最近では、ロシアのウクライナ侵攻のニュースなどで国際法という言葉をよく耳にするようになりました。
国際法とはどんな法律なのか、誰が決めているのか、違反したらどうなるのかといった国際法の基本についてわかりやすくまとめています。
国際法とは
国際法とは、国と国の関係についての法のことです。国家領域に関するもの、人権について定めたもの、戦争についての決まりなど多岐に渡ります。
日本では国際公法とも言い、明治期までは万国公法ともよばれていました。
国際法は世界的に共有されている法規範で、世界各国の共通認識で作られる特殊な法です。
国際法は条約と国際慣習法とで構成されます。条約とは、文書にした国と国との約束のことで、国際慣習法とは、古くからの習慣が法となったものです。
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国際法の代表例
国際法は世界的な法規範で、一般的には国と国の秩序を保つために政治・安全保障・経済・人権・環境など、国民生活に影響を与える様々な分野で国際的なルールの形成が日々行われています。
結果として成立したルールには国際条約、国際慣習法があり、内容も多岐にわたります。
国際法の代表例として、国際連合憲章・ジュネーヴ条約・日米安全保障条約・国連海洋法条約などがあります。
国連海洋法条約(日本・沖ノ鳥島の事例)
日本の最南端に位置する沖ノ鳥島は、日本の領海を定めるうえでも重要な島です。
日本政府は1982年に成立した国連海洋法条約を根拠に、沖ノ鳥島は島であり、日本の領土であると主張しています。
満潮時には岩のような2つの小島(海抜 70cm )がわずかに残るだけで、どちらも波の浸食による水没の危機にさらされています。
日本政府はこの2つの小島に約 300億円を投じて護岸工事を行い、守っています。
しかし中国は、沖ノ鳥島は「島」ではなく単なる「岩」にすぎないとして、同島の周囲に排他的経済水域を設定することに対し異議を唱えています。
中国はこうした主張に基づいて、特に2004年以降、沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域内で、日本の了解なく、海洋調査にとどまらない軍事的活動を行っています。
国際法成立の背景
国際法はどのように確立されたのでしょうか。
17世紀の国際法
国際法の起源は1625年に遡ります。「国際法の父」と呼ばれるオランダの法学者フーゴー・グロティウスが「戦争と平和の法」という本の中で国家間、戦争にもルールが必要であると発表したのが国際法の概念のはじまりです。
当時のヨーロッパは国境が曖昧で、国同士の紛争が絶えませんでした。
17世紀にはヨーロッパ全土の宗教戦争が激化し三十年戦争が起こります。
この戦争を終結させるために成立したのが1648年のウェストファリア条約で、世界最初の近代的な国際条約とされています。
20世紀の国際法
第一次世界大戦、第二次世界大戦の発生により、国際法は当事者同士のルールから世界のルールへと変化しました。
アメリカ大統領のウッドロウ・ウィルソンが第一次世界大戦中に発表した「14カ条の平和原則」に基づき、1920年に国際連盟が発足しました。国際連盟は歴史上はじめての世界規模の共同体です。
現代では、国際法は人権や環境など世界共通の問題に取り組む役割も持つようになっています。
日本における国際法
日本では、1897年「国際平和の維持及び国際正義の確立に貢献」することを目的として国際法学会が成立しました。
法律学の分野では日本で最も古い学会で、国際法学会は、国際公法、国際私法や国際政治・外交史の理論と実践に関する研究を行っています。
1920年代後半には国際連盟法典編纂事業に関する研究と報告を行うなど多くの功績を残し、国際連盟からも日本の国際法学会の貢献は高く評価されています。
1904年には、同学会はノーベル平和賞を受賞しています。
国際法に違反するとどうなる?
国際法は「法」の名がつくため、違反したら明確な罰則があると考える人もいるかもしれません。
しかし、各国の法律の頂点には国家があり国家が罰則を決めたり国民を罰したりする一方で、国際法の頂点となる組織が存在せず、違反した国を罰する権限もありません。
したがって、国際法に違反した場合の厳密な直接的罰則は存在しないというのが国際法の特殊な特徴です。
ただし、重大な違反の場合は経済的制裁などで世界から孤立することになりかねません。罰則は無くても、国際法には大きな影響力・抑止力があると考えられています。
1920年に成立した国際司法裁判所は、国際法に従って国家から付託された国家間の紛争を解決する役割を担っています。
さらに、正当な権限を与えられた国連の主要機関および専門機関から諮問された法律問題について勧告的意見を与えています。
国際法違反の事案は国際司法裁判所によって裁かれることになります。
ロシアのウクライナ侵攻
国際法で戦争は原則として違反とされますが、現実に戦争は起きています。国際連盟はその戦争を制圧するための武力行為を認めています。
ロシアのウクライナ侵攻は世界各国から国際法違反と考えられています。
1928年に戦争放棄を宣言する国際条約「パリ不戦条約」が成立しており、ウクライナとの国際紛争を武力で解決しようとしているロシアはこの国際条約に違反するという見方が強いためです。
しかし、ロシア側は同条約では禁じられていない、個別的自衛権や集団的自衛権の行使などの名目で各地で戦争を起こしており、国際法には違反しないとの主張を続けています。
日本の南極調査捕鯨が条約違反に
日本は1982年に商業捕鯨が一時停止されて以降、南極海と北西太平洋で調査捕鯨を開始しました。
商業捕鯨再開を目指して、必要となる科学的情報を収集するためです。しかし、2010年にオーストラリアが日本の第2期南極海鯨類捕獲調査を「実態は商業捕鯨であり国際捕鯨取締条約に違反する」として国際司法裁判所に提訴。
対して日本政府はこの調査捕鯨を「合法的な科学調査」であると反論してきましたが、2014年に国際司法裁判所は日本の主張を退け、南極海における現行制度での調査捕鯨の中止を命じる判決を下しました。
まとめ
- 国際法とは、「国と国の関係についての法」のこと
- 国際法の概念は17世紀のヨーロッパが起源で、時代と共にその役割を変えてきた
- 国際法は世界的な法規範であり、違反しても厳密な罰則は存在しない特殊な法である
<参考>
政治ドットコム | 国際法とは?世界のルールと日本の関係について簡単解説
トライイット 5分でわかる!国際法と国際司法裁判所
コトバンク | 国際法とは
コトバンク | 国際法学会
国際連合広報センター|国際法
国際連合広報センター |国際司法裁判所(ICJ)-よくある質問-
いいね!Hokudai | 国際法ってどんなもの
参議院 沖ノ鳥島をめぐる諸問題と西太平洋の海洋安全保障
日本財団図書館
政治ドットコム 国際法とは?世界のルールと日本の関係について簡単解説
国際法学会 国際法学会のホームページへようこそ
政治ドットコム 国際法とは?世界のルールと日本の関係について簡単解説
経団連 国際法から見たロシアのウクライナ侵略への対応
日本経済新聞 戦争は国際法で防げるか 大国間の衝突は回避
長友国際法律事務所 ロシアの行動と国際法について国際弁護士が解説|パリ不戦条約違反になるのか
日本経済新聞 まさかの敗訴…捕鯨協会会長の驚きといらだち
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