民が直接審査する制度です。

国民審査は、衆議院総選挙と同時に実施されます。最高裁の裁判官のうち、以下のいずれかに当てはまる人が対象です。

  • 任命後初めて衆院選を迎える裁判官
  • 前回の国民審査から10年が経過した裁判官

国民は、「その職責にふさわしいかどうか」を直接投票します。

国民審査の投票方法

国民審査の選挙権を持つのは、衆院選と同じ18歳以上の日本国民です。

投票に行くと、有権者は衆院選の小選挙区・比例代表・最高裁裁判官国民審査の3枚の投票用紙を受け取ります。

国民審査の投票用紙は、対象となる裁判官の名前が一覧となっています。その中に「やめさせたい」と思う裁判官がいれば、名前の上の欄に「×」をつける仕組みです。やめさせる必要がないと思う場合は、何も記入しません

「×」をつけられた票数が、何も記入されていない票数を上回った裁判官は罷免されます。ただし、投票総数が有権者数の100分の1に達さないときはこの限りではありません。

衆院選やその他の選挙の流れや投票方法は、こちらの記事を参考にしてください。
【関連記事】選挙はどのように行われるの?衆議院議員選挙の仕組みと流れをわかりやすく解説
【関連記事】初めての投票!当日の流れや選挙の種類を徹底解説

裁判官の身分や選ばれ方

最高裁や下級裁判所の裁判官は、階級によって「判事」または「判事補」と呼ばれます。

裁判所の仕組み

日本の裁判所は、終審裁判所である最高裁と、地裁などの下級裁判所があります。下級裁判所は全国各地にあり、種類は以下の通りです。

  • 高等裁判所
  • 地方裁判所
  • 家庭裁判所
  • 簡易裁判所

慎重に裁判を行うため、第一審・控訴審・上告審と3回の裁判が受けられる三審制が設けられています。例えば、地裁の第一審での判決が不服だと考える場合、期限内であれば高裁に控訴が可能です。

ただし、上告審が受けられるのは「控訴審の判決に憲法違反や憲法解釈の誤りがあるとき」または「最高裁の判例に反するとき」に限られています。

司法権の独立とは

裁判所は、司法権を担っています。司法権とは、法律を適用して民事紛争や刑事事件を解決する権限です。国会が持つ立法権、内閣が持つ行政権とともに「三権分立」を保っています。

三権分立のため、国会や内閣の干渉を受けずに厳正・公正な裁判を実施することが重要です。そのために裁判所だけに司法権を与えることを「司法権の独立」といいます。

裁判官は、例えば首相の判断などで辞めさせることは出来ません。裁判官が罷免されるのは以下の場合のみです。

  • 心身の故障のため職務ができないと決定された場合
  • 弾劾裁判(憲法違反などで訴追された裁判官に対し、国会が行う裁判)
  • 国民審査(最高裁裁判官の場合)

三権分立については、こちらの記事を参照してください。
【関連記事】三権分立とは?仕組みや各機関の役割をわかりやすく解説

最高裁判所の裁判官

最高裁裁判官の任免については、日本国憲法79条などで定められています。

最高裁は長たる裁判官(最高裁長官)1人と14人の裁判官の計15人で構成されており、長官は内閣の指名に基づいて天皇が任命する仕組みです。それ以外の裁判官は内閣が任命します。

最高裁裁判官は、高裁長官など下級裁判所で長く判事を務めた人も就きますが、そのほかのキャリアを積んだ人も任命されることが特徴的です。例えば、弁護士検察官学者(大学教授など)といった職業の人です。

人選の過程は公開されていませんが、出身キャリアごとの人数がバランスを保つように選ばれていると言われます。

地方裁判所・高等裁判所の裁判官

下級裁判所の裁判官は、最高裁が指名した名簿により、内閣が任命します。実質的には最高裁による人事です。

司法試験に合格し、司法修習を修了すると検察官・弁護士・裁判官(判事補)になる資格を得られます。判事補を10年経験した者の中から、判事に任命されることが一般的です。

ただし簡易裁判所の判事は、司法修習を終えた人以外でも必要な知識があれば任命されることがあります。

国民審査の問題点や法改正

国民審査制度には課題も指摘されており、法改正も実施されました。

過去に罷免された人はいる?

2022年12月現在、国民審査の結果罷免された裁判官はいません。これまで最も「×」が多かった例でも、有効投票数の約15%でした。

国民審査は、最高裁裁判官の職責にふさわしいかどうかを国民が直接投票できる重要な機会です。しかし実際には、政治家のような選挙活動が行われるわけではなく、世間の関心や情報量も多くありません。

判断基準がわからないため、何も書かずに投票する人も多いのが実情です。そのため、国民審査は形骸化しているとも指摘されています。

「形骸化」を防ぐには?

衆院選の前になると、選挙活動ほどの量ではないものの、マスメディアが国民審査制度や対象となる裁判官について報じることがあります。例えば、直近で最高裁が判断を示した判決や決定で、各裁判官がどのような意見や立場だったのかをまとめるケースなどです。

他に、最高裁の判決や決定があった時は大きく報じられるため、各裁判官の意見などを知るきっかけになります。

改正国民審査法成立で海外からも可能に

海外に住んでいる18歳以上の日本国民には、衆院選などの国政選挙で投票ができる在外投票制度があります。しかしこれまで、国民審査は投票ができませんでした。

このことに問題があるとして、国を相手に裁判が起こされました。

被告である国側は、国民審査は民主主義にとって不可欠な制度とまでは言えない、選挙権とは本質的に異なるものであるなどとして、現行制度が正当だと主張します。

また、衆院選は解散によって実施されることも多いため、裁判官の名前を印刷した投票用紙を短い準備期間中に世界各国へ届けるのは困難だとしました。

しかし2022年5月に最高裁は、国民審査の在外投票が認められていないのは「憲法に違反する」と判断します。その判断を受け、2022年11月に国会で改正国民審査法が成立しました。

法改正によって今後、国民投票の在外投票が実施されることとなります。投票用紙の準備の問題については、1から15までの番号を印刷することで対応する予定です。

在外投票や法律の改正方法については、こちらの記事でまとめています。
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まとめ

  • 国民審査とは、最高裁判所の裁判官がその職責にふさわしいかどうかを、国民が直接審査する制度。衆議院総選挙と同時に実施される。
  • 最高裁裁判官は、下級裁判所で裁判官を務めてきた人の他にも、弁護士や検察官、学者出身の人が任命されることがある
  • これまで国民審査の結果によって罷免された最高裁裁判官はいない
  • 国民審査の形骸化や、海外の有権者が投票できない問題が指摘されてきた。2022年の法改正で、国民審査にも在外投票が認められることとなった

 

<参考>
『政治・経済用語集 第2版』山川出版社、2019
『2021新政治・経済資料 三訂版』実教出版編修部、2021
最高裁判所裁判官国民審査法 | e-Gov法令検索
総務省|国民審査|制度のポイントを知ろう!
裁判官 | 裁判所
裁判官 | 伊藤塾
裁判官になるには|マナビジョン
最高裁判所判事一覧表
最高裁の裁判官どう選ぶ? 弁護士に学者、女性の就任はいつから
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